退職に関するアメリカ人の意識が変化しているという。昔のretirementのイメージは、年金をもらってフロリダでのんびり余生を過ごす、というものだった。しかし、今の労働者が思い描く「退職」は、そうしたイメージとはほど遠いものとなっている。
当websiteでは、以前にも、労働者の意識が変わっていることを紹介した(「Topics2002年10月18日(2) アメリカの高齢者も働きたい」参照)。上記sourceは、そうした労働者の意識の変化が、年金プランや医療プランにどのような変化をもたらすことになるのか、今後の高齢者のニーズとは何なのか、というテーマについて、アンケート調査をもとにまとめたものである。
ポイントは次の通り。
- 退職のイメージが大きく変わってきており、退職後も一定の労働はしつつ、退職後の所得は自分でマネージするとの意識が強まっている。
- 労働者にとって、退職後の最大の懸念は、医療費および健康状態である。そして、医療保険に関しては、Medicareと企業が提供する退職者医療保険をあてにしている。
- しかし、企業が提供する退職者医療プランについては、従業員の負担増を見込む人が圧倒的に多い。
- Medicareについても、対象年齢を上げたり、所得制限を設けることで、加入者を限定することになるのではないかと予想する労働者が多い。
- また、最近の景気の不透明感が、企業年金のコストアップにつながっていると認識している労働者は6割にも達する。
- 労働者達は、企業年金プランは、給付水準の引き下げや、従業員の負担増など、厳しい見直しが行われる可能性が高いと見ている。
- 企業側は、DBのCBへの移行、DBの廃止・凍結などの措置を取りつつある。
- 公的年金については、大きな変革はないだろうと見ている労働者が約半数いるが、一方で6割の労働者が、公的年金についても自ら管理・投資したいと考えている。
処方薬のカナダからの輸入問題で、ついにミネソタ州知事がアクションを起こした。
州知事は、昨年から、カナダからの処方薬輸入を州として推進することを公表し、FDAにも申し入れを行っている(「Topics2004年1月20日(2) 処方薬再輸入のパイロットプラン」参照)。
ミネソタ州のプレス・リリースによれば、カナダの処方薬販売会社を紹介するwebsiteを開設したとのことだ。このwebsiteで直接注文することはできないが、郵便かFAXで注文できるという。州として直接のアクションはとらないものの、カナダの販売会社と提携して、処方薬の注文等に関する情報を提供することにしたのである。
それにしても、このwebsiteで協力しているカナダの薬販売会社2社は、たいした勇気である。アメリカの製薬会社が、アメリカへの再輸入を推進する販売会社には卸さないと脅している中、堂々とミネソタ州民からの注文を受けますと言っているのだから。まあ、それだけ、アメリカからの注文を受けることがカナダでは一般的になっているということの裏返しということなのかもしれない。
13日のtopicsで、ミネソタ州知事のアクションを紹介したが、それに関連するFDAの対応がちょっと変わっている。本来なら、一歩踏み込んだミネソタ州知事のアクションに対して、安全性の観点から問題があると反論するのが想定されるリアクションである。
ところが、上記sourceによれば、オンライン販売会社を選定するにあたり、ミネソタ州がカナダのオンライン販売会社の適正性を調査したところ、多くの販売会社に問題があることがわかり、結局、2つの販売会社しか適正と認めなかった経緯があるようだ。FDAは、ミネソタ州のアクションそのものに反論するのではなく、カナダのオンライン販売会社は一般的にこんなに安全性の観点から問題があるのだぞ、と指摘し、カナダ厚生省に、規制を強化するよう、レターを出したのだ。
州知事や政治家に真っ向から反論するのではなく、周辺情報から問題点を指摘してイメージを悪化させる作戦に出た訳だ。いかにも官僚らしいやり方である。
昨日(「Topics2004年2月18日 FDAのちょっとおかしな反応」参照)の続きで、FDAのwebsiteを見ると、オンライン販売の処方薬で贋物が出回っているケースが続出している、との警告が出されている。オンラインによる処方薬購入の危険性について訴えているのである。
上記sourceによれば、カリフォルニア州でも、カナダからの処方薬購入を促進する動きが、議会を中心に盛んになっているそうだ。処方薬の安全性を盾に現行の再輸入禁止を継続するのか、医療費抑制の一方策として、再輸入の道を拓くのか。いよいよ政治的課題として浮上してくる可能性が高まりつつある。とりあえず、来週の2月24日にWashington DCで予定されている、「処方薬をめぐる州知事サミット」が一つの山場となりそうだ。
アメリカの製造業における雇用者数が激減しているという。特に、2001年の景気後退移行の減少が著しい。
次の図は、上記sourceからの引用であるが、2004年1月時点での雇用者数は、1430万人。景気後退が始まる8ヶ月前の2000年7月時点と較べて、300万人、17.5%減。ピークであった1979年と較べると、520万人減である。
雇用者数が減少している理由として、上記sourceは、次のような諸点を挙げている。
- 2001年以降の要因
- アメリカ国内の資本財需要の減退
- 貿易相手国における、資本財、消費財の需要の減退
- 長期的要因
- 製品需要の減退
- 生産性の向上
- 外国製品の競争力向上
- 派遣社員の増加
統計上は、こうした分析となっているのだが、羨ましいのは、このような製造業の雇用者減少をあまり憂慮していないという点である。上記sourceでは、次のように述べている。
"The labor market in the United States is quite flexible, so even if gains in productivity, shifts in demand, or increasing international competition bring about permanent job losses in manufacturing, the effect on aggregate employment is not permanent, lasting only through a period of adjustment during which displaced workers obtain other employment."この柔軟な労働市場構造こそが、アメリカ経済の強さの根源であると思う。
2月2日に発表された、2005年度大統領予算案には、昨年の大統領案同様、貯蓄奨励のための提案が盛り込まれている。全体的に見て、昨年よりも税制優遇策を縮減するなどの変更を加え、実現することに力点を移しているものと思われる。当然、大統領選を意識していることはもちろんだが、巨額化した財政赤字のファイナンス対策として位置付けるという側面もあるということを念頭に置いておく必要があるだろう。
以下、大統領提案のポイント。
新 提 案 提 案 概 要 現行制度からの移管
Lifetime Savings Accounts (LSA) ・拠出上限額は年間$5,000。
・年齢要件、所得要件なし。
・拠出額は所得控除不可。ただし、累積投資収益は非課税。
・給付時は完全非課税。年齢要件、目的要件なし。
・子供名義のLSAへの拠出可。ただし、21歳時点で子供の資産となる。
・配偶者のLSAへの資産移行可能。・Coverdell Education Savings Accounts (ESAs)、Section 529 Qualified State Tuition Plans (QSTPs)からの資産移管可。
・移管期限は、2005年12月31日。
・ESAからLSAへの移管限度額=2003年12月31日時点での口座残高+2004年の拠出額・投資収益
・QSTPからLSAへの移管限度額=いずれか少ない方{$50,000、2003年12月31日時点での口座残高}+2004年の拠出額・投資収益
・LSAへの移管額のうち、ESA、QSTPへの2004年拠出分とできるのは、上限$5,000とその投資収益のみ。Retirement Savings Accounts (RSA) ・拠出上限額は年間$5,000。夫婦の場合は、どちらか少ない方{夫婦年間所得、$10,000}。
・年齢要件なし。
・拠出は所得からの支出のみ認められる。所得の上限はなし。
・拠出額は所得控除不可。
・58歳以上、死亡、障害時の給付は非課税。
・その他の給付で拠出額を超える分は、通常の所得課税+10%の超過課税(excise tax)。・Roth IRAは、すべてRSAに変更する。
・通常のIRAからRSAへ移管可能。
・所得控除できなかった拠出額を超える分は、移管時に通常所得として課税。2006年1月以前の移管については、4年に分けて課税所得に算入する。
・IRAからRSAへの移管に関する所得要件はなし。Employer Retirement Savings Accounts
(ERSAs) ・2005年に制度施行。
・すべての企業が利用可能。
・基本的なルールは、現行§401(k)プランを適用する。
・従業員の年間拠出限度額は、2005年$14,000、2006年$15,000。企業拠出分(マッチング)を含めた年間上限は、どちらか少ない方{報酬全額、$41,000}。・従業員拠出は課税でも非課税でもできるが、課税拠出分と投資収益を適格給付した場合には、課税されない。
・70.5歳(または70.5歳以降の退職時)までに給付を開始しなければならない。・現行の§401(k)プランは、ERSAと名称を変えて、従来通りの運営を行う。
・§403(b)プラン、§457プランは、ERSAに統合することも、独自に運営することも可能。ただし、ERSAsに統合しない場合には、2005年以降の拠出は不可。
・Savings Incentive Match Plans for Employees (SIMPLE)、Simplified Employee Pension (SEP)も、ERSAに統合可能。
上記sourceは、アメリカの401(k)プランの実態を、様々な統計から描いたものである。やはり、日本の確定拠出年金とは、だいぶ違う姿が浮かび上がってくる。
まずは、上記sourceを読んでいただきたい。今頃こんなコラムを堂々と掲載するところに、労働政策研究・研修機構(JIL)の認識の甘さが窺われる。
なにせ、JILのwebsiteでは、こんな統計を掲載しているのだから、上記sourceのような指摘を受ければ、びっくりするのも仕方がないか。
いやいや、JILだけが知らなかったのではないだろうか。なにせ、OECDなどでは、ちゃんとこの組織率とカバー率の違いを説明しているし、当websiteですら、関連の指摘を行っている(拙稿「アメリカの労働組合の現状 (2002/12/12) (PDF)」参照)。こんな認識で、日本や欧州の労働政策を語ろうとするのは無理ではないでしょうか。