8月10日 HHS長官:妥協に傾く 
Source :Trump administration shifts tone on Obamacare, signals openness to bipartisan 'fix' (LA Times)
トランプ大統領とマコネル上院院内総務の間で、医療保険見直し法案が悉く失敗に終わった責任を巡って非難合戦が繰り広げられている。与党のリーダー間での争いが大っぴらに行なわれるのは珍しい。

こうした状況に嫌気がさしたのか、Price HHS長官は、テレビのニュース番組で『オバマケアを廃止するか、課題を解決する必要がある。それは連邦議会の仕事だ』と述べた(「Topics2017年8月1日 HHS長官の苦悩」参照)。この発言には2つのポイントがある。
  1. 『課題を解決する』との選択肢を示した。英語としては"repealed or fixed"という用語を使っている。"Replaced"ではない。

  2. 議会に下駄を預けた。HHSとしては、内容に口を出さないと言っているのに等しい。
連邦議会下院では、超党派での成案作りが始まっている(「Topics2017年8月2日 下院超党派提案」参照)。目下の最大の課題は、Exchangeの安定化だ。

一方、こうした超党派の議論が進んでいくと、オバマケア廃止を公約に当選してきた共和党議員達の懸念は高まっていく。支持者から反撃を食うのではないか、と。だからと言って、支持率の低いオバマ大統領と心中する覚悟もないらしい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月9日 医療費増加率上昇 
Source :U.S. employers expect health care costs to rise by 5.5% in 2018, up from 4.6% in 2017 (Willis Towers Watson)
上記sourceは、従業員1,000人以上の企業を対象に調査した結果だが、ポイントは次の2点。
  1. 医療関連コストの伸び率は、2017年4.6%、2018年5.5%と見込まれている。今年だけでも相当高い伸び率だが、来年はさらに高い上昇率となる。

  2. 医療保険関連法案の行方が不透明なことから、企業が医療保険プランを提供しなければならないと確信している企業の割合が、2010年のPPACA成立以降最高の92%に達している。
医療コストの伸び率が高まっているのは、企業経営にとっては厳しい。一方で、医療保険がどうなるかが従業員に不安を与えるようなことはあってはいけない。企業経営者もジレンマに悩んでいるのだろう。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

8月8日 日産労組結成失敗 
Source :U.A.W. Accuses Nissan of ‘Scare Tactics’ as Workers Reject Union Bid (New York Times)
8月3〜4日にかけて、ミシシッピ州にある日産工場(Canton)で、労組を結成するかどうかの投票が行なわれた。60%以上が反対票を投じ、大差でUAWは敗退した。

アメリカ南部の州では、なかなか労組結成が成功しないらしい。2014年にはテネシー州のフォルクスワーゲン工場では僅差で反対票が上回った。2017年、サウスキャロライナ州のボーイング工場では、3対1という大差で成立しなかった。南部の州では、労組加入者が少なく、労組活動やそのメリットに対するなじみや理解があまりないらしい。

特に、今のような景気回復期、労働市場がタイトな時期には難しいだろう。

※ 参考テーマ「労働組合

8月7日 PBGC:単独プラン収支改善 
Source :PBGC: Multiemployer insolvency still targeted for 2025 (Pensions & Investments)
今年もPBGCの財政見通しが公表された。

複数事業主プランは、2025年に破綻する見込みとなっている。これは昨年のレポートから変わっていない。
他方、単独事業主プランは、収益が改善していき、2022年には黒字化すると見込まれている。一連の改善策の効果が出始めているのだろう。
なお、トランプ大統領が予算教書で提案した、複数事業主プランに対する可変保険料と退出保険料が導入されれば、今後10年間で$16Bの増収となると見込んでいる(「Topics2017年5月25日 予算教書:年金関係提案」参照)。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

8月5日 MyRA廃止 
Source :MyRA Post-Mortem: Treasury to Shut Down Retirement Savings Program (SHRM)
オバマ前大統領が創設した"MyRA"が廃止されようとしている(「Topics2014年2月2日 "MyRA"提案」参照)。MyRA加入者には、財務省から、制度が廃止されることに伴い、勘定資産をRoth IRAに移管するよう、通知されている(財務省HP)。

確かに、MyRAの現状は惨憺たるものだ。 このように普及しなかった最大の要因は、投資対象が限定されていたこととされている(「Topics2014年12月22日 myRA財務省案」参照)。そして、このように簡単に廃止されてしまうのは、大統領令に基づく制度創設だったからである。

やはり連邦議会で審議した法令に基づく制度にしなければ持続可能性が保証されない。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

8月4日 移民受入半減法案 
Sources : Trump Supports Plan to Cut Legal Immigration by Half (New York Times)
President Trump Endorses Bill Cutting Legal Immigration (SHRM)
移民受入半減法案(Reforming American Immigration for a Strong Economy Act, RAISE法案)が上程され、トランプ大統領が支持表明を行なった。大統領選挙中のトランプ氏の主張『移民がアメリカ人の雇用を奪っている』を実現する法案である。

RAISE法案のポイントは次の通り(法案概要)。
  1. 提出議員は、Tom Cotton (R-Arkansas)上院議員David Perdue (R-Georgia)上院議員

  2. 「親族の受け入れ」よりも「人材評価・能力」に重点を移そうというのが立法主旨。

  3. 2014年時点で、合法移民の64%は親族の受け入れであり、雇用のための受け入れは15%しかない。

  4. 移民許可をポイント制にする。ポイントの要素は、教育レベル、英会話能力、高所得を伴う就職、年齢、過去の実績、起業家精神等々。オーストラリアやカナダの制度に倣う。

  5. 親族関係で認めるのは配偶者、未成年の子供は認めるものの、その他の親族(兄弟や成年の子供)の優遇措置は廃止する。

  6. 介護のための両親受入を認める(更新可能な一時入国ビザを創設)。

  7. 永住権を認める難民受け入れを年間5万人に限定する。

  8. くじによるビザ提供(5万人にグリーンカード提供)を廃止する。

  9. これらの措置により、現在年間100万人以上の受け入れ数は、初年度41%の削減(受け入れ総数は64万人)、10年後には50%の削減(受け入れ総数は54万人)となる。

  10. 削減幅のほとんどは親族関係であり、雇用関係は現状維持が見込まれている。
早速、民主党並びに一部の共和党議員から批判の声が上がっている。Lindsey Graham(R-SC)上院議員は、『出身のSouth Carolina州は、農業と観光業が重要産業となっている。これらの産業は移民の労働力に依存しており、この法案が成立すれば州経済に壊滅的な影響をもたらす』と明言した。

また、専門家は、『労働市場がタイトな時期は、移民労働者が経済規模を拡大させる』として、この法案により労働不足が発生するとの懸念を表明している。

トランプ大統領の公約を実現するための法案なのだが、成立の見通しは立っていないようだ。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

8月2日 下院超党派提案 
Source :Bipartisan coalition looks to solve problem of individual market (Modern Healthcare)
連邦議会上院の医療改革法案否決を受けて、下院超党派"Problem Solvers Caucus"が結成された。上記sourceによると、共和党議員21名、民主党議員22名の合計43名となっている。

彼らは、このままでいくと、2018年のExchangeの運営が不安定になることを強く懸念している。理念はともかく、現実の医療保険市場が回るようにしなければいけない、という想いに駆られている。

既に第1次提案を公表しており、そのいの一番が"CSR"の支払い維持となっている(「Topics2017年8月1日 HHS長官の苦悩」参照)。また、フルタイマーの定義を週40時間に引き上げる、保険州際販売のためのガイドラインの整備など、本当に民主党議員が納得しているのかと疑いたくなる項目も入っている。

それでも、上下両院与党幹部が勝手に空中戦をやっていて、相互の連携がないことを見かねた議員達が何とかしなければと活動を開始しているところに、健全な政治家精神を垣間見ることができる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月1日 HHS長官の苦悩 
Source :Health Chief Says No Decision on Continuing Obamacare Subsidies (Bloomberg)
トランプ大統領は、PPACA廃止法案が悉く否決されたことを受け、Exchangeの破壊策を検討しているそうだ。上記sourceで報じられているのは、cost-sharing reduction(CSR)のための連邦政府の支払いをストップしようというものだ。

Tax creditsが保険料に対する補助金であるの対し、CSRは免責額、窓口負担など自己負担に対する補助金である(HealthCare.gov)。Tax creditsと同様、所得制限があることに加え、silver planにしか適用されない。

このCSRに関する次の支払い期日が8月21日にやってくる。この支払いを止めてしまうというのである。専門家の推計によると、連邦政府がCSR負担を止めてしまえば、加入者にとっては保険料に換算すると20%程度の負担増となる。また、保険会社にとっては不確定要素が増えることとなり、Exchange離脱の誘引の一つとなりうる。

こうした状況を受けて苦しい立場に立たされているのが、Tom Price HHS長官である。Price長官は、テレビの報道番組で問いかけられて、 と応えた。これが精一杯というところだろう。

Price長官は、トランプ大統領の強力な支持者である一方、下院議員、医者という顔も持っている。下院議員として順法精神を尊重しているだろうし、医者として医療現場が混乱することを憂慮しているであろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン