8月19日 Aetnaも大幅撤退 
Source :Aetna warned it would drop out of Obamacare exchanges if its merger was blocked (Washington Post)
8月16日、大手保険会社のAetnaが、Exchangeへの保険プラン提供を大幅に縮小すると発表した。2016年は15州のExchangeに参加していたが、2017年はDelaware, Iowa, Nebraska, Virginiaの4州だけとする(The Atlantic)。UnitedHealth、Humanaに続き、大手保険会社としては3つ目の大幅撤退である(「Topics2016年4月21日 UnitedHealth全面撤退」、「Topics2016年7月24日 Humanaも撤退」参照)。撤退理由は事業の赤字が続いていることである。

この発表に対して、連邦議会民主党は強く反発している。7月に連邦司法省がAetnaとHumanaの合併に反対することを決定し、提訴したことに対する脅しであると捉えている(「Topics2016年7月24日 Humanaも撤退」参照)。

一方、このAetnaの決定により、AZ州Pinal Countyでは、2017年にExchangeで保険プランを提供する保険機関がなくなってしまった(Bloomberg)。40万人の人口を抱えるcountyにとっては一大事である。

また、South Carolina州、Alabama州、Georgia州(一部)、North Carolina州(一部)では、提供する保険会社はたった一つになってしまう。これでは、個人に保険プランの選択肢を用意することで競争を促し、コストを下げるという基本的なコンセプトが崩れてしまう。

大統領選を控え、Obama政権、民主党にとっては厳しい現実が突きつけられている。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

8月18日 Private Exchangeが広がらない 
Source :Private health exchanges: Coming to your employer? (CBS)
上記sourceによると、Starbucks, Darden Restaurants, Searsなど、大規模な従業員を抱える企業がPrivate Exchangeを採用しているという。Private Exchangeを採用した企業数は、2015年倍増、2016年35%増と、伸び率は高いものの、 企業全体から見ると3%を占めるに過ぎない。

上記sourceでは、広がりを欠く理由を、企業がこのプログラムを知らないか、またはコストを抑制できるとはみていないからだ、と解説している。大手の人事コンサルタント会社が社運をかけて運営しているプログラムを、全米の企業が知らないということはないだろう。やはり、コスト抑制効果が見極められないのだと思う。

※ 参考テーマ「Private Exchange

8月17日 退職後の医療費 
Source :Retirees Need $130,000 Just to Cover Health Care, Study Finds (Bloomberg)
Fidelityの調査によると、平均的な65歳女性は、その後$135,000を医療費として支出する。一方の男性は$125,000と見込まれる。夫婦で$260,000が必要となるというのである。

この金額は、昨年よりも6%アップ、2014年からは18%のアップとなった。
Medicareでも医療費の高騰が続いている証左である。必要となる費目は次のようになっている。
いずれも結構なボリュームである。

ここには介護費用は含まれていない。月$8,000の介護サービスを3ヶ月続けるとすると、さらに$130,000が必要となる。

とても普通の人たちが退職後所得で賄える金額ではないように思うが、上記sourceでは、それでも工夫はあるという。
  1. Medicareで用意されている付加サービスを上手く利用する。

  2. HSAを利用する。

  3. 公的年金の受給をなるべく遅らせる。
それでも退職後の医療費がこれだけ必要となるのは相当不安だ。アメリカ人は消費性向が高いというが、こういうところに不安を感じないのだろうか。

※ 参考テーマ「Medicare

8月16日 紙かオンラインか
Source :Paper or Digital? Employee Benefit Enrollment Disconnect Could Hurt Employers (LIMRA)
上記sourceでは、いろいろなベネフィットに関する申請(例えば医療保険プランの加入申請)について、紙ベースが好ましいか、オンラインが好ましいか、企業側と従業員側に意識調査をしている。
両サイドともオンラインの方が好ましいとしているが、その度合いが全く違っている。従業員側はオンラインが好ましいとする割合が7割近くに達しているのに対し、企業側は4割近くしかない。このギャップは、一人ベネフィットの手続きにとどまらず、企業側の体質に対する不満(古い、技術に疎い、等々)につながりかねないとしている。

アメリカの企業でも、まだまだオンライン手続きに対する不安が残っているのだろうか。

※ 参考テーマ「ベネフィット

8月14日 PBGC複数事業主プランの破綻
Source :Options to Improve the Financial Condition of the Pension Benefit Guaranty Corporation’s Multiemployer Program (CBO)
上記sourceは、PBGCが複数事業主プラン向けに行なっている支払い保証事業が2025年に破綻すると予測し、その回避策を提案している。
  1. 財政見通し

    2017〜2026年の10年間で、支払い保証事業に必要な金額は90億ドルに達するが、そのうちPBGCの複数事業主プランが支払うことができるのは60億ドルしかない。しかも、2025年には財政破綻に陥り、資産がなくなってしまうため、2027〜2036年の間に必要となる金額350億ドルのうち、支払うことができるのはたったの50億ドルしかない。

    つまり、今後20年間で、支払い保証事業の対象となって給付に必要な金額は総額450億ドルなのに対して、PBGCが負担できるのは110億ドルしかないのである。
    PBGC自身も複数事業主プランの財政状況は悪化するとみている(「Topics2014年7月5日 PBGC債務超過の見通し」参照)。しかし、今回、CBOの推計が20年後までを見通したことにより、その状況はさらに深刻になっていくことが判明した。

  2. 3つの回避策

    1. 加入企業、加入者の負担増

      保険料率の大幅引き上げ、支払い保証給付限度額の引き下げ、財政状況が悪化した年金プランへの事業主拠出の増額、リスクの高い投資の抑制など。これらは連邦政府の負担を必要としない回避策である。

    2. 連邦政府からの部分出資

      財政状況の悪化した年金プランを分離管理し、そこに連邦政府の拠出金を提供する。この場合、CBOの試算では、連邦政府の拠出金は100億ドルが必要となる。

    3. 連邦政府からの再出資

      今後20年間で必要となる340億ドルを連邦政府がPBGCに拠出し、すべての支払い保証給付を可能とする。
回避策とはいっても、最後の3.はあり得ない。こんな負担を国民が認めてくれるわけがない。現実的には1.と2.の組み合わせがせいぜいだろう。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

8月13日 共和党年金改革法案
Source :Social Security Changes Likely Soon (Lawton Retirement Plan Consultants, LLC)
先月13日、連邦議会下院に公的年金改革法案("Save Our Social Security Act (S.O.S. Act)"(H.R.5747))が提出された。提出者は、共和党Reid Ribble (R -WI)下院議員ほか5人である。

上記sourceは、近い将来に本法案が可決されるということはないだろうが、公的年金改革の基本的なメニューが網羅されているとして、その内容を紹介している。そのポイントは以下の通り(Ribble下院議員のwebsiteも参照)。
  1. Social Security Tax課税ベースの大幅拡大

    • Current cap: $118,500
    • FY2017: $156,550
    • FY2018: $194,600
    • FY2019: $232,650
    • FY2020: $270,700
    • FY2021: $308,750
    • FY2022: shall be determined by the Commissioner - "such that the percentage of the total earnings for all workers that are taxable is equal to 90% for each calendar year."

    全雇用所得の90%を課税対象に含めようという提案。

  2. 受給資格年齢の引き上げ

    満額支給要件を67歳から69歳に引き上げる。ただし、減額給付開始年齢は62歳で据え置き。

  3. COLAの見直し

    消費者物価指数を、現在の"CPI-W"から"C-CPI-U"に変更する。賃金労働者にとっての物価指数から、都市部の住民にとっての物価指数に見直すとともに、消費行動の変化を毎月反映させるようにすることが目的。Wikipediaによると、"CPI-W"は第1次大戦後導入され、主に賃金交渉の材料として使われていたそうだ。ここにも制度創設時の社会像が残っているようだ。

    この変更により、物価スライドは小さくて済むとしている。実際の指数を2007年1月から2016年6月までの変化率で捉えてみると、次のようになる(BLS、季調済み)。
    2006年1月 2016年6月増加率(%)
    CPI-W (CWSR0000SA0)198.613234.013117.8
    CPI-U (CUSR0000SA0)203.437239.927117.9
    C-CPI-U (SUUR0000SA0)117.330137.297117.0
  4. 最低保証額の設定

    最低給付保証額を、貧困ガイドラインの125%に設定する。
その他、上記法案に含まれていないものの、検討対象とすべき提案も列記されている。
  1. 所得調査の厳格化

  2. 公的年金保険税率の引き上げ

  3. 長寿化に伴う給付減額

  4. 就労継続のためのインセンティブ
全体に所得再分配機能を高める方向での検討項目、提言となっている。中でも、上述1.課税ベースの拡大は、現役の労働者のみならず、企業の負担も増大する。

ところが、全米商工会議所(USCC)は、同法案の提出を歓迎するとのコメントを公表している。理由は、公的年金制度の持続性確保、財政健全化の観点となっている。本当に法案の中身を理解しているのだろうか。それとも企業負担増大は覚悟した、というメッセージなのだろうか。

なお、昨日紹介した家族給付に関する提案は含まれていない。

※ 参考テーマ「公的年金改革

8月12日 時代遅れの家族給付
Source :How Work & Marriage Trends Affect Social Security’s Family Benefits (Center for Retirement Research at Boston College)
一般的なアメリカ人女性の場合、公的年金(Social Security)については、次の3種類の受給資格を持つ可能性がある。
  1. 老齢年金:女性本人が働いたことに伴う給付。通常の計算方法に基づき給付額を決定。

  2. 配偶者年金:被扶養配偶者に対する給付。扶養配偶者への老齢年金の50%。夫婦ともに受給すれば、扶養配偶者への老齢年金の150%が給付される。

  3. 遺族年金:遺族配偶者に対する給付。死亡した配偶者の老齢年金額が給付される。
1.老齢年金と2.配偶者年金の受給資格を同時に有した場合には併給調整があり、1.老齢年金が給付される。ただし、「1.<2.」の場合には、その差額が配偶者年金として給付される。つまり、配偶者年金額が最低保証となる。

1.老齢年金と3.遺族年金については、年金以外の所得に関する所得限度額(earnings test)、家族年金給付上限額(Maximum Family Benefit; MFB)に伴う減額規定が設けられている。

ところがこうした給付設計は、公的年金制度創設当時の1930年代の家族像を下敷きにしているため、現代の家族像、女性のライフスタイルにはそぐわなくなっているというのが、上記sourceの主張だ。
  1. 女性の労働参加率、生涯所得ともに、大きく上昇してきている。
  2. このため、家計で見た所得代替率は徐々に低下している。
  3. 同様のことは、遺族年金についても言える。ただし、給付の減り方は、配偶者年金の方が大きい。
    女性にとって、配偶者年金、遺族年金の重要性が全般的に低下しているのである。

  4. さらに、配偶者年金、遺族年金とも、結婚期間が10年間以上ないと受給資格が得られない。結婚期間10年未満で離婚したシングルマザー、結婚しないで子供を産んだシングルマザーには受給資格が得られない。ところが、こうしたシングルマザー家計が大幅に増えているし、将来も増えていく見込みである。
  5. こうしたシングルマザー達は子育てに時間をとられるために、@働く時間が短い、A必要なスキルを身につける時間が不足して給与が低いままになる可能性が高い、B結果、生涯所得が低くなるため、公的年金受給額も小さくなる。そのうえ、配偶者年金、遺族年金といった生活保障的な給付は受けられない。そうしたことから、高齢世代になった時に貧困に苦しむ可能性が高くなる。

  6. こうした事態を改善するために、2つの政策提案がある。

    1. 夫婦間の所得分割

      配偶者年金、遺族年金を廃止し、老齢年金給付額(給付率)を一律に4.5%引き上げる。老齢年金給付額の計算基礎となる生涯所得を夫婦間で二分割する。そのうえで、配偶者が死亡した場合の給付額を生前の夫婦合計給付額の2/3になるよう、老齢年金給付額を減額する。

    2. 育児年金の創設

      配偶者年金を廃止して、育児年金を創設する。老齢年金給付額を計算する際、6歳以下の子育てをしている期間の所得は、平均賃金の半分を保証する(それ以上の賃金を得ている場合には加算はない)。この措置は、最長7年間とする。
いずれの政策提案もドラスティックな制度変更となるため、その実現性は低い。大元の公的年金制度の改革を検討する際に、サイド・アジェンダとして位置づければ、日の目を見る可能性はあるだろう。

※ 参考テーマ「公的年金改革

8月11日 企業の医療費抑制策
Source :U.S. employers expect health care costs to increase 5.0% in both 2016 and 2017 (Willis Towers Watson)
上記sourceは、大企業を対象とした医療費調査結果の概要である。調査対象は約600社。これら企業のフルタイム雇用者は全体で約1,220万人。ほぼすべての主要業種をカバーしている。

ポイントは次の通り。
  1. 企業側、従業員側の負担を合計した総医療費の伸びは、2015年4.0%となった後、2016年、2017年とも前年比5.0%となる見込みである。

  2. 従業員一人当たりの医療費は、2016年$12,338、2017年$13,000と見込まれている。

  3. そのような環境となる中、81%の企業は、従業員の保険料負担、免責額や窓口負担などについて、緩やかな見直しを検討している。

  4. 88%の企業が、処方薬コストの管理が今後3年間の最重要課題と認識している。

    1. 高額処方薬の適正使用を促すためのプログラムを設けている企業は、2015年53%、2016年61%、2018年には85%と見込まれる。

    2. 診療行為の中で使用される特殊医薬についても、2018年までに82%が管理プログラムを導入するとしている。

  5. オンサイト診療所の利用にインセンティブを設けている企業は、現時点で19%だが、2018年までの導入を考えている企業が43%にのぼる。

  6. 従業員の配偶者が自ら働く企業で保険プランを提供されているにもかかわらず、従業員の企業の保険プランに加入する場合、特別負担を求めているのは現在28%だが、2018年までにはほぼ倍になるとみられる。特別負担は月額$100程度である。

  7. HSA付き高額免責プランの導入企業は、2018年までにほぼ半分(49%)に達する。
コスト増が続く中、企業は地道なコスト抑制策を講じ続けている。

※ 参考テーマ「医療保険プラン