Topics 2004年2月1日〜10日      前へ     次へ


2月2日 年金救済法案の整理
2月3日(1) 年金救済法案の影響
2月3日(2) カリフォルニアの医療保険法
2月4日 Kerry氏優位
2月9日 CBに関する財務省新提案


2月2日 年金救済法案の整理 Source : Pension Interest Rate Replacement Legistlation (The Benefits Group of Davis & Harman LLP)

先月末に賛成多数で上院で可決された(「Topics2004年1月29日 上院が年金救済法案を可決」参照)、年金救済法案(H.R. 3108)について、ポイントをまとめておくと、次のようになる。

債務計算用利率特例掛金(DRC)の減額特例
上院案30年国債→長期社債の利率2004年はDRCの20%のみ拠出
2005年は40%
下院案30年国債→長期社債の利率航空会社のみ対象(H.R. 3521)
政府の対応賛成反対が予想される。場合によっては拒否権発動も。


まさに選挙の年に、議会はなるべく甘い対応を見せておきたいところである。Bush政権とても同じ気持ちではあるものの、積立不足の企業(業界)にばかり甘い顔をしていると、真面目にやっている企業からは批判を受ける可能性がある。場合によっては、DBプランを事実上潰した政権とも言われかねない。また、H.R. 3108に含まれている、債務計算用の利率を長期社債の利率にするという案は、政府自身も提案してきたものである。ここで拒否権を発動すれば、改めて法案を通してもらわなければならず、痛し痒しだ。

2月3日(1) 年金救済法案の影響 Source : 30-Year Treasury Rate v. ERIC Composite Corporate Rate (ERIC)

上記sourceは、上院を通過した年金救済法案(「Topics2004年2月2日 年金救済法案の整理」参照)が及ぼす影響を示した比較表である。年金債務を計算する際、従来通りに30年もの国債を利用した場合の割引率と、長期社債を利用した場合(試算)の割引率を比較したものである。これによれば、1%以上、長期社債の方が高くなり、従って、年金債務が減少することになる。

仮に、年金給付支払額が100ずつ増えていく企業年金で、従業員が毎年一人ずつしかいない企業を考えると、割引率が5%の場合と6%の場合を比較すると、6%の場合の方が、年金債務が約11%少なくなる。割引率が1%異なるだけで年金債務が11%減るのである。

これだけの影響が出るのであれば、企業側は歓迎するだろう。しかも、DBプランを持っている企業がすべて恩恵を被るのだから、受けはいいのだろう。

2月3日(2) カリフォルニアの医療保険法 Source : The Health Insurance Act of 2003 (California Health Care Foundation)

カリフォルニア州のスーパーマーケットで、もう4ヶ月間も、ストならびにロックアウトが続いている。ことの発端は、医療費コストの高騰に耐えかねた企業側が、医療保険の従業員負担を増やす提案を行ったことにある(「Topics2003年10月21日(2) 医療費高騰がストライキにつながる」参照)。最近は、最大の労働組合連合であるAFL-CIOからの協力も入って、1月31日には、1万4000人にものぼる大規模なデモ行進が行われた(関連記事参照)。

労働組合もかなり力を入れているが、スーパー経営側も、一歩も譲歩する気配を見せない。売上高でみると1000万ドル単位の損失となるものの、代替従業員を入れることで、営業を続けている。ストが長期にわたっているため、従業員達の給与が支払われなかったり、さらに、企業が提供している医療保険が数週間内に失効してしまうおそれが出てきている。このため、労働組合側も、早急に交渉を再開したいという思惑があり、より強硬な姿勢を示していると見られる。

日本ではあまり報道されていないが、このように、カリフォルニア州で、医療保険をめぐる労使の議論が先鋭化している理由は、昨年10月に成立した法律にある。上記sourceは、その概要を説明した資料であり、そのポイントは次の通り。

  1. 医療保険法のステータス
    The Health Insurance Act of 2003, or Senate Bill 2 (SB 2)は、2003/9/12に議会で可決され、Davis前知事が2003/10/5に署名、成立した。

  2. SB 2の対象者
    1. 3ヵ月間勤務し、月間最低100時間勤務している従業員。
    2. 従業員200人以上の企業の場合
      2006年1月1日より、強制適用。対象は従業員とその被扶養家族。
    3. 従業員50〜199人の企業の場合
      2007年1月1日より、強制適用。対象は従業員のみ。
    4. 従業員20〜49人の企業の場合
      事業主負担分の20%相当の税額控除が付与されなければ、対象外。
    5. 従業員20人未満の企業の場合
      対象外。

  3. "pay or play"
    企業は医療保険を自ら提供する("play")か、州政府が運営する州医療保険購入ファンド(the State Health Purchasing Fund)に保険料を払う("pay")。このことから、SB 2 は、"pay or play"法とも呼ばれる。

  4. 負担割合
    事業主の負担割合は最低80%、従業員の負担割合は最高20%とする。ただし、連邦が規定する貧困度200%以下の従業員は、負担割合を最高5%とする。

  5. 無保険者への政策効果
    カリフォルニア州には450万人の無保険者がいると見られている。もし従業員規模50以上の企業に適用されれば86万人(18%)、20人以上の企業に適用されれば110万人の無保険状態が解消される。

このように、この法律は、いわばゲッパート案のカリフォルニア版なのである。

現在、このSB 2を巡って、労使は対立している。当然、労働組合は賛成、経営者側は反対である。カリフォルニア商工会議所は、Job Killer Billsの一つとしてこのSB 2を位置付け、徹底抗戦の構えをみせている。テレビなどで反対キャンペーンを張っているうえに、住民投票にかけるよう、請願していた。一審はこの請願を退けたものの、二審は請願を認める判決を行った(関連記事参照)。このため、住民投票は11月にも行われる見通しとなっている。なお、シュワ新知事も、就任前に成立したSB 2に強い疑念を持っていると言われている。

冒頭に述べたスーパーのストライキも、この法律の動向により、長期化する可能性は高い。雇用を通じた皆保険制度が州民の賛同を得られるのかどうか、また、施行された場合に経営に与える影響はどうなのか。壮大なる実験が始まろうとしている。

2月4日 Kerry氏優位 Source : National Overview (MSNBC)

2月3日行われた7州の民主党候補予備選結果が出た。

ArizonaJohn Kerry
DelawareJohn Kerry
MissouriJohn Kerry
New MexicoJohn Kerry
North Dakota John Kerry
OklahomaWesley K. Clark
South CarolinaJohn Edwards

7州のうち、5州をKerry氏が押さえ、代議員数もかなり伸ばした。一方、2位につけているとはいえ、Dean氏は、この日の代議員獲得数はわずか3と、今日の戦果はほとんどないという結果となった。

上記sourceは、これまでの予備選結果ならびに獲得議員数が一覧になっているので、参考になると思う。

恒例により、出口調査における政策評価を掲載しておきたい。

AZ_EXITPOLL_020304
MO_EXITPOLLS_020304
OKL_EXITPOLLS_020304
SCEXITPOLL_020304

依然として、経済・雇用と医療政策に関心が高いことがわかる。次の山場はスーパー・テュースディ3月2日となるが、その前に大勢が決まってしまうかもしれない。

2月9日 CBに関する財務省新提案 Source : Preserving Cash Balance Plans for Workers (IRS)

アメリカの企業年金の一つである、Cash Balance Plan(CB)については、先行き不透明な状況にある。昨年8月、IBMの確定給付型プラン(DB)からCBへの移行について、年齢差別禁止法違反であるとの控訴審判決(「Topics2003年8月2日 IBM敗訴」参照)が出された後、議会でも当面の間、DBからCBへの移行禁止措置が継続されることとなった(「Topics2003年11月14日(2) CB Plan問題は先送り」参照)。

同時に、議会は、DBからCBへの移行措置について、財務省から新たな提案を行うようにも求めていた。

上記sourceは、その議会から求められていた財務省新提案の概要が記されているものである。財務省は、2002年12月にもCBへの移行措置について、提案を行っていた(「Topics2002年12月11日 Cash Balance と年齢差別禁止法」参照)が、IBM敗訴により、事実上、退けられてしまっていた。

CBプランは、既に300以上も存在するうえ、DBプランからの移行を希望する企業も増加しており、法的位置付け(制度自体が年齢差別的であるかどうか)に加え、移行ルールも早急に確立することが求められている。後述するように、今回の移行ルールは、IBM敗訴の事実を受け容れ、上述の2002年12月提案よりはうんと従業員よりのルールとなっている。

CBプランに関する財務省新提案のポイントは、次の通り。

  1. CBプランへの移行に際して高齢従業員のための公平性を確保する。

    1. CBプランへの移行当初の5年間、CBプランで現役加入者が獲得するベネフィットは、(移行する前の)旧DBプランで獲得できたであろうベネフィットを下回ることのないようにする。

    2. 新ルール適用後、"wear-away"(「Topics2003年12月19日 Cash Balance Planがもたらす影響」参照)は全面禁止とする。

    3. 旧DBと新CBの間に格差が生じている場合、超過税(excise tax)を課す。
      1. 超過税額=(旧DBでのベネフィット-新CBでのベネフィット)×100%
      2. 超過税総額≦いずれか大きい方{CB移行時の年金プラン資産超過額、事業主の課税所得}

    4. @の措置を講じなかったことを理由に、プラン自体を不適格とすることはしない。

    5. 旧DBと新CBの間の選択肢を与えられた場合、または、新CBの適用除外となっている場合には、超過税は課せられない。

  2. CBの法的位置付けを明確にすることにより、DB制度を保護する。

    1. CBにおいて、高年齢従業員に付与する拠出クレジットが若年従業員への拠出クレジットを下回らなければ、年齢差別禁止法違反にはならない。

    2. 早期退職割増制度などの移行に伴う措置は、年齢差別禁止法違反とはならない。

  3. CBにおける利子クレジット上限額をはずす。

    1. CBプランが市場利子率を上回る利子クレジットを付与しない限り、個人の仮想口座の残高を一時金で支払うことを認める。これにより、"whip-saw"(「Topics2003年12月19日 Cash Balance Planがもたらす影響」参照)は完全になくなる。

    2. 市場利子率の定義、一時金支払に関する計算式等については、財務省が決定する。

これらの新財務省提案を読んで、気付いた点をいくつかまとめておく。

なお、本件に関連して、アメリカのCBプランを巡る議論の背景と日本のCBプランへの影響については、「年金情報(2004年1月19日)」掲載の『加熱するキャッシュバランス論争』を、是非ご参照いただきたい。著者の関根賢二氏は、日米の企業年金制度に通じている実践的プロであり、とてもわかりやすく解説しています。

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