Source : | Options for Social Security (Congressional Budget Office) |
医療保険改革の論議が喧しいが、公的年金にも財政的な危機が迫っている(「Topics2016年6月24日 公的年金・Medicareの財政見通し」参照)。上記sourceは、連邦議会から公的年金改革ツールを示すように要請されたことに対する回答である。年金制度はあくまでも金計算であり、利用できるツールは限られる。
上記sourceでは、大きく5つのカテゴリーを示している。これはかつての担当者としての実感だが、公的年金制度は巨額の移転制度であり、巨艦に例えられる。速度の加減、舵取りの変更はゆっくりとしかできない。それだけ早く改革に着手しなければならないのである。
- 保険料の見直し
- 給付額計算の見直し
- 退職年齢の見直し
- 物価スライドの見直し
- 特定受給者への給付の見直し
※ 参考テーマ「公的年金改革」
Source : | Paying for population health (Modern Healthcare) |
Trinity Healthは、全米で5番目に大きい非営利医療提供機関である。その経営者達の報酬の10%以上については、設定目標達成を条件に支払われる。そのウェイトは次の通り。経営者に対するインセンティブとして、財務指標のウェイトを落とし、"Population Health"のウェイトを高めることにより、医療機関としての行動指針を示そうという訳である。ここで、"Population Health"という耳慣れない用語が出てくるのだが、その意味については、日立総研のHP "Population Health Management"がわかりやすい。
- 院内感染と再入院の減少:20%
- 喫煙率と子供の肥満率の低下:20%
- 患者満足度:20%
- 従業員の満足度:20%
- 財務指標:20%
実は当websiteでも、既にこの話題に触れている。CMSは、Medicare診療報酬体系の出来高払い方式中心を見直すよう提案しているが、代替の体系として示されているのが"Population-Based Payment"である(「Topics2015年2月1日 Medicare:出来高払いを半分に」参照)。
上述のTrinity Healthの報酬インセンティブは、こうした大きな流れを先取りしようというものである。ただし、全米で見ると、まだまだこうした動きは一部に限られている。 それでも既に35%が意識しているということで、今後、さらに広がっていくものと思われる。
※ 参考テーマ「医療保険プラン」
Sources : |
House Republicans release long-awaited plan to repeal and replace Obamacare (Washington Post) House Republicans Unveil Plan to Replace Health Law (New York Times) |
3月6日夜、PPACAの廃止、代替制度に関する共和党法案が下院に提出された。上記sourcesによれば、主なポイントは次の通り。このような内容となった法案に対し、身内の共和党、特に強硬保守派から批判、懸念が表明されている。
- 保険料補助金(tax credits)を廃止し、新たな保険料補助金を創設する。
- 30歳以下:$2,000/Y〜60歳以上:$4,000
- 全額受給可能所得上限額:個人$75,000/Y、夫婦$150,000/Y
- 上限額を$1,000超える毎に、補助金が$100ずつ減額される。
- 個人の保険加入義務、フルタイマーに対する企業の医療保険プラン提供義務を廃止する。
- 無保険者に対するペナルティを廃止する。代わりに、保険プランに再加入する際、保険料を30%上乗せする。
- PPACAの規定通り、2019年まではMedicaid拡充に必要な財源を連邦政府が負担する。2020年以降、Medicaidを拡充した31州については、連邦政府負担を加入者数比例とする。また、拡充していない19州については、5年間にわたり$10Bを連邦政府が拠出し、州独自の低所得者層の医療対策に宛てる。
- 当初検討対象となっていた高額給付プランへの課税は行なわない。企業提供プラン保険料の所得控除制度を維持する。(「Topics2017年3月1日(1) 共和党下院案」参照)
- PPACAに当初から盛り込まれている"Cadillac Tax"の施行を2025年に延期する(現規定では2020年施行)。
- 26歳までは親の保険プランに加入することを認める(PPACAの継続)。
- 既存症を持つ者に対する保険加入拒否を禁止する(PPACAの継続)。
- 生涯給付上限の設定を禁止する(PPACAの継続)。
- PPACAの廃止、代替制度に関するコスト、保険加入者数の増減に関するCBO推計はできていない。
強硬保守派は『PPACAの全廃になっていないじゃないか。公約違反だ』と考えている。一方、Medicaid拡充選出の議員達は、連邦政府の負担が減ることを懸念している。要するに、共和党としてのコンセンサスができていない、見切り発車状況となっている。
- Sen. Rand Paul (R-Ky.)ほか2名の上院議員:所得に応じた保険料補助金(tax credits)なんか要らない。これでは"Obamacare Lite"だ。
- Sens. Rob Portman (Ohio), Shelley Moore Capito (W.Va.), Cory Gardner (Colo.) and Lisa Murkowski (Alaska):Medicaid拡充策の安定が確保できない。(いずれもMedicaidを拡充した州の選出上院議員)
- Rep. Justin Amash (Michigan):"Obamacare 2.0"だ。
- Rep. Mark Meadows (North Carolina):クリーン・リピール(PPACAの全廃)にすべきだ。
見切り発車といえば、CBOの推計が伴っていないこともそうである。企業サイドの強い懸念表明から、高額給付プラン課税を見送り、Cadillac Taxも再延長した。これでは財源の手当が心許ない。そこで、年齢に応じた補助金としていたのを改めて、所得が高まるにつれて減額する制度を導入し、歳出を何とか抑えようとした。ここがPPACAとほとんど変わらなくなってしまったことから、保守強硬派の反発を招いているものと思う。
さらには、トランプ大統領が両院議会演説で示した5つの原則にも則っているのかどうか、上記sourcesだけではわからない(「Topics2017年3月1日(2) 両院議会演説」参照)。HSA拡充はどうなったのか、薬価抑制は何処に行ったのか、州際保険販売は諦めたのか、気になるところである。
そして何よりも、コスト推計がなければ、予算決議の許で法案を出すという大枠を守っているのかどうかが確認できず、全うに考えれば審議に入れないはずである。この点を、下院民主党Pelosi議員が突いてきており、民主党は法案審議入りから拒否してくるものと思われる。
医療保険改革法案は大荒れの幕開けとなりそうである。
(3/9追記)
PPACAと共和党法案の簡単な比較表がWashington Postに掲載されている。これを見ると、HSAの拡充、高齢者:若者の保険料比率を5:1に緩和などが含まれている。また、新たなtax creditの刻みも示されている。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | Employers gear up for next fight after Cadillac tax (Modern Healthcare) |
PPACAに代わって法制化が検討されている共和党下院案の中で、高額給付プラン課税案に対して経済界が警戒感を強めている(「Topics2017年3月1日(1) 共和党下院案」参照)。主旨としてはPPACAの"Cadillac Tax"と同じであり、給付内容の抑制、従業員への負担増などが懸念される。
American Benefits Councilは、早速、反対キャンペーンを開始した。
しかし、その広がりはまだ見られていない。全米商工会議所や保険会社団体などは、静観の構えである。
その原因は、課税プランのレベルにある。今のところの案では、「現時点での保険料額でみて90/100分位超」のプランについて所得控除を認めないとしており、大半の企業に取っては無関係な課税制度となる。提案者である共和党の中心メンバー、ライアン下院議長は、『大半の企業提供プランが給付内容の変更をしなくて済むレベル』を意識しているとされている。 ここら辺りが民主党主導の"Cadillac Tax"とは異なる配慮であり、企業側もそれを感じ取っているのかもしれない。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」
Source : |
Exclusive: Leaked GOP Obamacare replacement shrinks subsidies, Medicaid expansion (POLITICO) GOP leaders could present ACA repeal plan this week (Modern Healthcare) |
共和党下院PPACA改革案の論点メモ(2月10日付)がマスコミによって公開されたそうだ。そこに盛り込まれた主な項目は次の通り。CBOの試算では、この案では無保険者割合が急増する。また、4.の企業保険プランへの課税は、変形Cadillac Taxに他ならず、労使ともに反対である。そして何よりも、現時点のPPACAに関する世論調査では、支持が不支持を上回っているのである。この状況は、今まで共和党が経験しなかった逆風である。
- Medicaid拡充策を2020年で廃止し、連邦政府拠出金を加入者数に応じた金額とする。
- 州立"High-risk pools"を設立する(「Topics2017年2月20日 High-risk poolsへの評価」参照)。
- 所得別ではなく年齢別の還付付き税額控除制度を新設する。30歳未満は$2,000、60歳超は$4,000の税額控除を認める。
- PPACA財源確保のための課税を廃止し、企業が提供する高額給付プラン(現時点での保険料額でみて90/100分位超)の加入者に課税する。
- 保険プランの給付内容に関する必要最低規制を撤廃し、給付内容に関する規制は州政府に委ねる。
- 高齢者と若者の保険料比率規制を「3:1」から「5:1」に緩和する。
- 保険加入義務を廃止し、一度未加入になった者が再度保険プランに加入する際に、30%のペナルティを上乗せした保険料を徴収する。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | Trump’s Speech to Congress: Video and Transcript (New York Times) |
2月28日夜、トランプ新大統領の初めての議会演説が行なわれた。相変わらずのキャンペーン節で、ほとんど具体策は示されなかった。
そうした中で、PPACA見直しについては5つの原則が示された。以下、上記sourceのママ。う〜ん、と唸らざるを得ないような原則提示である。共和党内のコンセンサスは取れているのか、極めて疑わしい所である。
- First, we should ensure that Americans with pre-existing conditions have access to coverage and that we have a stable transition for Americans currently enrolled in the health care exchanges.
- Secondly, we should help Americans purchase their own coverage, through the use of tax credits and expanded health savings accounts, but it must be the plan they want, not the plan forced on them by our government.
- Thirdly, we should give our state governors the resources and flexibility they need with Medicaid to make sure no one is left out.
- Fourth, we should implement legal reforms that protect patients and doctors from unnecessary costs that drive up the price of insurance and work to bring down the artificially high price of drugs and bring them down immediately.
- And finally, the time has come to give Americans the freedom to purchase health insurance across state lines which will create a truly competitive national marketplace that will bring costs way down and provide far better care. So important.
なお、上記sourceは、"transcript"としているものの、所々[Fact Check]が挿入されている。今のNew York Times紙の立場を表している。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「一般教書演説」