1月20日 NY州の医療再保険プラン Source : Profiles in coverage: Healthy New York (SCI)

まだまだ勉強不足であることを思い知らされてしまった。New York州では、医療保険カバー率を高めるために、総合的な対策を打っているそうだ。対策名は、"Healthy New York"。

連邦レベルではなかなか対策の打てない無保険者対策について、州レベルでこんなに積極的に対応しているということは、知らなかった。NYばかりでなく、他の州でも、同様の対策を既に講じているところがあるという。カリフォルニア州(「Topics2004年2月3日(2) カリフォルニアの医療保険法」参照)やGephardt(「Topics2003年4月29日 Gephardtの医療皆保険提案」参照)が、企業の医療保険を義務付けたり、支援しようとしていたのが新鮮に見えていたが、既に、現実のものとなっていることがわかった。

さて、Healthy New York(以下、"HNY")について、上記sourceに基づいて、まとめておく。
  1. NY州では、2000年に、総合的な無保険者対策を法制化した(New York's Health Care Reform Act of 2000)。その主な柱となるのが、Family Health Plus(以下、"FHP")とHNYである。

  2. FHPは、Medicaidの対象となっていない子供を持つ低所得者層も、Medicaidに加入できるようにするというプランである。これにより、低所得者層の無保険者を減少させることができる。

  3. もう一つの柱であるHNYは、中小企業等が提供する医療保険プランに補助金を提供するものである。これにより、保険料が抑制され、中小企業等の従業員の無保険者を減らすことができる。

  4. 具体的には、保険加入者の医療費一人当たり年間$5,000〜$75,000について、その90%を償還するという、再保険制度である。

  5. 加入資格等は次の通り。
    1. 中小企業、自営業者、個人で、過去12ヶ月間、無保険状態であったもの。
    2. 中小企業は、従業員50人未満で、そのうちの30%が年間所得$33,000未満であること。また、医療プラン保険料の半分以上は企業側が負担し、かつ従業員の半分以上が当該医療保険プランに加入していなければならない。
    3. 被扶養者やパート従業員の加入は任意だが、企業側が保険料を負担している必要はない。
    4. 自営業者、医療保険プランを提供していない企業の従業員個人は、所得要件があり、所得が連邦貧困レベルの250%未満でなければならない。

  6. HNYの加入者数は、2001年の施行以来、12万人を超えている。2004年12月1日時点で、76,700人が実際の加入者であり、2004年を通じて、月平均5,500人の新規加入者があった。加入者の約60%が個人従業員、20%が自営業者、20%が中小企業従業員である。

  7. NYのHMOは、HNY対象プランを提供しなければならない。その際、プラン内容は画一であり、選択肢は処方薬を含めるかどうかだけである。処方薬を含めなければ、保険料は約12%低減する。

  8. HMOの保険料は、郡、HMOにより異なるが、加入者のステータスに関わらず、4段階(成人、夫婦、成人1人子供1人、家族)となっている。

  9. HNYに関する州政府の予算は、2004年で$49.2Mである。
本当は、他州の再保険制度についてもまとめておきたいのだが、かなり作業量があるので、別の機会とする。

1月19日 FRBメンバーのサジェスチョン Source : The Economy and Challenges in Retirement Savings (Governor Susan Schmidt Bies, FRB)

上記sourceは、FRBのGovernor、 Susan Schmidt Bies女史が、FEIで行った講演録である。後半部分で、企業年金について、所見を述べているので、その概要を紹介する。
  1. 確定給付プラン(DB)の債務は、2年前に較べて明らかに軽減されている。これは、2004年4月の年金救済法、特に、債務計算に使用する割引率を社債のイールドカーブに合わせたことが、大きく影響している(「Topics2004年4月7日 年金救済法案は最後の山場」参照)。

  2. 転職が一般的となり、労働者もポータビリティのある確定拠出プラン(DC)を求めるようになった。また、企業側も、将来の財務負担を抑制するために、DCを好むようになっている。財務が健全な企業は、DBを廃止してDCに移行してきている。そのため、財務体質の弱い企業のDBばかりが残り、PBGCの運営を脅かしている。

  3. PBGCが問題を抱えているために、DBに加入している労働者の退職所得の確保が危ぶまれている。PBGCの構造的な改善が必要である。

  4. DCには、4000万人の労働者が加入しており、毎年の拠出額は1500億ドル、資産残高は2兆ドルに達する。これだけの大規模になっているものの、まだまだ大きな問題を抱えている。
  5. 第1は、加入者数がまだまだ少なく、拠出額も小さいという点である。加入資格があり、マッチングもありながらDCに加入していない従業員が、多数存在する。また、拠出率も、報酬の4%未満にとどまっている。

  6. 第2に、従業員のDCプランの利用方法に、改善の余地が大きい。資産構成がすべて均等であったり、デフォルトの通りであったりする。また、自社株への投資に偏っており、自社株を選択肢として提供している場合、自社株の構成比が4分の1以上を占めている。

  7. こうした問題を解決するためには、経営側の役割が重要である。例えば、報酬が上がった場合には拠出率を自動的に高めるとか、年齢によってデフォルトのポートフォリオを変更する、などの対策が考えられる。また、第3者機関による従業員投資教育も有効である。

  8. 従業員の方も、金融の知識(financial literacy)を高め、効率的な運用ができるよう、努力する義務がある。行政が提案しているように公的年金に個人勘定が導入されれば、そうした努力は不可欠なものとなる。
前半は、DBプランが危ない、PBGCの制度改正が必要だ、などと、かなりパタナリスティックな主張が続いているが、後半は、金融に関する知識を高めて、公的年金個人勘定に備えなければならない、と、共和党の主張に近いスタンスを取っているように見える。彼女の経歴を見ると、連銀、金融機関を行き来しており、そういう意味では、自立自助の考え方が強いと思われる。そうした金融のプロでも、PBGC改革をサポートするのかなと、少し違和感を感じた。

1月18日 大学生に対する公的支援と税制

Topics 「1月17日 教育支援の効率化」のところで述べたように、アメリカの教育支援策について、レポートをまとめたので、「考察・コメント」に掲載する。

以下、要旨の転載。
アメリカの大学生一人当りに必要となるコストは、年間約2万ドルとなっており、大別すれば、大学による一般補助、奨学金、学資ローン、労働報酬、親の支払い等で賄っている。中でも、公立大学における一般補助の割合の大きさが特徴的である。他方、私立大学では、奨学金や親による支払の割合が高くなっている。

連邦政府、州政府が用意している金銭面での教育支援制度には、奨学金、職業紹介、融資制度、税制優遇措置など、様々なメニューが用意されている。

また、企業の従業員教育に対する支援制度も、奨学金、教育支援プログラム、業務関連教育プログラムなどがあり、それぞれ税制措置が設けられている。

アメリカでは、「生涯教育を支援することこそ活力の源泉」という考え方が貫徹されており、それにしたがって、公的支援、税制措置が用意されている。日本の企業でも、個人のインセンティブを如何に引き出し、効率的に経営に活用することが、人事政策の重要な課題となっており、再度、こうした従業員に対する高等教育支援のあり方を見直すべき時期に来ているものと考える。

1月17日 教育支援の効率化 Source : President Participates in Conversation on Higher Education, Job Training (White House Press Release)

14日、Bush大統領は、フロリダ・コミュニティ・カレッジで講演を行った。若者の教育支援について所信を述べ、教育者、学生からの支援を得るためには、絶好の場所である。

大統領講演のポイントは、次の通り。
  1. コミュニティ・カレッジ制度は、アメリカにとって大変重要であり、今後も充分に支援していきたい。

  2. 連邦政府の奨学金制度(Pell Grants)を効率化(more effective and efficient)する。具体的には、最高限度額を、今後5年間、毎年$100ずつ引き上げて、$4,550とする。また、一定の要件を満たせば、$1,000の特例付加を認める。

  3. 人材投資法(Workforce Investment Act)を改正する。現在、20万人が訓練の対象となっているが、その対象人数を倍増する。
教育と若者にやさしいBush大統領をアピールしようとしたわけだが、単純にハッピーな話ばかりではないはずだ。財政赤字削減を大幅削減すると公約しているからだ。

おそらく、奨学金の方は、額は引き上げるものの、支給要件を厳しくするなどの措置との合わせ技となろう。Kennedy上院議員(民主)も、「とらぬ狸の皮算用」とならぬよう、しっかりと議論を見据える必要があるとのコメントを出している(New York Times)。

なお、Pell Grantsを含め、アメリカの教育支援策(税制を含む)については、現在、レポートをとりまとめ中であり、なるべく早く、掲載したいたいと考えている。

1月16日 経営トップへの道 Source : The CEO's Path to the Top: How Times Have Changed (Knowledge@Wharton)

雇用問題で有名な、Wharton SchoolのCappeli教授の論文が紹介されていたので、内容をまとめておきたい。テーマは、「経営トップに就任するまでの経歴が、1980年と2001年の20年間にどのように変化したのか」というものである。具体的な手法は、Fortune 100にランクされた企業のCEOについて、1980年と2001年で比較している。
  1. 若年化
    経営トップに就任するまでの勤労年数が、約4年短くなっている。また、経験したポストの数も減っている。トップ就任前の当該企業での勤続年数も、約5年短くなっており、外部からの登用も増えている。2001年で生え抜きのトップの割合は45%と結構あるものの、1980年の54%からは確実に減少している。
  2. 女性の進出
    1980年には、Fortune 100の企業には一人も女性のトップはいなかった。それが、2001年には、女性トップが11%も占めている。しかも、平均年齢は、女性47歳、男性52歳と女性の方が若い。また、勤労年数も、女性21年、男性25年と、女性の方が短期間でトップに就任している。生え抜きの割合は、女性32%、男性47%と、女性は外部から登用されているケースが多いことがわかる。
  3. アイビーリーグOBの減退
    アイビーリーグ出身者が34%から30%に低下したのに対し、公立大学(州立など)出身者が34%から50%に上昇した。
  4. 異なる能力を評価
    ある企業にはない能力(文化と呼んだ方がよいかもしれない)を持つ人材が評価されている。そのメリットはなかなか具体的には計測しにくいが、明らかに、今の企業社会では評価されている。
  5. トップ到達年数
    鉄鋼など、業種全体で大きな構造改革が必要となった業種で、トップへの到達年数が短い。
  6. トップになりやすい業務部門
    1970年代は、マーケティング部門からトップに登用されることが多かったが、現在は、財務部門が最も多い。
  7. ヘッドハンターの存在
    経営トップのヘッドハントを扱う企業が増えたことにより、外部からの登用が、以前より容易になった。

1月13日 医療問題への関心 Source : Health Care Agenda for the New Congress (Kaiser Family Foundation)

上記sourceは、昨年の大統領選挙前後、具体的には、2004年11月4〜28日に、電話調査で行った意識調査の結果である。あくまでも意識調査なので、事実関係の正確さは問えないものの、アメリカ国民の問題意識という意味で、参考になると思う。

以下、気がついた部分について、コメントをまとめておきたい。
  1. 医療問題に対する関心
    相変わらず、医療問題に対する関心は高い。民主党員では3位、共和党員でも4位となっており、党派の違いなく、関心が集まっている。
    KAISER1

  2. 医療費高等の原因
    事実関係はともかく、製薬会社、保険会社の儲け過ぎ、医療過誤訴訟が原因と考えている割合が多いことが特徴的である。
    KAISER2

  3. 処方薬価格の抑制
    処方薬価格の抑制は、関心度合いではそれほど高くないものの、抑制策として、カナダからの再輸入、政府による価格交渉などについては、賛成が圧倒的多数となっている。
    KAISER3 KAISER4

  4. 無保険者対策
    企業への税額控除や、政府の公的プログラムの拡充等で、保険加入者を増やす方向に賛成が集まっている。しかし、皆保険を導入することで、低所得者層に係る医療費用をカバーしようとすることは、保険料の負担増という形になるので嫌だ、というのが過半となっている。

    KAISER5

    KAISER6

1月11日 DBプランの延命策 Source : The Bush Administration’s Plan for Strengthening Retirement Security (DOL)

10日、予てから報じられていた通り(「Topics2005年1月7日 航空会社スト回避」参照)、労働省がDBプランの改善策を検討するとの発表が行われた。上記sourceは、その概要である。このほか、Chao労働長官発言プレスリリースなども参考になる。

改善策の柱は、次の3点である。 具体的な内容の検討は、おそらく年内中ということになろうが、当websiteでは、これら改善策を、「DBプラン延命策」と位置づけたいと思う。

これらの策の中には、もちろん、企業にとって有利な事も不利な事も含まれるだろう。しかし、PBGC保険料の引き上げ、可変保険料の色彩の強化は、健全なプランも含めてDBプラン離れを加速させるであろう。また、特に指摘しておきたいのは、検討案の中に、給付水準に関する規制が含まれていることである。PBGCのことを考えれば当然の措置ともいえるが、労使合意に基づく報酬制度の上限規制に繋がる可能性がある。公的関与(優遇税制ならびに支払保証制度)を強化する代わりに給付の上限を行うという発想である。これは、労働報酬に関する労使合意の原則を歪めることにつながる。

つまりは、PBGCという、本来あるべきではない制度がDBプランに付随しているために、こうした問題が発生する。いずれはこうした問題を解消するために、DBプランが自然になくなるか、PBGCを廃止するかの選択肢を迫られるだろう。そうした意味で、「延命策」と位置づけようと思う。