3月10日 司法省も参戦 
Source :US health insurers forced to drop merger deal (Financial Times)
8日、Blue Cross Blue Shield of MichiganによるPhysicians Health Plan of Mid-Michiganの買収計画が頓挫した。司法省が独禁法に抵触する恐れがあるため裁判所に提訴するとの考えを表明したためだ。司法省によると、この買収計画が実行されると、Lansing地域の保険市場のほぼ90%がBlue Cross Blue Shield of Michiganに占有されることになってしまう。

Blue Cross Blue Shield of Michiganは、少し前に、56%も保険料を引き上げようとした、としてHHSKathleen Sebelius長官から名指しで非難されていた(「Topics2010年2月21日(1) HHS長官ヒートアップ」参照)。最終的には22%の引き上げで合意しているが、おそらく市場規模や加入者数の減少により、保険料が充分に上げられないのであれば買収して加入者プールを拡大しようと考えていたのだろう。

保険会社側からすると、どうやって経営を成り立たせればいいんだよ、と言いたくなるのではないだろうか。

Obama政権は、どんどん保険会社叩きに血道をあげている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月9日(1) 保険料 vs 健全性 
Source :States See Flaw in Obama Plan for Health Insurance Premiums (New York Times)
Obama政権は、保険料引き上げに対するアンチ・キャンペーンにより、医療保険改革の推進力を高めようとしてきた(「Topics2010年2月22日(3) Obama大統領も参戦」「Topics2010年2月23日(1) Obama大統領提案」参照)が、ここに来て、やはり州側から本質的な問題提起がなされ、立ち往生しかねない状況に陥っている。

州政府側の問題提起は、『保険料の監督・規制強化と、保険会社のソルベンシー、適切な利益確保のどちらが州民にとって大事なのか』というものである。保険料引き上げに対する規制、強制引き下げを行った結果、保険会社の経営の健全性や適正利益が損なわれれば、保険会社は事業を撤退せざるを得なくなる。そうなった場合、結局、損失を被るのは州民である、という論法である。

保険業界を監督してきた州政府としては、連邦政府は、保険料に口出しするのはよいが、最後まで責任取ってくれるのか、と迫っているのである。ことは、連邦と州の間の権限関係という、より本質的な問題になってきている。

それにしても罪が重いのは、HHSKathleen Sebelius長官である。彼女は、カンザス州の保険委員長を8年間も務めた経験があり、こうした本質的問題が存在することを百も承知であったはずである。にもかかわらず、自らヒートアップして社会的注目度を高め、Obama大統領まで引きずり込んでしまった。もっとも、そうした経験から、彼女が解決策を用意しているというなら、話はまったく異なってくるが・・・。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月9日(2) 企業のコスト増懸念 
Source :Seventy-Nine Percent of Chief Human Resource Officers Expect Health Care Legislation to Increase Cost of Health Care (HR Policy Association)
上記sourceによると、企業の人材部門幹部は、現在提案されている医療保険改革案により企業の医療関係コストが増えるとみている。財政赤字を増やさないことを制約としたために、その分、企業への負担のしわ寄せが行われている可能性がある。

上記sourceで紹介されたアンケートの主な回答率は次の通り。
○医療保険改革法案により医療関係コストが増える ⇒ 79%
  • 10%以上の増加 ⇒34%
  • 6%以上10%以下の増加 ⇒41%
  • 5%以下の増加 ⇒25%
○医療保険改革法案により医療関係コストが減少する ⇒ 4%
このように企業がコスト増を懸念する背景は、同団体の2月のステートメント"HR Leaders Urge the President and Congress to Consider the Views of the Employer Community in Designing Comprehensive Health Care Reform"に示されている。これをもとに、法案に賛成の部分と改善すべき部分を分類してみると、次のようになる。 企業には投票権がないので、どこまで政権、連邦議会が配慮するのかはわからないが、なんとなく国民全体が賛成の方向に盛り上がらない要因がこんなところにあるのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月7日 Medical Tourismの光と陰 
Source :Medical Tourism Can Generate 20% to 80% Savings for Employers (Thompson)
やはり、アメリカでMedical Tourismの利活用が急増している。上記sourceによれば、次のような理由が考えられている。 2008年には約$1Bの規模だったと見られているが、今後10年間で年平均35%の伸びが見込まれている。

企業側も医療コストの節約と従業員の健康確保のために、様々なインセンティブを用意してMedical Tourismに誘導しようとしている。

一方、Medical Tourismが普及してくるにつれて、様々な課題も発生してくる。この記事では、次のような課題が挙げられている。 一つの大きな流れができつつある時、社会的な課題が発生するのは当然である。それらを如何に解決するのかが、その社会の知恵である。

※ 参考テーマ「Medical Tourism

3月6日(1) 期限は18日 
Source :Obama Takes Health Care Deadline to Democrats (New York Times)
Obama大統領は、今月18日までに、医療保険改革法案について下院が必要な手続きを終えてほしいと考えているそうだ。オーストラリア、インドネシア訪問という外交日程が入っているからだ。

18日といえば、あと9営業日しか残されていない。その間に、議会民主党の合意はできるのだろうか。Pelosi下院議長は、『上院法案が下院の呑める形にならなければならない』と、上院側の大幅修正を迫っている。というのも、両法案の間で大きな争点となっているのは、依然として、 である(提案比較表参照)。 こうした難題をあと9日間で解決することなどとても難しい。Pelosi下院議長だけでなく、下院民主党幹部は、大統領の示した日程を守ることはできないだろうとみている。

一方のReid上院院内総務は、どうもだんまりを決め込んでいるようだ。Obama大統領が上院法案を支持しているような提案をしていることから、上院法案を下院がそのまま呑め、と思っているのだろう。

ここまで与党議会幹部に見切られてしまっていては、大統領の指導力も効かないことになる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月6日(2) 下院でも雇用創出法案可決 
Source :House Adopts $15 Billion Plan to Spur Job Creation (New York Times)
先に上院で可決された雇用創出法案(H.R. 2874)が下院でも可決された(「Topics2010年2月24日 超党派雇用創出法案?」参照)。普段なら、これで大統領に送付され、即署名、という段取りである。

ところが、そうはいかなかったのである。当websiteでも紹介したように、上院で規模が大幅に縮小されてしまったため、下院民主党議員達は、「こんなの雇用創出法案でもなんでもない。単なる企業減税法案だ」と反発したのである。その結果、法案に修正を加えられてもなお、民主党から35もの反対票が投じられた。
賛 成反 対不投票
合 計21720114
民主党211358
共和党61666
このため、再び上院に戻されることとなってしまい、当初の上院民主党の目的、つまり法案成立のスピードアップはできなかった。

いつも政治を見ているわけではないので、特に自信を持って言うわけではないが、民主党下院は、民主党上院に対して不信、不満を持っているのではないだろうか。普通であれば、下院が可決したものを上院が修正し、再送付してきたものを改めて下院が修正するなどということは起きない。上院の意向は尊重されるものである。

やはり、昨年1年間の医療保険改革議論の中で、民主党両院の間に大きな溝ができてしまっているのではないだろうか。

※ 参考テーマ「労働市場

3月6日(3) 真実に近い失業率 
Source :Truer unemployment rate rises to 16.8% (Washington Post)
2月の失業率は9.7%横ばいとなった。

しかし、上記sourceの筆者は、より真実に近い失業率は、2月も上昇し、16.8%になっているという。真の失業率に関する上記sourceの説明は次の通りだ。
失業者としてカウントされるためには、
  • 働いていない
  • 仕事を探している
の両方を満たさなければならない。しかし、ここには、
  • フルタイム就職を希望しているのにパートタイムの仕事をしている
  • 仕事探しを諦めてしまっている
という人達は含まれない。 こうした人達を含めなければ、真の失業率とは考えられない。
そして、この筆者は独自の試算を行って、公式統計との乖離を指摘している。彼の推計は次の通り。
※ 参考テーマ「労働市場

3月5日(1) Obama大統領の説得活動 
Source :Obama Hunts for Votes Among House Democrats (New York Times)
上記sourceによれば、Obama大統領は、『フルコート・プレス』を続けている。

まずは、上院法案に反発を持っているリベラル派から絨毯爆撃をかけるようだ。彼らの最大の関心事項は、公的プランの創設である。上院法案やObama大統領提案にはこれが含まれておらず、抵抗感が強いはずである。その親分がPelosi下院議長である。ただし、彼女も上院法案の過程では柔軟な対応を示しており、どこまで拘るかは不明である。そうした意味で、水面下でPelosi議長にリベラル派の懐柔を依頼することは可能であろう。

次に、中道派と呼ばれている議員達である。彼らは財政赤字の拡大を嫌っており、Obama提案で本当に財政赤字が拡大しないかどうかを懸念しているはずである。

そして、最大の難関は、「保守派」とも呼ばれる議員達である。その代表格がStupak下院議員で、あの"Stupak修正条項"の提案者である(「Topics2009年11月9日 Pelosiのプラグマティズム」参照)。彼は、上院法案の中絶に関する扱いが緩すぎると強く主張しており、上院法案成立までのプロセスや各種取引に反発している。下院議員は誰一人として上院法案に賛成票を投じたい者はいない、とまで明言している(New York Times)。

おそらく、Obama大統領としては、リベラル派、中道派を説得して、外堀を埋めてから「保守派」の説得にかかりたいのだろう。しかし、この保守派は、かなり大きな勢力を有している。Stupak条項に関する採決では、民主党から64票もの賛成票が入り、240 vs 194の圧倒的多数で可決されている。

単純に考えれば、公的プランに拘るリベラル派と中絶への厳しい制限を求める保守派64人とは、相容れないであろう。今の上院法案、Obama提案では、そのどちらも敵に回すことになる(提案比較表参照)。現実的に考えれば、上院法案の中絶に関する規制をぎりぎりまで厳しく修正して、下院保守派64票を確保することが、下院過半数獲得のための条件となろう。

下院で過半数を獲得することは厳しい状況なのである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月5日(2) DCで同性婚 
Source :Washington Legalizes Same-Sex Marriage (New York Times)
2日、連邦議会によるレビューが終わり、連邦最高裁も施行差し止め請求を棄却したことから、ワシントンD.C.の同性婚は施行されることとなり、3日朝から申請が始まった。正式に結婚承認手続きが終了するまでに3営業日が必要となるため(Washington Post)、DC同性婚第一号は、来週9日に誕生することになる。
同性婚の法的ステータス
州法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
ConnecticutA@
Iowa
New Hampshire
Washington, D.C.
Rhode Island
New York
Maryland
New Jersey
California○→×
Oregon
Wasington
Nevada
Hawaii
Wisconsin
Maine○→×
これを地図で見てみると、東海岸で随分と広がったとの印象が得られる。同性婚を州法で承認した州は、New EnglandとDCという限られた地域だが、その隣には、NY州、MD州がそれらを支えるように存在している。事実上、この2州を含めた地域が同性婚を法的に認めたエリア、と認識して構わないような状況である。

※ 参考テーマ「同性カップル

3月4日(1) 'Up-or-Down' Vote 
Source :In Final Push, Obama Urges ‘Up-or-Down’ Vote on Health (New York Times)
3日、Obama大統領が15分間のスピーチを行い、数週間以内に医療保険改革法案の最終投票を行うよう、議会民主党幹部に要請した。その言葉こそ使っていないが、"reconciliation process"を意図している(「Topics2009年4月26日 Reconciliation Process」参照)。

ちなみに、表題に使った'Up-or-Down' Voteは、様々な審議テクニックを排して、賛成なのか反対なのか一発勝負で決めよう、ということである。

これは、大統領としての意思表明ではあるが、実際には困難を伴う。上院法案と下院法案の統合を具体的な法案レベルに落とさなければならないからである。大統領案は示しているものの、民主党の上下両院議員達が納得したうえで示されたものではない。つまり、あとはお任せ、ということである。

それでも大統領の指示に従って合意点を探るのか、そんなことはできないと放り出すのか。それとも、話し合いのポーズは取りながら、結論を有耶無耶にしていくのか。中間選挙を念頭に、議員達の損得勘定が行われることになる。

そうした意味で、Obama大統領は政治生命をかけて賭けに出た、という見方もできるのである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月4日(2) COBRA補助策の延長 
Source :Obama signs stopgap COBRA subsidy extension (Business Insurance)
2日夜、Obama大統領が法案(HR 4691)に署名したことにより、COBRA補助策は1ヵ月延長された。引き続き、連邦議会上院では、年末までの延長を盛り込んだ法案(HR 4213)を審議している。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

3月3日 大統領の最後通牒 
Source :Obama Offers to Use Some G.O.P. Health Proposals (New York Times)
2日、Obama大統領は、連邦議会両党幹部に対して書信を送付した。そこでは、次の諸点を伝えているそうだ。
  • 共和党の提案のうち、取り込んでもよいと考えられる政策もある。
    1. 高額免責制を利用したHSAの拡充
    2. Medicaid診療報酬の引き上げ
    3. 医療過誤訴訟の見直しのための試行支援(対州政府)

  • しかし、上下両院法案を一からやり直すことはできない。
これに対して、共和党は、Snowe上院議員を含め、冷めた反応を示している。本気で超党派の取り組みをしようとはしていない、と。

こうした政治情勢の中、3日、Obama大統領は、医療保険改革の今後の進め方についての方針を示す予定である。上記書信は、共和党に対する最後通牒のようである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル