10月19日 CSR延期は不透明
Source :Bipartisan deal to fund insurer payments faces tough political slog (Modern Healthcare)
CSR延期のための合意内容が徐々に伝わり始めている(「Topics2017年10月18日 CSR短期延長で合意」参照)。上記sourceで示されているのは次の諸点。
  1. CSRについては、2年分の財源を用意する。2017年10-12月期も含まれる。

  2. 州政府が独自の保険制度を構築しやすいよう、州政府の規制免除申請に対する処理を迅速化する。

  3. PPACA適格プランに関する規制を緩和する。

  4. 高免責額のcopper planへの加入を全年齢に認める(PPACAでは30歳以下のみ)。

  5. PPACAで定められている10の保険給付内容については継続する。

  6. 健康状態に基づく保険料設定を認めないことも継続する。
ざっと見る限り、現状維持の姿が浮かび上がってくる。それだけに、実現には不透明感が漂う。 超党派合意とはいっても、孤立感の高い状況にあるようだ。

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10月18日 CSR短期延長で合意
Source :Senators announce bipartisan healthcare deal, Trump endorses (LA Times)
10月17日、上院共和党幹部は、CSRを延長することで上院民主党幹部と合意したことを公表した(「Topics2017年10月16日 オバマケアへダブルパンチ」参照)。

トランプ大統領も同意しているようだが、条件が付されている模様だ。
  1. 延長は1〜2年。

  2. 州政府が保険料の安い保険プランを認可できるよう、州政府に保険給付内容に関する権限を賦与する。
上記2.に関連する法案は、今週末にも提出される見込みだ。この短期取引が成立すれば、中堅所得層の保険料高騰や連邦政府拠出の大幅増額は回避できる。

それにしても、大統領令の発出が脅しに使われているようで、何だか嫌な気分だ。

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10月16日 オバマケアへダブルパンチ
Source :Halt In Subsidies For Health Insurers Expected To Drive Up Costs For Middle Class (NPR)
医療保険組合制度の拡充等の検討を命じた大統領令発出直後、今度は、HHSCSRに関する連邦政府拠出を即日停止すると発表した(HHS Press Relaese)(「Topics2017年10月13日 オバマケア破壊大統領令」参照)。

理由は、連邦拠出は不適切な手続きに基づくものであり、これを2016年に連邦地裁も認めているから、というものである。

この拠出停止により影響を受けるのは、中堅所得層以上である。具体的にはFPL400%以上の所得を得ている人である。保険会社は、法律に基づいてこれらの人々の自己負担分に対する割引を続けなければならないが、連邦拠出金が入ってこないとなると、保険料を上げざるを得なくなる。全国レベルでみると、来年は約20%の保険料引き上げが必要になると言われている。

連邦政府がCSR補助金として拠出しているのは年間70億ドルだが、この拠出を停止してしまうと、逆に10年間で2,000億ドルの負担増を招くことになる(CBO推計)。これは、PPACAでは保険料の上昇額が所得の一定割合を超えてはならないと規定している。保険料の上昇を抑えるために、連邦政府は保険料補助金(tax credits)の追加負担をしなければならないからだ。

こんなばかな話になるから、政権内でCSR廃止が議論され始めた頃、Price前HHS長官はその対応に苦悩していた(「Topics2017年8月1日 HHS長官の苦悩」参照)。上記のCBO推計も、その頃公表されたものであり、Price前長官を後押しする材料となったと思われる。

ところが、そのPrice前長官は、既に9月末に更迭されてしまい、もうトランプ大統領を止める人がいなくなったということなのだろう。

オバマケア破壊はトランプ大統領主導で進んでいるが、その余波を被って連邦政府が立ち行かなくなるかもしれない。

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10月13日 オバマケア破壊大統領令
Source :President Donald J. Trump is Taking Action to Improve Access, Increase Choices, and Lower Costs for Healthcare (The White House)
10月12日、トランプ大統領は、予告通りオバマケアをひっくり返すことを目的とした大統領令を発出した(「Topics2017年10月11日 大統領令で医療保険組合」参照)。その柱は次の3本。
  1. 医療保険組合制度の拡充(⇒労働長官)

    • 医療保険組合制度(Association Health Plans, AHPs)を拡充し、企業が保険プランを州際購入できるようにする(「Topics2017年9月29日 大統領令で州際保険販売」参照)。

    • 州際活動を行っている企業に適用されるERISAを拡大解釈すれば、AHPsも保険プランを州際購入できる。

    • 特定の従業員の加入を拒否することはできない。

    • 従業員の健康状態に基づいた保険料設定はできない。

  2. 短期間保険プランの拡充(⇒財務長官、労働長官、厚生長官)

    • 短期間保険プラン(short-term limited duration insurance, STLDI)は、コストが安く、医療機関ネットワークは広い。

    • 失業者、保険会社が一つしかないcountyの住人、医療機関ネットワークが限定されている人、保険加入期間に申請しなかった人などにとって利便性が高い。

  3. HSAsの拡充(⇒財務長官、労働長官、厚生長官)
前日示した通り、この大統領令に対する批判は厳しい。特に、全国保険監督長官協会(National Association of Insurance Commissioners, NAIC)の会長は、大統領令に関するステートメントの中で、次のような懸念を表明している。
  1. NAICは、予てよりAHPsの拡充は、加入者保護、プラン運営の健全性の観点から問題があるとの懸念を表明してきている。

  2. 保険市場は既に脆弱になりつつあり、このような提案はさらに深刻な影響をもたらす。
州政府の保険監督当局が責任をもって行政監督できないという事態になると言っている。州政府から愛想をつかされてしまうと、いくら大統領令でも制度変更は難しくなる。

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10月11日 大統領令で医療保険組合
Source :Trump Says He'll Sign Order To Expand Health Insurance Options (NPR)
10月10日、トランプ大統領は、大統領令によって「医療保険組合」を創設しやすくすると表明した。具体的な大統領令の内容は、関係政府機関に対して個人や中小企業が組合を創設して医療保険を購入できる制度を検討するように指示する、というものである。

上記sourceで示されている医療保険組合制度の概要は次の通り。
  1. 企業グループ、商工会議所、中小企業団体などで医療保険組合を結成し、医療保険を購入する。

  2. 医療保険組合は、PPACAの規制の対象外。従って、加入受け入れ義務、給付内容の規制は受けない。

  3. 他州の保険プランを購入することができる。
先日トランプ大統領が公言した州際保険購入提案が入り込んでいる(「Topics2017年9月29日 大統領令で州際保険販売」参照)。

また、先日、連邦議会上院における再挑戦に反対したRand Paul上院議員は、9月にこの医療保険組合構想を提案していた(「Topics2017年9月26日 再挑戦は失敗か」参照)。彼は、超保守的な立場から上院再挑戦案に反対していたのである。

この大統領提案に対し、医療保険の専門家や医療保険会社は、否定的な見解を示している。
  1. 医療保険組合が安い保険料で健康な人達を吸収してしまえば、Exchange等に残された既往症を持つ人々、病弱な人々の保険料は高騰する。

  2. 異なる州に散在する人達を集めた組合が、医療機関との間で既存の地元の保険会社よりも強い交渉ができるはずがない。

  3. そもそもPPACAの対象外とする制度を創設することは技術的に難しい。

  4. 誰が保険監督をするのかわからない。
反論はいちいち尤もではあるが、そもそも大統領はPPACAが作り上げてきた世界、象徴的には"Exchange"をぶっ壊したいのだから、そうした理屈が通用する筈もない。今週後半には大統領令に署名するということであり、検討結果を見守るしかない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン