11月30日 連邦職員給与2年間凍結 
Source :Obama Proposes a Pay Freeze for Federal Workers (New York Times)
ついに、Obama大統領は、連邦政府職員の給与を2年間凍結するとの提案を行った。今年の8月には、凍結を求める共和党に対し、その必要はないと、2011年度については1.4%の引き上げを提案していた(「Topics2010年8月13日 連邦政府職員が一番」参照)。

しかし、中間選挙の結果を受け、財政健全化策に向けた地ならしとして、まずは共和党の要望である凍結を自ら提案することとなった。凍結による効果は次の通り。 巨額の財政赤字に較べれば、ほんのわずかに過ぎない。凍結措置のためには連邦議会の承認が必要となるため、今後は議会での議論となる。

※ 参考テーマ「労働市場

11月29日 スキルアップは何処で? 
Source :Workers seek new skills at community colleges, but classes are full (Washington Post)
アメリカのcommunity collegesは、低所得者層や低学歴層の人々に新たなスキルと教養を提供し、彼らの所得能力を高めるとともに、産業構造の変化に伴う就業構造の転換を促進する役割を担ってきた。当websiteでは、アメリカの労働市場の柔軟性の基礎を提供しているのではないかと評価してきたつもりである。

ところが、である。上記sourceによると、その門戸が狭められているという。要因は2つ。
  1. 失業者が多く、そうしたスキルアップを図ろうとする人が急増していて、受け入れが追いつかない。
  2. 州政府の財政事情が悪化しており、community collegesへの予算が大幅に削減されている。
いずれもアメリカ経済の不振が招いた事情である。

これまで、景気が悪化した場合でも、community collegesのような労働市場への復帰装置が稼動していたことが、アメリカ経済、アメリカ労働市場の強みであったはずなのに、それが働かないどころか、財政事情を理由に機能を縮小しようとしてしまっているという。

今回の景気後退は、アメリカ社会の屋台骨を揺るがすほど、大きなショックをもたらしたといえる。

※ 参考テーマ「教育

11月26日 医療保険改革:2つのシナリオ 
Source :If Employers Walked Away From Health Coverage (Kaiser Health News)
上記sourceでは、医療保険改革法に関して、2つのシナリオが想定されるとしている。 さらに、医療費の構成比からも次のような課題を提示している。 要するに、どちらのシナリオでも、企業が負担を諦め、誰かがその穴埋めをする、もしくは医療の縮小を余儀なくされることになる。こんな結末が待っているのであれば、もう一度、医療保険改革に取り組まざるを得なくなるのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

11月23日 Big3 VEBAの特徴 
Source :The 'Big Three' VEBAs and Other Stand-Alone Welfare Benefit Trusts: What Is and Is Not Novel about Them (Andrew Stumpff)
上記論文のポイントは次の通り。
  1. VEBA自体は、ベネフィットを給付するために予め基金を積み立てておく仕組みである。1928年に法制化されており、決して新しい制度ではない。

  2. しかし、Big3によって設立されたVEBAは、単なる基金ではなく、企業の給付債務を引き受けたという点が特徴的である。これにより、企業の給付債務は消滅した。

  3. VEBAがそうした性格を有するためには、企業から独立した基金となることがポイントである。

  4. このように企業から独立した基金を設立しようとする誘引は、主に2つある。

    1. 企業の財務状況が悪く、将来の給付を確保するために、企業から給付債務を移転させることが望ましい。実際、退職者医療給付は、単なる無担保債権であり、債権の優先順位から見るとかなり劣後する。

    2. 経営再建のために、企業が給付債務を削減したい。

  5. 一般的に、企業としては、(任意である)退職者医療プランを廃止することで給付債務をなくすことができる。ただし、労組との労使協議で契約を結んでいる場合は、企業側の一方的な廃止はできない。

  6. そこで、企業の資金拠出と抱き合わせで給付債務をVEBAに移管するという、いわば取り引きによって成立したのが、今回のBig3のVEBAである。
ここからもわかるように、一般的な企業の退職者医療プランは、企業側の任意で提供されているものであり、企業側が経営難を理由に一方的に廃止して給付債務をなくすことは可能である。今回のBig3のように、企業と労組の契約でプランが提供されている場合には、給付債務を伴う独立型の基金が有効となるのである。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost

11月21日 多段階賃金体系 
Source :Two-Tier Wage Scales Gain Traction (New York Times)
上記sourceによれば、昨年、Harley-DavidsonUnited Steelworkers (USW)の間で、多段階賃金体系を導入することを含めた労働契約が成立した。その内容を簡潔に示したフレーズが掲載されている。
"His union recently accepted a new contract that freezes wages for existing workers for most of its seven years, lowers pay for new hires, dilutes benefits and brings temporary workers to the assembly line at even lower pay and no benefits whenever there is a rise in demand for Harley’s roaring bikes. "

"One provision denies laid-off or furloughed workers their old pay if they are called back; they must return as second-tier employees, earning $5 to $15 an hour less. "
確かにかつてはそうした賃金体系を認めた事例もあるが、いずれも企業が苦境に陥った場合の緊急避難措置で、苦境から脱した後にそのような賃金体系は廃止するのが通例であった。

しかし、今回の景気後退期の中で、同様の規定が、GMを含む自動車関連企業の労働契約に盛り込まれ、しかも、業績回復後に多段階賃金体系を廃止することは約束されていない。企業側からすれば、従来の賃金水準が高すぎたのが間違いであり、過剰な生産能力を解消することが目的である。

しかし、その背景には、労働市場における需要不足があることは間違いない。企業側が「こうした賃金体系を導入できなければ、生産現場を他所に移転するか、廃止するしかない」と主張すれば、今の状況では労組側は飲まざるを得ない。実際、Harleyの場合も、53対47の大差で労組は認めてしまっている。雇用の維持のためには飲まざるを得ない、という訳である。

実は、当websiteでは、この多段階賃金体系の事例を紹介したことがある。Circuit Cityという家電量販店が、苦境に陥った際に、同様の提案をして実施してしまった(「Topics2007年4月11日 Circuit City のレイオフ」参照)。この時、アメリカ社会でも相当な反響を呼び、賛否両論が戦わされたが、結局、同社は破綻してしまった(「Topics2008年11月13日 Circuit City 破綻」参照)。管理人のコメントは、「従業員を大事にしなかったから。」

企業の生き残りのためとはいえ、賃金水準を切り下げられて、がんばろうという従業員は少ないであろう。しかも、同じ仕事をしていながら低い賃金で働けと言われればなおさらである。少なくとも、苦境を脱した後に暖かい光が待っているということでなければ耐えられまい。

昨日のコメント(「Topics2010年11月20日(2) 最低賃金の目減り」参照)と考え合わせると、アメリカの勤労者の所得水準は思った以上に切り下げられているかもしれない。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制