7月20日 選択肢とコストのトレード・オフ 
Source :Insurers Push Plans That Limit Health Choices (New York Times)
医療保険プランを提供している保険会社は、今、新商品の開発・普及に力を入れている。そのコンセプトは、 というものである。

もともとはExchangeに、個人・小グループ用プランとして提供する目的であった、商品開発に伴い、大企業も強い関心を寄せているという。

大企業もどんどんこのタイプのプランを採用するということになると、上記sourceにもある通り、90年代のマネージド・ケアの再来となりかねない。また、Obama大統領が約束していた『現在保険に加入している人達については、プランの内容を変更しない』という課題についても、実質的には守れなくなる。

選択肢が限定されることについて、不満を述べる企業従業員、国民は多数いるとは思われる。実際、90年代のHMOに対する反発はすさまじいものであった。今回も、大企業が次々と転換していけば、そうした不満が表面化してくる可能性もある。

ただし、90年代と異なるのは、 といったコスト要因である。つまり、加入者自身も、コスト軽減の恩恵があれば、選択肢の限定に対する理解も得やすいのではないだろうか。

もし、こうした流れが定着すると、本当に困るのは医療機関、特に良い医師、医療機関である。質とコストの比較ではあるものの、選択肢を限定するとなると、こうした良質の医療機関が選択肢からはずされる可能性が高くなる。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

7月19日 WV州の退職者給付対策 
Source :In graying West Virginia, a mountain of retiree health bills (The PEW)
各州とも、州政府職員の退職者年金、退職者医療のコスト増に悩まされているが、
  1. 州人口の高齢化が進んでいる
  2. 州民一人当たりの退職者給付債務積立不足(総額$1T。うち$587Bが退職者医療)が全米平均の2.5倍と、格段に大きくなっている
ということで、最も深刻な状況となっている。
そこで、WV州は、次のような対策を採ろうとしている。
  1. 州政府職員・教員の退職者医療保険料について、一人当たり月$333の補助金が出ている。これを、今年7月1日以降の新規採用者については廃止する。(←労働組合は猛烈に反対している)

  2. さらに、次のような選択肢も検討対象となっている。
    1. 現役・退職者のベネフィットの削減
    2. 退職年齢の引き上げ
    3. 州職員対象の医療保険について、保険料と免責額の引き上げ
    4. 州税(タバコ税など)の引き上げ
いずれにしても、厳しい手段であることは間違いない。最初にも述べたとおり、新人からの給付削減でも労組は激しく反発しており、簡単に降りてくれることはないだろう。こうした情勢を、WV州民、さらには全米国民は中間選挙でどのように判断するのだろうか。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「GAS 45」、「中間選挙(2010年)」、「労働組合

7月18日(1) 企業収益は回復したけれど 
Source :Corporate profits have recovered, but job market still depressed (EPI)
上記sourceは、企業収益は景気後退に入る前の水準を上回ったにもかかわらず、雇用は減り続けていると主張している。下図は、2007年第4四半期を100とした場合の企業収益と雇用数の推移を示したものである。
EPIは、これをもって『経済政策が企業優遇に偏っており、労働者のためになっていない』と述べている。

一方、Washington Post紙は、USCCとThe White Houthの確執(「Topics2010年7月16日 USCCのハードパンチ」参照)を伝えるとともに、企業収益の手許流動性が高まっているのに雇用が増えていないことを紹介したうえで、『法人税率を引き下げても企業の手許流動性が高まるだけだ』とのエコノミストの見解を掲載している。

USCCもパンチを浴びているようである。

※ 参考テーマ「労働市場

7月18日(2) 地方公務員が一番 
Source :Program Perspectives on Combined Benefit Plans (BLS)
上記sourceは、労働省統計局が行っている報酬調査で、初めて「医療給付」と「退職給付」の複合調査を行った結果である。

やっぱり地方公務員が一番手厚い給付を受けているようである(「Topics2010年5月27日(1) 州政府 vs 労組」参照)。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「労働組合

7月16日 USCCのハードパンチ 
Source :Jobs for America : An Open Letter to the President, the Congress and the American People (USCC)
Jobs Agenda (USCC)
14日、U.S.Chamber of Commerce (USCC)が、"Jobs for America: Summit 2010"を開催した。

そこで、USCCは、Obama政権、議会を痛烈に批判している。上記sourceの公開書簡では、 といった言葉が並ぶ。

随分と直截な批判を並べたものである。もっとも、これだけUSCCが強気になれるのも、Obama大統領への不支持率の上昇、特に経済政策に対する不支持率が急速に上昇していることが背景にある。

※ 参考テーマ「労働市場

7月15日 医療情報電子化策 
Source :Standards Issued for Electronic Health Records (New York Times)
13日、HHSは医療情報電子化促進策を公表した(Press Release)。主なポイントは次の通り。
  1. 医師、医療機関のIT機器の購入、医療情報の電子化を促進するため、インセンティブとして今後10年間で最大$27Bの補助を用意する。その際、Medicare契約医師であれば最大$44,000、Medicaid契約医師であれば最大$63,750を受け取ることができる。また、医療機関であれば、規模により百万ドル単位で受け取る。

  2. 2015年以降、医療機関、医師が電子化された医療情報を利用しなかった場合、金銭的なペナルティを課す。

  3. 補助を受けるためには、次のような要件を満たさなければならない。
    • 医師:特定の15要件を満たすとともに、その他の10の要件のうち5つを満たす。
    • 医療機関:特定の14要件を満たすとともに、その他の10の要件のうち5つを満たす。

  4. さらに、医師の場合は処方箋全体の40%、医療機関の場合は75%を電子情報で送付しなければならない。
現在、医療情報の電子化は、医師レベルで20%、医療機関レベルで10%しか進んでいない。HHSは上記の措置により、飛躍的に向上するとしているが、これにより患者の医療情報を異なる医療機関、医師の間でやり取りできるようになるとは限らないという。同時に、保険会社にも医療情報の電子化を利用して、効率化を図るよう求めている。

もともとObama大統領は、医療情報の電子化に重点を置いてきており、医療の効率化、安全性の向上のみならず、雇用の創出など経済対策としても大いに役立つものと期待している。

※ 参考テーマ「ICT

7月14日 最終目的地はやっぱりアメリカ 
Source :Latest Destination For Medical Tourism: The U.S. (Kaiser Health News)
上記sourceでは、Medical Tourismの行き先として、国内回帰の流れが強まりつつあることを紹介している。

もともとMedical Tourismを利用していたのは、無保険者が主流であった。職場が提供する医療保険に加入している人達は、やはり治療は国内で受けたいというのが本音のようである。こうした従業員の意向を汲む形で、企業側は国内Medical Tourismを推進する方向に力を入れ始めているようである。

他方、医療保険プランを提供する保険会社は、地元の医療機関との関係が悪化することを忌避して、なかなか国内Medical Tourismを進めようとはしない。

そこで、企業として、次の2つの戦略により、国内Medical Tourismの促進、コスト抑制を進めようとしている。
  1. 他所の地域(他州)の医療機関との間の価格交渉力を高め、国内であってもコストを抑制できるようにする。
    1. 複数の企業で連携し、医療機関に対して統一された価格で交渉する。医療機関としては診療費を割り引いても、数が期待できる。
    2. 診療費のさらなる包括化を進めることで、追加診療等で発生するコストを抑制する。

  2. 従業員の負担を軽減することで、国内Medical Tourismに誘導する。
    1. 保険プランで国内Medical Tourismを選択肢に含めることにすれば、保険料の自己負担分を軽減する(=企業負担割合を高める)。
    2. 国内Medical Tourismを選択した場合には、その診療については免責額を適用しない。
    3. 移動費、宿泊費は保険でカバーする
まさしく、市場原理が働いている、という実感が伝わってくる。それにしても、地元の医療機関との関係悪化を懸念するという保険会社は、いかがなものか。要するに地域独占が崩れることを恐れているのではないだろうか。

ところで、まったく話は変わるが、上記sourceで、最初の例示として、ワイオミング州のGilletteという町の企業が紹介されている。このGilletteは、個人的にとても想い出深い土地である。

EBRI在籍中に、Washington, D.C.からカナディアン・ロッキーまで車で旅行した時のことである。

当初の計画では、Rapid City (SD)に宿泊したあと、翌日、Wind Cave NPMount Rushmore NMe、さらにはDevil's Tower NMと回ったあと、Gilletteで宿泊する。その次の日は西に向かってYellowstone NPを目指すこととしていた。

ところが、Mount Rushmore NMeで、天候が悪く、濃い霧が立ち込め、あの4人の大統領像がまったく見えなかったのである。しかも、天気予報を見ても、霧が晴れる見込みはないということであった。泣く泣く、4人の大統領像の『写真』の前で家族写真を撮ってその場を離れ、Devil's Tower NMに向かった。その晩は、予定通り、Gilletteで宿泊した。

その翌朝早く、Yellowstone NPへの出発の準備を始めたところ、前日の天候不良が嘘のように晴れ渡り、ぎらぎらとした夏の太陽が照り輝いているではないか。二度と来ない海外の地で後悔を残してはいけないと思い、家族(つまり奥様)に諮って、Mount Rushmore NMeに逆戻りしたのである。案の定、美しく青い空に4人の大統領像が浮かび上がり、一生の思い出となる光景を見ることができた。本当に嬉しかった。

もちろん、時間と距離を大幅にロスすることになったので、その代償はきっちりと払わなければならなかった。その日、Mount Rushmore NMeからYellowstone NPの宿泊地まで、ただひたすら車を走らせ、ようやくホテルに着いたのが夜の9時30分であったのを覚えている。

※ 参考テーマ「Medical Tourism

7月13日 GASBの新提案 
Source :GASB’s Preliminary Views on Proposed Changes to Pension Accounting Standards for Public Sector Employers (SEGAL)
6月16日、GASBは、州・地方自治体の年金プランに関する開示について、新たなルールを提案するための予備見解(Preliminary Views)を公表した。これは、現行のGAS 27を大きく見直すことにつながりそうである。

上記sourceで示された見直し提案の概要は、次の通り。
  1. 積立不足額(給付債務−資産総額)を雇い主(=自治体)の財務報告のB/Sに計上する。
    ※現行:給付債務を財務報告の注記に計上する。

  2. 年金給付債務は、将来の賃金引き上げを含めた予測に基づいて計算する。COLAについても常態化している場合には含める。

  3. 給付債務の現在価値を計算する際の割引率については、現在と同様、適切な長期期待収益率を使用する。
    ただし、これは、現時点及び将来にわたって資産が給付債務に見合うだけ十分にある場合に限る。仮に資産が不足することが見込まれる場合には、高格付けの自治体債権のレートを使用する。
    実務的には、2つのレートを加重平均した一つの割引率を使用することとする。

  4. 当期に新たに発生した勤務債務、金融費用については、当期発生費用として計上する。

  5. 現役の勤務者に関する数理計算上の差異等の費用については、現在の最大30年より相当短い期間で償却する。退職者に関するものについては、即時認識する。

  6. 数理計算上の差異については、累積で資産の15%を超えた部分については即時に費用認識する。

  7. 複数雇い主で年金プランを運営している場合には、雇い主間でプロラタで積立不足を分担し、それぞれの財務報告で計上する。
これらの変更により、『現行制度では当期の必要拠出額が注目されていたが、今回の提案では積立不足全体に関心が移るため、自治体の拠出責任が曖昧になりかねない』との指摘がなされている。。

各州では、大幅な財政赤字に対応するため、職員の年金プランについて、既に様々な法改正を試みている(NCSL)。今回のGAS 27の見直しは、こうした動きに拍車をかけることになりそうだ。

ちなみに、今後のスケジュールは、 となっている。

※ 参考テーマ「地方政府年金

7月12日(1) 不法移民就労の取締強化 
Source :Illegal Workers Swept From Jobs in ‘Silent Raids’(New York Times)
Obama政権は、不法移民対策として、不法移民の就労を摘発する行動に出ている。企業の事業所に出向いて、従業員の就業資格を確認しているそうだ。ただし、そのまま収監して強制送還するという動きはなく、職場を退去するまで3ヵ月程度の猶予期間を認めているようだ。

一方、移民政策の見直しは次のステップとして位置づけているものの、今年中に着手されるとは誰も思っていない。

これは順序が反対なのではないか。現状で摘発を強化すれば、
不法移民の離職・住居の喪失
 ↓
失業・ホームレス状態の長期化
 ↓
犯罪の増加
という循環が増幅していくことになる。

AZ州やFremont市の懸念を払拭するためには、
不法移民に対する法的地位の賦与
 ↓
不法移民就労の摘発
 ↓
強制送還
という順序でなければいけないのではないか。

この流れとは別に、中間選挙で戦う民主党の州知事選候補者達は、「医療保険改革のうえに不法移民問題まで抱え込んでしまっては選挙戦は苦しい」との懸念を表明している(New York Times)。具体的な政策論争としてどのような考え方をしているのかまではわからないが、Obama政権がAZ州を提訴したことが不人気を招いている、との認識のようである。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

7月12日(2) 長期失業者増加の影響 
Source :Labor Department’s Jesse Rothstein on long-term unemployment (EPI)
5月末、労働省のチーフ・エコノミストが、EPIにおいて、長期失業者に関する講演を行った。上記sourceには、その際に使用されたプレゼン資料が掲載されているが、その中の労働市場に関する分析のポイントは次の通り。 こうした長期失業者が累増してしまうと、社会全体の生産性向上にも支障が生じる。アメリカ労働市場は、長期失業者と不本意な就職をした非正規労働者(「Topics2010年7月5日 厳しさの続く雇用情勢」参照)の問題に、しばらく悩まされそうである。

※ 参考テーマ「労働市場

7月11日 DOMA違憲判決 
Source :Amid rulings on same-sex marriage, Proposition 8 case could have larger effect (Washington Post)
8日、MA州の連邦地方裁判所は、DOMAは違憲であり、同性婚者が異性婚者と同等のベネフィット(社会保障給付)を受給する権利を持つ、との判決を下した。こちらは、連邦政府がすぐに上告する手続きに入ると思われるので、最高裁に達するまで依然として時間がかかる。

他方、この分野で注目されているのは、CA州のProposition 8を巡る訴訟だという。CA州SFにある連邦地方裁判所は、近く、Proposition 8の有効性について判決を下す予定とされている。こちらは州民投票に関わる問題なので、他州に及ぼす影響も大きいという訳である。

中間選挙が近付く中で、国を二分する議論が再燃しそうである。

※ 参考テーマ「同性カップル