10月17日 仕事と私生活の境目 Source : So Much for 'Personal' Habits (Washington Post)
アメリカ社会で、仕事と私生活の境目が、どんどん曖昧になってきているという例が、上記sourceで紹介されている。
- 喫煙
Weyco Inc.という企業は、従業員及びその配偶者の喫煙を禁じている。従業員については、ランダムにニコチン検査を実施することとしており、
- ニコチン検査を拒否し続ければ解雇
- ニコチン検査で陽性となれば、1ヶ月間自宅謹慎(無給)
- 2回目の陽性反応で解雇
となる。
また、配偶者については、毎月ニコチン検査を行い、陽性となった場合には、禁煙教室を受けて陰性となるまで、毎月$80の罰金を支払わせることとしている。
同社は、自社websiteにて、なぜこれほどまでに禁煙にこだわるか、その理由について説明している。大きく分けて、次の2点に集約できる。
- 喫煙は、従業員の健康維持のためによくない。
- 喫煙は、企業にも自治体にもコストをかける。
喫煙習慣のある従業員にとっては大変な事態である。実際に解雇された従業員は、「プライバシーの問題」として怒っているし、National Workright InstituteのLewis Maltby氏は、「ライフスタイル差別」問題だ、と指摘している。
しかし、Michigan州は、Employment-at-willの考え方(拙稿「アメリカ企業の解雇の実態
」参照)が強い州なのである。約30の州で、「従業員の私生活での行動を理由に解雇権を行使する」ことを制限しているが、Michigan州法にはそのような規定がないのである。実際、同社は、堂々と、次のように宣言している。
While trying to be sensitive to smokers' personal predicament, we're also saying, "You can choose to smoke after Jan. 1, but if so, you'll need to find other employment."
Some call this a violation of privacy, pointing to the principle that "what you do in your own home is your own business." But they forget the part about "so long as it doesn't harm anyone else."
そのため、弁護士も、「合法かもしれないが、従業員にとっては大変ですね」とコメントするしかないのである。実際、同社以外にも、同様の雇用方針を持つ企業は結構あるのだ。
前出のLewis Maltby氏は、喫煙なら同社の言い分もあるかもしれないが、これが飲酒、ドライブ、オートバイ、スカイダイビングなど、危険を伴う嗜好にまで及んだらどうなのか、とまで言っているが、このような指摘に対して、同社は「及ばない」としている。
- インターネット
今時の若者は、人気のSNSに自分のプロフィールや嗜好を掲載している。企業の採用担当者は、採用候補者をネット検索して、こうした個人情報を確認するようになっているという。実際、個人情報をチェックし、人種差別などの問題を発見して、採用を止めた例もあるようだ。
あるアンケート調査によれば、19%の従業員がSNSに自己紹介を掲載しており、もし企業側がそうした情報を見ることができるとわかれば、即座に掲載をやめると回答したのが3分の1にのぼる。また、最初から個人情報はネットに掲載しない、という考え方も強くなっている。もしそうなれば、SNSの基盤も揺らいでしまう。
以上を踏まえ、気付きの点を3つ。
- 喫煙を理由に解雇するというのは、日本社会ではとても考えられない。ただし、先の通常国会で成立した医療改革関連法では、生活習慣病の予防、減少が目玉となっている。大企業でも、喫煙をリスク要因として考え、従業員の健康管理に力を入れようとの動きが強まっている。解雇まではいかないまでも、企業側のコントロールが強くなる方向にある。
- 一方で、ワーク・ライフ・バランスという課題を抱えつつ、他方で、個人の嗜好、個人情報の確認が求められている。アメリカの社会も、日本の社会も、複雑な状況に向かっている。
- ネットに個人情報を掲載しないのは、当然だろう。管理人も、当初はペンネームでwebsiteを立ち上げたが、やがて大した問題も生じないことがわかって、実名に変更した。それでも家族情報やアクセス情報は掲載しない。ただし、雇い主が情報検索して、当websiteの内容が不穏当、と判断したらどうしよう、という懸念だけは残っている。そう考えると、なかなか思い切ったことは書けなくなるなあ。
10月16日 会計基準相互承認を楽観視 Source : Remarks of Commissioner Paul Atkins Before the Institute of European Affairs, Dublin, Ireland (SEC)
13日、SECのwebsiteに、上記sourceが掲載された。Atkins委員がダブリンで行った講演内容である。
ここで、Atkins委員が、会計基準に関して、現在のSECの立場を説明している。その中で、彼は、
『調整表を求め続ければ、そのコストは結局は株主が負担することになる。IFRSがそれ自体として信頼を勝ち得ることができれば、調整表は必要なくなる。調整表を可能な限り早くなくすことがすべての人々の利益に適っているし、そうなると私自身は楽観している。』
と発言している。
もちろん、世界で一つの会計基準を適用するのが理想、という決まり文句は入っている。しかし、欧州人を目の前にして、Atkins委員は、現在のSECの政策目標は、「会計基準の統合ではなく、調整表の廃止である」と明言したことになる。しかも、2009年までの実現可能性について、楽観視しているとまで述べたのである。
2月の米欧合意(「Topics2006年2月9日(1) 会計基準を巡る米欧合意」参照)でも、同様の主旨が盛り込まれているが、コンバージェンスの推進が前提条件であるとの考えが強く示されていた。ところが、Atkins委員の発言は、『IFRSがそれ自体として信頼を勝ち得ることができれば、調整表は必要なくなる』と、さらにバーを下げている。
2月の米欧合意は、昨年10月のAtkins委員のフランスでの発言(「Topics2005年10月29日(1) 目標は「相互承認」」参照)の追認であったことを踏まえると、今回も、近いうちに、上述のような方向性がどこかで確認されることになるのではないかと思われる。
10月13日 ジェネリックの選好度 Source : Americans Likely Will Seek Low-Priced Generic Drugs At Discount Retail Chains (WSJ.com)
簡単なアンケート調査なので、ぜひ上記sourceをご覧いただきたい。ポイントは次の2点。
- 処方薬をどこで買うか?
薬局チェーン店(CVS等)39%、ディスカウント・ストア(Wal-Mart等)13%、スーパーマーケット(Safeway等)10%。
- ブランド品とジェネリックの選択肢がある場合にどうするか?
ジェネリックを買うのが68%、ブランド品を買うのが32%。
処方薬の値段が高いアメリカで、国民は少しでも安く買おうとしているのがよくわかる。
ちょっとわき道にそれてしまうが、処方薬を買う場所として、オンラインまたは郵便が11%となっている。さすがにオンラインが大半と思われるが、アメリカでちょっと驚きの体験をしたので、ご紹介しておく。
カナダとの国境近くの小さな町のガソリン・スタンドに立ち寄った時のことである。アメリカでは当たり前になっていた「セルフ+カード決済」の給油機がなく、昔ながらの背の低い給油機で給油し、店舗の中のカウンターで支払いを行った。そして、ふと店舗の壁を見ると、"Prex Order"と書いたボックスに、いくつか紙が投げ込まれていた。よく見ると、処方箋が投函されているのである。おそらく、何日かおきにその処方箋を集めて最も近い薬局に持っていき、数日後に自宅かそのガソリン・スタンドに処方薬が届くのであろう。PCを使えない、車も運転できない田舎の高齢者は、こうやって処方薬を入手するのだろう。
さて、本筋に戻り、わが国におけるジェネリックの選好度は、3割程度という数字がある。実は、この数字は、公正取引委員会の調査報告書(「医療用医薬品の流通実態に関する調査報告書(2006年9月27 日)」)で引用されている。さらに、この報告書では、「医師・薬剤師から納得のいく説明があればジェネリックを選択する」とする消費者は78.1%にものぼることも紹介しているのである。つまり、日本人も、ちゃんとした説明さえあれば、ジェネリックを選択するのである。
ところが、医者の方のアンケート調査結果を見ると、ジェネリックに対する不安を挙げる回答が84.6%もあるのだが、その科学的根拠はどうなのだろうか。先発品MRの営業妨害まがいの行為もあるようだ。さらには、「白い巨塔」に出てくるように、医師の身の回りの世話から出張の手配まで、大企業のMRが面倒を見ているような状況では、医師はジェネリックじゃなくてブランド品の方に患者を仕向けるだろうな、と想像してしまう。
ジェネリック製造会社、厚生労働省には、是非とも科学的見地から、ブランド品とジェネリックの差を検証し、国民に知らせてもらいたいものである。
10月12日 新会計基準のインパクト Source : Market impact of pension accounting reform (Merrill Lynch)
退職給付会計の見直し第1段階は、FAS158の公表をもって終了した(「Topics2006年10月3日 FAS158」参照)。上記sourceは、FAS158が、2006年の決算にどのような影響を及ぼすかを分析したレポートである。対象企業は、S&P 500。
ポイントは次の通り。
- S&P 500のうち、DBプランを保有する企業は360社。それらを総計すると、2006年末時点で、PBOが$1,469B、プラン資産が$1,382Bとなり、積立状況は▲$87B、積立比率は94%となる。360社のうち、63社は積立超過となる見込みである。
- 他方、OPEB(Other Post-Employment Benefits)の積立状況は深刻で、OPEBの給付債務は$405B、プラン資産は$95Bとなり、積立状況は▲$310Bとなる。OPEBのほとんどが退職者医療プランであり(「Topics2006年6月7日 退職者医療の積立比率が悪化」参照)、こうした状況からみて、退職者医療プランを廃止する企業がさらに増えるのではないかと思われる。
- 年金プランとOPEBを合計すると、▲$397Bの積立不足であり、積立比率は79%となる。
- 個別企業別に見ると、積立不足額の上位5社は、Exxon Mobil、Ford Motor、Lockheed Martin、Raytheon、Pfizerとなる。しかし、これに手許のCashを加えると、Raytheon、Lockheed Martinは依然として大きな積立不足を抱えているものの、Exxon Mobil、Ford Motor、Pfizerは、積立不足上位30社から消えてしまう。(Table 5, 6)
- FAS158への変更により、B/S上、年金は$156Bの資産超過から$87Bの積立不足になるため、その影響額は▲$243Bとなる。また、OPEBは、積立不足が$219Bから$310Bに拡大することから、その影響額は▲$92Bとなる。よって、両者を合計した影響額は、▲$334Bとなる。ここで、実効法人税率を35%と仮定すると、$117Bの支払い税額の減額となるため、税引き後の影響額は、▲$217Bとなる。これは株式総額の6%に相当する。
- これを個別企業ベースでみると、なんと5社の株式が紙くずになってしまう。その5社には、GM、Goodyearが含まれている。Fordはかろうじて紙くず化は回避できるものの、9割近い株価下落となってしまう。(Table 11)
- 年金給付債務をABOで計測すべきという議論(「Topics2006年7月6日(2) PBOよりABO」参照)は、退職給付会計見直しの第2段階で行われる可能性はある。また、DBプランを凍結してしまえば、給付債務は、PBOよりもABOに近くなる。それでも、ERISAがある限り、年金給付債務が消滅することはない。
参考までに、GM、Fordの株価は、次の通り。⇒ GM Ford
10月11日 制度と心情の乖離 Source : My baby is ill and my boss couldn't care less (Fiancial Times)
当websiteでは、最近、働く母親支援、Flexible Working Arrangements (FWAs)などについて、アメリカ企業の積極的な取り組みを紹介して来たが、上記sourceを読むと、管理職も同僚も、単純に諸手を挙げてそうした制度を受け容れている訳ではなく、また働く母親側にも整理がついていない面があるようだ。
上記sourceでは、「子供が病気がちなのだが、上司に子育てへの理解がない。法的に問題のある発言をしている」という投稿に対して、弁護士、同じく働く母親などから、アドバイスが寄せられている。アメリカ人も同じように悩みつつ、こうした制度を運用しているのだということが実感できるし、また、何でも裁判に訴えるという姿勢はよくない、という考え方も伺える。是非ご一読いただきたい。