10月19日(1) Pelosi vs. Reid 
Source :Health Care Poses Stiff Tests for Top Democrats (New York Times)
連邦議会の上院、下院とも、水面下で法案の一本化作業が行われているため、表立った議論は行われていない。こうした中、行動に注目が集まっているのが、Reid上院院内総務Pelosi下院議長である。

両者とも、それぞれの議院で一本化法案を出して成立させる、という使命を帯びており、その役割が重要であることは明白である。しかし、両者とも、最終形、すなわちObama大統領が署名できる内容についてすり合わせをしようという考えは、微塵もないようだ。

上記sourceによれば、Pelosi下院議長は、『上院とすり合わせる考えはない。当面は下院案に集中する。上院との協議は、まさに両院協議会で行う』と明言している。これまでのPelosi下院議長のスタイルや、Obama大統領との距離感からいって、こうしたガチンコ勝負に出てくるのは当然であろう。それよりも、自らの考え方に近いリベラル派の意向をできるだけ多く汲みこんでいき、思いっ切り強気な案で両院協議会に臨みたい、というのが本音なのであろう。また、来年の選挙を控えた下院与党幹部としての姿勢にも通じている。

一方のReid院内総務は、より厳しい状況に立たされている。Filibuster回避のためには、民主党上院議員の賛成票は一票たりとも欠くことはできない。

そして、両者とも頭の痛い問題は、「公的プラン」の位置づけである。下院民主党では、公的プランの創設で一致はみているものの、詳細設計についてはまだまだ議論の余地がたくさん残されている。これを一本化することはかなり難しいとみられている。Pelosi下院議長の戦略からいえば、相当リベラル派の意向を汲んだ案になると思われる。そうなると、Blud Dogsの抵抗が大きくなることが予想される。

また、上院では、民主党の有力者に公的プラン創設反対の意見がある。票読みでは公的プラン創設に賛成は52、反対が5と言われているが、5票も反対が出れば、そもそも上院案が可決されない。しかも、財政委員会では、公的プラン創設案は反対されている(「Topics2009年9月30日 公的プランを財政委員会が否決」参照)。

互いに相手の事情まで考慮するような余裕はない、ということのようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月19日(2) "I'm Sorry"と言おう 
Source :Liability Means Never Saying You're Sorry (Medscape - Internal Medicine)
医療過誤訴訟に関して、アメリカでもこういう論調があるのかと、ほっとする内容である。いろいろと勉強になるインタビュー記事なので、関心を持った諸事項についてまとめておく。
  1. Baucus上院議員とObama大統領はキャップに反対

    1. 医療保険改革議論の中で、医療費高騰の要因の一つとして、医療過誤訴訟の賠償金の高額化と、それに伴う医療過誤保険料の高騰が指摘されている。そこで、医療費抑制策として、医療過誤に伴う賠償金の上限設定が課題として検討されている。

    2. しかし、Baucus上院議員とObama大統領は、これに反対の姿勢を貫いている。

    3. Baucus上位議員は、自ら示した法案で、賠償金に上限を設定するのではなく、現行の医療訴訟制度に代わる新たな制度の試行を州政府に奨励するよう求めている(「Topics2009年9月18日 Baucus法案」参照)。

    4. Baucus上院議員は、2005年に、"Fair and Reliable Medical Jusitce Act"という法案を提出しており、そこで、次の3点を検討課題として提起している。
      1. 専門の裁判官による特別医療裁判所
      2. 無過失賠償制度
      3. 法的な責務を発生させない形で、患者への医療過誤の早期伝達と損害賠償を医師に促す制度

    5. 一方、Obama大統領は、HHSに対し、「早期開示制度」により医療過誤と医療過誤訴訟を減らせないか、検討を指示している。

    6. 上院議員時代に、Clinton上院議員(当時)とともに、"National Medical Error Disclosure and Compensation Act"を提出している。内容的には、上記Baucus上院議員の提案と同じものである。

    7. こうしたアプローチは、"Sorry Works Program"と呼ばれているもので、Sorry Works Coalitionが提唱している。
    ⇒※ 管理人コメント
    1. 大統領選中のObama提案では、上述のようなアプローチよりも、「医療過誤保険市場の寡占状況を改善して保険料を軽減する」ことを優先している(「Topics2007年5月30日(1) Obama上院議員の皆保険提案」参照)。

    2. 大統領就任後、賠償金の上限設定については、AMAとの交渉カードとして切ろうとしていた(「Topics2009年6月16日(1) Obama大統領vs民主党 - 医療過誤訴訟」参照)が、民主党内の反発に会い、上限設定に反対の意思表明を行なっている(「Topics2009年6月17日 費用対効果に疑問」参照)。

    3. これらの経緯を踏まえると、Obama大統領が、医療過誤訴訟についてBaucus上院議員ほどの思い入れを持っているとは思えない。
  2. "I'm Sorry"の2つの意味

    1. "I'm Sorry"には、@悔やみの思いを伝える意味と、A責任を感じるという意味の2通りが考えられる。

    2. 医師達の中には、"I'm Sorry"と発言すると、後の訴訟で法的責任を問われるのではないかと考え、この言葉を発したがらない者が多い。

    3. しかし、医師達が黙っていることで、患者や家族は怒りだし、訴訟につながりやすくなる。

    4. こうした医師達の懸念を防ぐため、36州で"I'm Sorry法"を制定し、医師が"I'm Sorry"と発言しても、法廷で法的な根拠としないことを定めている。

    5. ただし、これらの州法では、賠償に関するルールが伴っておらず、医療機関側に過失があった場合、重大な問題になる。

  3. 賠償は制度として必要

    1. "Lexington Model"

      1. "Sorry Works Program"の典型例として、"Lexington Model"と呼ばれているものがある。

      2. これは、Lexington (Kentucky) Veterans Affairs Medical Centerでの長年の経験の積み重ねにより生まれたもので、次のような項目が含まれている。
        • 医療ミスに関する患者への情報提供
        • お詫びの方法
        • 今後の医療ミスの回避策
        • 適切な賠償の提示

      3. 2000年当時、Lexington病院の示談による平均賠償額は$15,000であった。他方、Veterans Affairs Medical Center全体での平均賠償額は$98,000であった。

    2. "Philosophy of Mistake Management"

      1. Catholic Healthcare Westでは、患者が「情報を隠された」と思うと、訴訟に向かう場合が多くなると考えている。

      2. 従って、医療ミスに関する適時開示は、コストの効率化に役立つとしている。

    3. "3Rs"

      1. COPIC Insuranceという保険会社では、不測の医療結果に対して"3Rs - Recognize, Respond, and Resolve"で臨んでいる。

      2. 医療ミスに伴いさらに診療が必要となった場合、最大$25,000を受け取れる。また、機会費用として、最大$5,000の賠償が受けられる。

      3. それでも、患者側には訴訟を起こす権利を残しておく。
※ 参考テーマ「医療過誤」、「無保険者対策/連邦レベル

10月17日 CA州-他州同性婚承認 
Source :Signing Statement by Governor (CA)
12日、シュワ知事は、他州が認めた同性婚を承認する法案(SB 54)に署名した。DCと同じ動きであるとともに、再び、CA州が西海岸における同性婚の拠点として位置づけられることになった。

同性婚の法的ステータス
州法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
ConnecticutA@
Maine
Iowa
New Hampshire
Rhode Island
New York
Washington, D.C.
California○→×
New Jersey
Oregon
Wasington
Nevada
Hawaii
Wisconsin
※ 参考テーマ「同性カップル

10月16日 COLA適用せず 
Source :It’s Official: No Social Security COLA in 2010 (AARP Bulletin)
15日、SSAは、2010年はCOLAを適用しないことを正式に公表した。本来なら、SSAのwebsiteから情報を取りたいのだが、上記sourceのように、AARPが、「35年間ぶりにCOLA適用がなくなる」とセンセーショナルに宣伝しているため、高齢者層が一斉にSSAにアクセスしているのだろう。SSAのページがまったく開けないでいる。

「35年ぶり」ということから、アメリカ社会では、物価が安定する、または下がるということをしばらく経験していなかったのだな、ということがわかる。日本の場合には、本来なら物価スライドで年金給付額を下げなければならないのに、政治的配慮で下げなかったことすらあるというのに。

高齢者にとってみれば、医療保険改革でMedicareを中心に給付が削減されるかもしれず、それに加えて年金は実質切り下げか、ということになる。

こうした懸念を払拭するため、Obama大統領は、今年の景気対策で実施した「景気対策給付金($250/人)」を来年も支給するよう、連邦議会に要請した(White House Press Release)。これによれば、給付対象は高齢者を中心に5700万人、支出額は総額$13Bとなる。

大統領は、この措置により、公的年金の財政を傷めない、と誇らしげだが、景気対策給付金の財源が連邦債であれば、公的年金にCOLAを適用した場合となんら変わらないのではないだろうか。公的年金の財産的裏付けも、非市場性の連邦債なのだから。

※ 参考テーマ「公的年金改革

10月14日 共和党の1票 
Source :Senate Panel Clears Health Bill With One G.O.P. Vote (New York Times)
13日、上院財政委員会で医療保険改革法案の採決が行われ、"14 vs 9"で可決された。数字を見ればわかる通り、共和党からOlynpia Snowe上院議員の賛成票が加わった。テレビで見たBaucus上院議員は満面の笑みを浮かべていたが、Snowe上院議員のコメントには、これとは対照的に、凍りつくような一言が含まれていた。
“My vote today is my vote today,” she said. “It doesn’t forecast what my vote will be tomorrow.”
法案の内容には納得しておらず、次の投票でどうなるかはわからない、と述べているのである。思いっ切りレバレッジを高めている、との見方もあるが、今後の上院における法案審議の難しさを表している。

まず、連邦議会内では、「高額保険プランへの課税」を巡って、意見が分かれている。上院財政委員会案では含まれており、Obama大統領も賛成している(比較表)が、下院では猛烈な反対運動が起きている。当websiteでも、労組が反対していることは何度も紹介しているが、加えて全米商工会議所も反対を表明している(New York Times)。これでは、来年の選挙を控えている下院では、気がかりにならざるを得ない。

また、議会の外も騒々しくなっている。

保険業界が、今の財政委員会法案では、保険料率の上昇は止められない、との分析を公表した(New York Times)。保険料率上昇を止められない理由は次の3点。
  1. 保険会社は、加入申請者の健康状態に拘わらず、保険加入を認めなければならず、保険料率を変更することを禁じられている。他方、個人加入義務に伴うペナルティが軽い。そのため、健康な人は「病気になるまで保険に加入しない」という行動をとる強いインセンティブが用意されていることになる。

  2. 高額保険プランへの課税と保険会社への拠出金を求めているが、保険会社は、これらのコストを一般の加入者の保険料率に転嫁する。

  3. Medicareへの償還払いを抑制することにしているため、医療機関は保険会社に減収分を転嫁する。そのため、保険料率も上げざるを得なくなる。
さらに、医療政策の専門家は、法案の重点が無保険者対策に偏っているため、医療費の抑制のための施策が疎かになっていることを指摘している。そのため、結局は、既に保険加入している国民に多大な負担をかけることにつながるとの懸念を表明している(New York Times)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月13日 地方政府の苦悩 
Source :Steep Losses Pose Crisis for Pensions (Washington Post)
上記sourceによると、『今後15年間で、地方政府の年金プランは給付債務の半分しか資産を保有していないという状況になる』との見通しが示されている。このため、地方政府は、給付を削減するか、非伝統的なリスクの高い投資をするしかない、とされている。

上記sourceでの例示は次の通り。 約束した給付を実現しなければならない地方政府の年金プランは、金融危機、低成長の中で、難しい対応を迫られている。

※ 参考テーマ「地方政府年金

10月12日 医療費抑制はできるのか 
Source :Lobbyists Fight Last Big Plans to Cut Health Care Costs (New York Times)
医療保険改革の目的の一つである、医療費抑制策についての攻防が激しさを増している。上記sourceで指摘されているのは、Baucus法案に含まれている、次の2つの提案事項(「Topics2009年9月23日(2) Baucus法案修正要望」参照)。
  1. 高額保険プランに対する課税

  2. "Medicare Commission"の創設
いずれも、今まで委員会レベルで可決された法案には含まれておらず、下院民主党からは強い反対意見が出されている。また、CBOの推計でも、それほどのコスト抑制効果は期待されていない。

「高額保険プランに対する課税」は、労働組合が抵抗しているため、下院民主党には反対が強い。労働組合員が加入する保険プランが課税対象となる可能性が高いためである。

また、「"Medicare Commission"の創設」は、製薬会社、医療機関からの反対にあっている。いずれも、既にWhite House、Baucus上院議員との間で取り引きした範囲を超えている、という理由である。既にカードを切ってしまった弱味がここに来て露呈してしまっている(「Topics2009年9月26日(2) 製薬会社との取引を優先」参照)。

さらに、"Medicare Commission"の権限が強いことも下院民主党の反発を招いている。

上院財政委員会での採決は今週にも行われると言われている。たとえそこで可決されたとしても、今後の連邦議会内での調整には、まだまだ時間がかかりそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月11日 連邦最高裁の配慮 
Source :Court asks for Obama's stance on Healthy S.F. (San Francisco Gate)
San Francisco市の無保険者対策に含まれている"Pay-or-Play"ルールがERISAに反しているかどうかを巡って、連邦最高裁の判断が求められている。これに関連して、10月5日、連邦最高裁は、連邦政府の公式な見解、立場を明らかにするよう求めた。

上記sourceによれば、連邦最高裁が重要な案件で連邦政府に見解を示すよう求めることはよくあること、とされている。しかし、今この段階で、Obama政権(=法務省、労働省)が『"Pay-or-Play"ルールはERISA違反』という見解を出すはずがない。もしも、違反という立場に立った場合、州ごとの「公的プラン」創設+"Pay-or-Play"ルールという組み合わせを考えている医療改革法案に、真っ向からダメ出しをすることになりかねないからだ。

かといって、正面切って、『"Pay-or-Play"ルールはERISAと整合的』との論陣を張る法律面からの確信もないのではないだろうか。連邦政府からしてみれば、MA州のようにうまくやってよ、というのが本音だろう。

連邦最高裁には、連邦政府に論拠の判断を丸投げすることのないよう、しっかりとした司法見解を示してもらいたい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/SF市