5月31日 医療費抑制提案は独禁法違反
Source :Another Health Care Overhaul Hurdle - Antitrust Laws (New York Times)
医師、医療機関、保険会社、製薬会社が医療関連の価格引き下げや医療費増加率の抑制について、合議し、合意することは、独禁法違反になると専門家はみている(「Topics2009年5月12日 医療費増加率抑制提案」参照)。

市場経済とは難しいものである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

5月30日(1) GM債権者も合意か? 
Source :G.M. Plan Gets Support From Key Bondholders (New York Times)
6月1日のChapter 11申請を前に、GM、財務省、債権者グループの間でぎりぎりの交渉が進められている。その中で、28日、どうやら、債権者グループに対する譲歩が行われ、最終的な支持が得られるのではないかとの観測が広がっている。

上記sourceによれば、現在、債権者グループに提示されているDES案のポイントは次の通り。
アメリカ政府債権者グループG-VEBA(UAW)
普通株普通株ワラント普通株ワラント
新GM設立時点72.5%10%(15%)17.5%(2.5%)
時価総額$15B65%17.5%(7.5%)17.5%(2.5%)
時価総額$30B57.5%25%-17.5%(2.5%)
時価総額$75B55%25%-20%-
現時点でのGMの時価総額が、$683.8Mということなので、債権者グループがワラントを行使できるようになるまでには、企業価値が20倍以上にならないといけない。UAWにとってみると、100倍以上にならなければワラントを行使できない。

日本ではこういうのを、出世払い、または"空手形"と呼ぶのだろうが、これで債権者グループの了解がとれそうだというのだ。債権者グループが了解するであろう最大の要因は、DES比率はともかく、最終的な姿として、UAWよりも普通株保有率が高いこと、しかもUAWよりも早くワラント行使ができる、ということだと思う。

債権者グループの過半数、債権総額の3分の2以上の賛成を得られれば、Chapter 11に入ったとしても60〜90日で新GM設立に至るのではないかといわれている。もちろん、上場はその後しばらくかかるだろう。

他方、UAWは、債権者グループの合意が得られるかどうか判明する前に、GMとの間で正式合意に至った。G-VEBAへ割り当てられる株式割合は変わらないものの、普通株は2012年までロック(「Topics2009年5月27日(1) G-VEBAはさらに脆弱に」参照)されるし、ワラント行使もかなり遅くなることは間違いない。

以上を踏まえ、感想を3点。
  1. 先にChapter 11を申請したChryslerの目指す姿とはずいぶんと異なるとの印象を持つ(「Topics2009年5月2日(3) Chrysler-ベネフィットの行方」参照)。Chryslerの場合、アメリカ政府は8%しか株を保有しない。他方、GMでは、アメリカ政府は当初7割以上も保有する。こうしたところをみると、ChryslerはFiatに売ってしまった会社で、あとはお任せ。GMはアメリカ政府が"アメリカ企業"として面倒見ますよ、というメッセージに見えてくる。

  2. 債権者グループの合意が得られず、ChryslerがChapter 11を申請した際、Obama大統領は債権者グループが譲歩しないと非難した。しかし、GMでは、債権者グループに譲歩を示した。ここでも、Obama政権がGMを守りたいとする意図を感じる。GMの債権者グループといっても、ファンドや金融機関ばかりでなく、個人投資家や年金ファンドなど、アメリカ国民が関与している部分がかなり大きい。そうしたところを非難すれば、政権批判につながりかねないし、何よりもGMの再建のため、こうした投資家達の協力も不可欠になる。Obama大統領らしい、現実的な判断と言えよう。

  3. ちょうどその裏返しで、G-VEBAは最後に見放された、という印象である。やはり、UAW退職者に対する風当たりは強いし、G-VEBAが縮小されても、65歳になればMedicareは用意されている。これまた現実的に判断すれば、傷はまだまだ浅くて済む、ということであろう。
まだ結論が出ているわけではないので、30日17時の結論を注目しよう。ちなみに、上場最終日になるであろう5月29日のGM終値は、0.75$であった。

GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

5月30日(2) Circuit City年金もPBGCへ
Source :PBGC Assumes Circuit City Retirement Plan (PBGC Press Release)
既にCircuit City本体は清算が決まっている(「Topics2009年1月19日(2) Circuit City清算へ」参照)。その年金プランがPBGCに移管されることとなった。

給付債務$349M、プラン資産$284.9Mで、積立比率82%、積立不足額$64Mとなる。この積立不足額のうち、$62MがPBGC負担となり、債務超過がさらに膨らむことになる(「Topics2009年5月21日 PBGCのB/S悪化」参照)。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

5月28日 Proposition 8確定
Source :California Supreme Court Upholds Same-Sex Marriage Ban (Washington Post)
CA州のProposition 8が確定した。州最高裁の判決のポイントは、次の通り。 まったくの予想通りである(「Topics2009年3月8日 Proposition 8 有効」参照)。 この結果、今現在の同性婚に関する法的ステータスは次のようになった。
同性婚の法的ステータス
州法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
ConnecticutA@
Maine
Iowa
New York
Washington, D.C.○     ←←   ○
New Hampshire
New Jersey
Rhode Island
California○→×
Oregon
Wasington
一目瞭然、西海岸は全滅となった。

ただし、これで全てが確定となったわけではない。同性婚推進派にとって、今後の選択肢は、次の2つとなる。 だが、同性婚推進派の多くは、州レベルからじわじわと変革していく方が望ましい、と考えているようで、後者を選択しそうである。

話は変わるが、CA州における同性婚を巡る動きは、これぞアメリカ民主主義の典型、という事例であると思う。
CA州議会で同性婚法案可決
 ↓
シュワ州知事拒否権発動
 ↓
州最高裁同性婚容認
 ↓
州民投票で同性婚禁止
 ↓
州最高裁が州民投票結果を承認
日本では考えられないような展開である。中でも、州最高裁は、一旦同性婚を容認(4 vs 3)しておきながら、同性婚を禁止する州民投票結果を承認(6 vs 1)するという、一見矛盾した判断を示さざるを得なかった。苦渋の判決とは思うが、州民主権がすべてに勝る価値基準であることがよく理解できる。

※ 参考テーマ「同性カップル

5月27日(1) G-VEBAはさらに脆弱に
Source :Rescue Plan Would Give U.S. Most of GM's Stock (Washington Post)
U.S. Expected to Own 70% of a Revamped G.M. (New York Times)
26日、GMのChapter 11申請の可能性が濃厚になるとともに、再建策に関する観測記事が急速に出回っている。いずれも、確定はできておらず、正確なところはこれからになるようだ。珍しく、Washington Postの方が、文書を入手したらしく、詳しい。上記sourceの情報を合わせると、概要は次のようになる。
  1. GMに対する政府融資

    これまでの累計$19.4Bに加え、アメリカ政府から$30B、カナダ政府から$9Bの追加融資を行なう。

  2. 新GMの株主構成

    1. 4月の再建策では、次のようになっていた。

      連邦政府50%
      VEBA39%
      債権者グループ10%
      既存の株主1%

    2. それが、現時点での案は、次のようになっている。VEBAの持分が減り、その分、政府持分が高まっている。

      アメリカ・カナダ政府70%
      VEBA20%
      債権者グループ10%
      既存の株主0%

  3. VEBA

    1. 4月の再建策では、次のようになっていた。

      給付債務$35B既存資産
      新GM株
      現  金
      $15B
      $10B
      $10B

    2. ところが、金融危機の影響を受け、既存の資産が痛んでおり、現時点では$10B分しかない。

    3. このため、現時点での案は、次のようになっている。

      給付債務$35B既存資産
      新GM普通株
      新GMワラント
      新GM優先株
      債  券
      $10B
      17.5%
      2.5%
      $6.5B
      $2.5B

    4. 上記債券は、2017年までに3回に分けて現金化する。

    5. 新GM株は、2012年まで売却不可。

    6. 財務省は、GMの財務状況に応じて、即座に給付水準を切り下げるべきと強く主張している。

もちろん、まだまだ不確定要素は大きいが、確実に言えることは、G-VEBAの基金は相当苦しくなったということだ。

まず、手許のキャッシュが大幅に減る。しかも、新GM株について売却制限がかけられてしまっている。これでは、$35Bの給付債務に見合う資産があるとは到底言えない。したがって、財務省が給付水準の引き下げを主張している訳である。

ここに来て、Obama政権は、UAWのVEBAを保護することは無理と判断したようだ(「Topics2009年4月24日 ChryslerはChapter 11へ」参照)。

GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

5月27日(2) 初のヒスパニック最高裁判事
Source :Obama Chooses Sotomayor for Supreme Court (Washington Post)
26日、Obama大統領は、最高裁判事に、Sonia Sotomayorを指名した。Washington Postの『女性が指名されるだろう』との推測記事が的中したことになる(「Topics2009年5月4日 最高裁判事を巡る思惑」参照)。

彼女はリベラルと言われるが、Obama大統領の意向通り、現実派であり、中立な立場に立つことが多いと見られている。従って、判事の交代が最高裁の勢力図に影響を与えることはない(「Topics2009年5月2日(1) 最高裁判事が引退か」参照)。

また、当websiteとしては関心のある雇用差別の問題では、どちらかというと従業員側の立場を擁護するが、全体のバランスも重視する(BusinessWeek)、ということで、これまた大きな変化がもたらされることはないと思われる。

もう一つ、注目されているのは、彼女の指名が承認されれば、プエルトリコ人を先祖に持つ、初のヒスパニック最高裁判事となる、という点である。この点は、実は前のBush政権で実現しかかった場面もあったのだが、司法長官に回ったことで実現しなかった(「Topics2004年11月11日(2) 初のヒスパニック閣僚」参照)。Obama大統領としては、司法の世界に多様性をもたらした、という意味で、政治的得点となったのではないか。

※ 参考テーマ「司 法

5月24日 気になるe-mail 
Source :10 Tips for Managing Out-of-Control E-Mail (Today's HR Daily Advisor Tip)
確かにe-mailが入ってくると、煩わしいと思うことがある。しかも、e-mailで来た要件は、優先的に処理しようという気持ちも働く。

しかし、上記sourceにあるように、メール受信サインをオフにしたり(1)、まとめて読んでから返信を出す(3)、といった芸当はできそうもない。そんなことをすると、タイミングを逃したり、挙句の果てには返信を忘れてしまいそうだからである。

所詮は小心者、ということか。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

5月23日 医療保険改革の財源 
Source :Baucus, Grasslaey Release Policy Options for Financing Comprehensive Health Care Reform (Senate Finance Committee)
上院財政委員会では、医療保険改革について、@医療費の抑制、A質の向上、B財源、という3つの課題について議論を進めている。上記sourceは、財源についての政策選択肢をまとめたものであり、パブコメも求めている。

以下、選択肢の概要。
  1. コストの適正化
    1. Medicare、Medicaid診療報酬の適正化
    2. Medicare診療報酬改定の抑制
    3. Medicare支出の地域的偏在の是正
    4. Medicareの免責額、自己負担の統一

  2. 医療関係税制の見直し
    1. 企業提供医療保険プランの非課税措置の見直し(5つの選択肢)。現行プランについて適用猶予を儲けるかどうか。
      1. 保険プランの内容に従って非課税措置の上限を設ける
      2. 非課税措置を受けられる従業員に所得制限を設ける
      3. 上記2つの組み合わせ
      4. 現行の非課税措置を廃止し、従業員の税額控除を設ける
      5. 現行の非課税措置を廃止し、従業員の所得控除を設ける

    2. HSA税制の見直し(3つの選択肢)
      1. HSAへの拠出上限額を抑制
      2. 非医療支出へのペナルティの引き上げ(10%→20%)
      3. 医療支出証明書提出の義務付け

    3. FSAの見直し
      1. FSAへの拠出上限額を抑制
      2. FSAの廃止

    4. 適格医療支出の標準化(HSA、FSA、所得控除)

    5. 医療支出の所得控除の見直し(現行ではadjusted gross incomeの7.5%を上回る分。しかし、所得税申告者の6%しか利用していない。)
      1. 所得控除の廃止
      2. 7.5%の引き上げ

    6. Blue Cross/Blue Shieldなど非営利団体の税制優遇措置(保険支払いの25%を税額控除)の見直し
      1. 25%の10%への引き下げ
      2. 税額控除の廃止

    7. 学生の税制優遇措置の見直し

    8. 自治体政府職員へのMedicare Taxの強制

    9. 非営利診療機関の税制優遇措置の見直し

  3. ライフスタイル税制の強化
    1. 酒税の強化
    2. 甘味飲料への課税

  4. Obama大統領予算教書提案
    「Topics2009年5月8日(2) 大統領医療改革提案」参照)
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「HSA

5月22日 凍結プランの8割は廃止へ 
Source :Inching toward plan termination (Employee Benefit Adviser)
調査対象は限られてはいるものの、年金プラン凍結中の企業のうち、81%がプラン廃止を検討している。しかも、これらの企業は、すぐにでも廃止したいが、廃止するのに充分な資産が確保できていない、つまりは積立不足にあるために、廃止できないだけという。

経済危機でプランを凍結し、経済状況が改善してくれば、プラン廃止、という流れになりそうである。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

5月21日 PBGCのB/S悪化
Source :PBGC Deficit Climbs to $33.5 Billion at Mid-Year, Snowbarger to Tell Senate Panel (PBGC Press Release)
2009年3月31日時点でのPBGCのB/S推計が公表された。給付債務から資産を引いた財政赤字は、$33.5Bとなった。これは、2008年9月時点の$11Bからみれば、激しく増加したことになる。

上記sourceによれば、赤字拡大分$22.5Bの内訳は次の通り。
年金プランの廃止・引継ぎ$11B
予定利率の低下$7B
投資損失$3B
数理差異$2B
また、4月30日時点での運用資産における株式の割合は30%。

さらに、自動車産業に関する年金プランについても推計を行なっており、それによれば、自動車産業の年金プランの積立不足は$77Bに達し、仮にすべてがPBGCに移管されるとなると、$42BはPBGCが保証する必要が出てくる。

スキャンダルに対する議会からの風当たりも、日に日に強まっているようだ(「Topics2009年5月18日 PBGCに疑惑」参照)。PBGC存亡の危機かもしれない。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11