2月26日(1) 医療過誤賠償法案はお蔵入り Source : GOP to Push Medical Malpractice Bill (AP)

医療過誤訴賠償法案は、ついにお蔵入りになってしまったようだ。上院での採決に必要な支持が得られないことが明らかになったためである。

もともと、同法案は、医師会、病院会の強いサポートによって出てきたものであり、医療過誤保険料を若干抑制できるものの、医療費全体を抑制する効果はほとんど見込まれていなかった(「Topics2004年1月19日 医療過誤賠償法案の効果」参照)。もっと端的に言えば、「医者」対「弁護士」の構図であり、それぞれが、共和党、民主党をサポートしてきたという経緯である(「Topics2003年5月7日 藪医者 vs. 救急車追っかけ弁護士」参照)。

これにより、再び患者の権利法への関心が高まる可能性もあるが、いずれにしても、Edwards候補にとっては、ほっと一息というところであろう。最強の支持母体である、弁護士からのサポートを確固たるものにできたといえるからである。他方、いざ大統領選挙となった場合、高額の報酬目当ての弁護士の見方をしていると非難される可能性もあり、今回のお蔵入りが吉と出るか凶と出るか、微妙なところではある。

2月26日(2) RX Summit Source : Capitol Hill summit features governors, congressional leaders on reimportation issue

「Topics2004年2月19日 加州も参戦」で紹介した通り、24日、ワシントンDCで、処方薬、特にカナダからの再輸入に関する州知事サミットが開催された。

同サミットに参加した州知事および彼らの施策は、次の通り。


なお、同サミットには、U.S. Senators John McCain (R-AZ)、Byron Dorgan (D-ND)、Congressmen Bernie Sanders (I-VT)、Gil Gutknecht (R-MN)、Rahm Emanuel (D-IL)などの連邦議員も参加したそうだ。

こうした州、州連合主体の運動は、連邦政府が無視できない広がりを見せ始めている。

2月25日 同性婚に対する現実的な対応 Source : President Calls for Constitutional Amendment Protecting Marriage (The White House)

Bush大統領が、同性婚禁止に向けて、憲法改正を議会で議論するよう、正式に意思表明を行った。

Bush大統領は、既に、その用意があることを、一般教書演説で表明しており、突然のことではない(「Topics2004年1月21日 State of the Union」参照)。それでも、一般教書からわずか1ヶ月余りで、具体的な憲法改正要望を表明するという、そのテンポの速さは少し意外であった。

当websiteでは、employee benefitsとの関連で関心を持っており(「Topics2004年1月14日 Bushチームの結婚キャンペーン」参照)、そうした観点も含め、ここで論点を整理しておきたい。

  1. 現行法制
    まず、憲法では、州に関する条文として、次のように規定している。

    Article IV
    Section 1. Full faith and credit shall be given in each state to the public acts, records, and judicial proceedings of every other state....


    つまり、他州で認められた法的手続きは、各州でも尊重されなければならない。Bush大統領は、このフレーズにより、ある州で同性婚が法的に正式に認知されると、それを全州で尊重しなければならなくなる、と認識している。

    また、1996年、クリントン政権時代に、The Defence of Marriage Actが成立している。この法律では、

    1. 同性婚については、他州の法律を尊重するよう求められることはない
    2. 連邦法上の「結婚」を、異性間のものと明確に定義する

    と規定している。同法は、上院85 vs. 14、下院342 vs. 67の圧倒的多数で可決された。同時に、38の州fが、同様の内容の州法改正を行った。
  2. 州・自治体の動き

    連邦レベルでは、上記のThe Defence of Marriage Actが可決されたものの、同法成立後、州・自治体では、同性婚を認める動きが加速している。以下、時系列的にそれらを列記してみる。

    • 2000年、Vermont州が、同性婚を異性婚と法的に同等であると認めた。
    • 2000年のセンサスによると、全国で60万組の同性カップルが同居している。これは、全世帯数の約0.5%に相当する。
    • 2003年、New Jersey州、California州で、同性カップルに法的地位を与えるとの州法を可決した。
    • 2003年11月、Massachusetts州最高裁判所が、「州政府が同性婚を禁止しているのは州憲法違反である」との判決を下した。
    • 2004年2月12日、San Francisco市は、3,000以上の結婚証明書を同性カップルに対して発行した。シュワ加州知事は、州司法長官に対し、市の結婚証明書の発行を差し止めるための法的措置を取るよう指示した。
    • シカゴ、プラッツバーグの市長も、同性婚に反対しないと表明している。
    • 最新の世論調査では、3分の2のアメリカ人が、同性婚に反対している。

  3. Bushの憲法改正提案の方向性

    上記sourceでは、Bush大統領は具体的な改正提案を行っていないし、個別の法案を支持しているわけでもない。しかし、側近筋からの情報では、大統領は次のような意向を持っているようだ。

    • 共和党のMarilyn Musgrave下院議員(コロラド)が提出している修正法案に、大筋賛成。

    • Musgrave法案のポイントは、次の通り。

      1. アメリカにおける「結婚」とは、男女によるものとの定義を明確にする。
      2. 州が望む場合には、同性婚に対する法的地位を与えることを認めるが、他の州がその法的地位を尊重する必要はない。

  4. 憲法改正のための手続き

    憲法に定められている改正手続きは、次の2通り。

    1. 連邦議会の上院、下院とも、3分の2の賛成で可決したうえで、4分の3の州の承認を得る。
    2. 3分の2以上の州議会の支持により憲法会議を開催し、修正案を可決したうえで、4分の3の州の承認を得る。

    ただし、これまでアメリカ憲法には27回の修正が加えられているが、いずれも、上記1の手続きを経て行われている。

  5. 大統領選への影響

    当然、秋の大統領選を睨んでの意思表明であるが、現在、民主党で指名争いをしている2氏の立場は、次の通りである。

    • John Kerry上院議員は、大統領提案に対する声明を発表している。同性婚には反対だが、同性婚を認めるかどうかは州の問題であり、全面禁止するような憲法改正には反対であるとしている。また、同性カップルに対しては、法的地位を付与することで、権利を守りたいと主張している。

    • John Edwards上院議員も、声明を発表し、Kerry候補と同様の主張をしている。

    議会共和党の中では、賛否両論分かれている。雰囲気的には、何もそこまでいきり立たなくても、という感じだ。ただし、先に述べたように、世論調査では、同性婚反対が多数を占めており、サイレント・マジョリティへのアピールになる可能性もある。

  6. 企業の対応(employee benefits)

    昨年11月のマサチューセッツ州最高裁の判決を受けて、Workforce Managementという雑誌が、その影響をまとめている。結論として、同性婚が法的に認められるようになったとしても、企業のemployee benefitsへの影響は極めて限定的、とされている。以下、その概要。

    1. 1980年代初頭、Village Voiceという新聞社が、アメリカで初めて、同性カップルにベネフィットを提供した。また、1992年、マサチューセッツにあったLotus Development(現IBM子会社)が、上場企業では初めて、ベネフィットを提供した。1980年代初頭より、全国で約6,000の企業が、約125,000組の同性カップルに、医療保険等を提供している。また、Fortune 500のうち、マイクロソフト、フォード、タイム・ワーナーなど198社が、医療保険等を提供している。2000年時点で、従業員5000人以上規模の企業の21%が、こうしたベネフィットを提供している。

    2. こうして、企業が同性カップルに異性婚と同様のベネフィットを提供している理由は、イデオロギーではなく、従業員の間の公平性でもない。人材の採用、引き止め、企業のイメージ作りなど、人事上のメリットが大きいからである。

    3. そうしたベネフィットを提供したとしても、それに伴う追加的な医療費コストは、せいぜい1〜2%増に過ぎない。また、同性カップルにベネフィットを提供したとしても、宗教団体、保守派団体が不買運動を展開するなどの圧力をかけてくることもない。


こうして見ると、本件に関して、企業側から積極的なサポートを得られるという感じではなさそうだ。また、憲法改正の内容も、現行法制以上のものではないようだ。現行宗教団体等の保守的支持層からの強力なサポートの代償がどれほどになるのか、注目しておきたい。