5月9日 中小企業の雇用回復が弱い 
Source :Written Statement by Alan B. Krueger Assistant Secretary for Economic Policy and Chief Economist, U. S. Department of the Treasury, before the Joint Economic Committee
4月の雇用統計は、失業率が9.9%に上昇したものの、雇用者数の増加が3月が上方修正されて23万人、4月が29万人となり、市場は雇用が改善していると認識しているようである。失業率の高まりも、景気の回復を実感して労働市場に戻って来た労働者が増えたと理解されている。 上記sourceは、財務省エコノミストの議会証言原稿である。そこでは、@長期の労働市場の構造変化と、A今回の景気後退期における企業規模別の雇用状況という、2つのテーマを扱っている。ここでは、新たなデータを利用した後者Aの分析に注目したい。

  1. 従業員規模別に分類する。
    • 50人未満:企業数全体の約40%に相当 → 便宜上『小企業』とする
    • 50〜249人:企業数全体の約1/3に相当 → 『中企業』
    • 250人以上:企業数全体の約1/4%に相当 → 『大企業』

  2. リーマン・ショックを境に、企業の募集人数割合(募集人数/雇用数+募集人数)、特に大企業のそれは大きく低下した。その後、昨年秋以降、大企業の募集人数割合は急速に改善している。
  3. リーマン・ショックに伴う金融危機に際し、小企業は直ちに大規模なレイオフを敢行した。
  4. 一方、中企業は、新規雇用を急速に縮減した。
  5. 大企業は、既に昨年の春頃から新規雇用を増やしてきている。
  6. 理論上の労働需要《(新規採用−解雇+募集人数)/雇用者数》を試算してみると、大企業については既に2009年初めから急速に回復しているのに対し、中・小企業のそれは不安定な動きをしている。
  7. 中・小企業の雇用回復力が弱い背景には、アメリカの中規模以下の銀行が、未だに不良債権処理が終わらず、積極的な融資姿勢に転じていないことがある。中・小企業は、銀行融資に依存している部分が大きく、それらが貸し渋っていれば、運転資金にも窮する状況なのである(「Topics2010年2月23日(2) 失業が長期化」参照)。
こうしてみると、アメリカの雇用が本格的に回復してくるためには、中堅以下の銀行の不良債権処理に目処がつく必要があるといえる。

※ 参考テーマ「労働市場

5月8日 "Play"より"Pay" 
Source :AT&T, Verizon, others, thought about dropping health plans (CNN)
連邦議会が大手企業4社の内部資料を精査したところ、医療保険改革法で規定された"Pay-or-Play"ルールについて、従来通り医療保険プランを提供するよりも、プラン提供を止めてペナルティを支払った方がコストが安くなると判断していることがわかったそうだ。

4社がこれら資料をもって保険プラン提供をやめると判断した訳ではないが、そういう判断をする企業が続出する可能性が出てきた。

これは、Obama政権ならびに民主党が改革案を考えてきた前提を、2つの点で崩してしまうことになる。第1は、国民が現在加入している保険プランを維持したいと思えば維持できる、と約束してきた点である。今の企業提供プランに満足していたとしても、企業側が提供を止めると判断してしまえば、保険加入を維持できなくなる。

第2は、財政コストである。企業が保険プランの提供を継続することを前提に財政赤字幅を試算しているのだが、企業がコストを理由に保険プラン提供をやめることになれば、その分、公的部門のコストは増えるはずである。従って、法案審議に利用された財政赤字に関する試算は役に立たなくなる。

なお、企業が保険プランの提供を継続する際、大きなコスト要因として見做しているのが、@"Cadillac Tax"と、A製薬会社、医療器具メーカー、保険会社が負担する拠出金である。Aの方は、利用者への転嫁が前提となっているために、保険プラン側としての負担増とみなしているのである。

こうした動きが現実となった時、Obama大統領と民主党の対応はどうなるのであろうか。まずは、"Penalty"の引き上げを考えるのだろうが、企業が保険プラン廃止を決めてしまう前に対策を打たなければならない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」「医療保険プラン

5月7日 DBの遅延認識廃止:IASB 
Source :IASB proposes to amend IAS 19 for defined benefit plans (IAS Plus)
4月29日、IASBが、DBプランの会計基準(IAS 19)変更を提案する公開草案を公表した。途中国際的な金融危機を挟んだために、公開草案公表までずいぶんと時間がかかった。

ポイントは、次の2点。
  1. 確定給付に関わるコスト、資産価値のすべての変動分は、直ちに認識する。コリドー・ルールや期間配分は認めない。

  2. 当期に発生した費用は、次の3つに分類して計上する。
    1. 勤務費用 → 営業損益
    2. 利息費用(ネット) → 財務損益
    3. 再測定損益 → その他包括利益
今後のスケジュールは次のようになっている。 FASBは、このIASBのプロジェクトの行方を見極めてから新たな基準見直しに入る予定だが、当初から、両者はコンバージェンスを基本としており、大きく異なる見直しを提案してくることはないと思われる。

これで方向性はほぼ固まったような雰囲気ではあるが、それでも留保がつく可能性もある。今回の国際的な金融危機の反省点の一つに、"Pro-Cyclical"な制度設計が危機を増幅した、という点がある。今回のIASBの公開草案は、まさに"Pro-Cyclical"な性格を強く持ったものである。こうした点が国際的にはどう評価されていくのかも、併せて見守る必要がある。

※ 参考テーマ「年金会計

5月6日 PBGCの債務超過拡大 
Source :PBGC Issues Annual Report for Fiscal Year 2009 (PBGC)
5月4日、PBGCが2009年の年次報告を公表した。年次報告書のP.2に掲載されているハイライトの概要は、次の通り。
  1. 2008年から2009年にかけて、PBGCの財務状況は$10.8B悪化し、債務超過額は$11.2Bから$21.9Bに拡大した。主な理由は、プラン廃止が相次いだことと、金利の低下である。



  2. 保険料収入は増加したが、これは積立不足のプランが増え、可変保険料が引き上げられたことによる。

  3. PBGCは17年連続で財務諸表についての『適正意見』を得られなかった。

  4. 2009年にPBGCに移管された年金プランは、Delphi、Lehman Brothers、Circuit Cityなどである。

  5. 投資収益率は、13.2%と好成績を収めた。
PBGCの財務状況の好転にはまだまだ時間がかかりそうである。それどころか、
@GMが年金プランを継続できなくなればどうなるのか、
A昨日紹介したように、DBプラン給付債務の即時認識が施行されたらあっという間に『倒産→PBGC行き』という年金プランが続出しないか、
など、懸念が山積している。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

5月5日 半数以上がAZ州法支持 
Source :Americans Seriously Concerned About Immigration, Poll Finds (New York Times)
NY Timesの世論調査によれば、移民対策で講じられたAZ州法改正は、半数以上の国民から支持を得ている。
以下、上記sourceによる世論調査結果の概要。 いずれにしても、連邦議会では未だに具体的な法案提出が行われていない。誰もが問題の難しさ故に尻込みしている、という状況なのであろう。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

5月4日 CA州年金基金への風当たり 
Source :The politics and perils of public pensions (Los Angeles Times)
CA州職員の年金プランに対する州民の風当たりが強くなっている。給付水準の切り下げはもちろんのこと、56%の州民が「完全に年金プランを廃止し、新入職員は401(k)だけにすべき」と考えているという。

これほど厳しい経済危機で、民間企業のDBプランは凍結が相次ぎ、未だに高水準の年金プランを維持している州政府年金は問題だ、と思われている。

こうした中、シュワ知事は「州の財政問題にとって最大の脅威の一つであり、新規職員は1999年以前のシステムに戻すべきだ」としている。また、州議会共和党は、年金額を引き下げるとともに、支給開始年齢の引き上げを提案している。州政府職員は、現在の62歳から65歳へ、消防士は現在の50歳から57歳へ、という具合に。

州議会民主党は、年金プランの見直しの必要性は認識しながらも、最大の支持母体である州職員労組の顔色をうかがっていて、なかなか踏み切れないのが実情である。

こうした環境の中で、今年11月に中間選挙、知事選を迎えるのである。

※ 参考テーマ「地方政府年金

5月3日 ハイリスク・プール:州政府の反応 
Source :Some Republican States Opting Out Of High Risk Health Insurance Pools (Kaiser Health News)
States resist creating pools to help people denied health insurance (Los Angeles Times)
States Decide on Running New Pools for Insurance (New York Times)
ハイリスク・プール保険について、州政府が連邦政府と連携するかどうかの意思表明をする期限が4月30日であった(「Topics2010年4月6日 Sebelius長官のカウンター」参照)。上記sourceによれば、連邦政府と連携しないとの意思表明を行う州が、最大20州にのぼると報じている。

HHSからは、個別州毎のリストが公表されていないため、未確認情報ながら、報道ベースで州毎の意思表明を表形式にまとめてみた。その際、既に州独自のリスクプール保険を運営している州(Kaiser Family Foundation)、個人保険加入義務に関して法廷闘争に参加hしている州、それに州知事の党派別がわかるようにしてみた。

この表をみる限り、連邦政府と連携を取らないとの意思表明を行った州は、知事が共和党の場合が多い、というぐらいしか言えない。必ずしも党派別の判断になっていないのは、おそらく、連邦政府からの資金援助の具合が判断を左右している部分が大きいためと思われる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

5月2日 移民法改革:上院民主党案 
Source :Democrats Outline Plans for Immigration (New York Times)
Obama大統領が先行きは難しい、との見解を示したばかりだが、上院民主党のSchumer上院議員(D-NY)が、法案の骨子を示したそうだ。
  1. 国境警備を強化する。

  2. 不法住民用の"Social Security card"を創設する。

  3. アメリカ国内に滞在したい不法移民は、次の要件を満たさなければならない。
    1. (不法入国という)犯罪を犯したことを認める。
    2. 税と手数料を支払う。
    3. これまで犯罪歴を申告する
    これらの条件を満たせば、8年後に合法的な滞在資格を賦与される。
一方、これまでSchumer上院議員と超党派で法案作成を試みてきたGraham上院議員(R-SC)は、完全に話し合いから降りてしまったようだ。これで、ますます共和党の協力は得にくい状況となっている。

こうした状況をみると、改選期を迎えるSchumer上院議員のパフォーマンス、との見方も充分あり得る。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

5月1日 移民法改革は先送り 
Source :Obama Says Passing Immigration Bill May Be Difficult (New York Times)
過熱気味の移民法改革論議だが、Obama大統領は、早々に年内決着は難しいとの見解を示したらしい。さらに、ラテン系を代表するグループは、AZ州法は連邦政府の権限を侵しているとして、裁判に訴える準備を進めているという(Los Angeles Times)。

Obama大統領としては、手形を落とせないままに中間選挙に臨むことになりそうである。しばらくこの移民法の問題は、ラテン系国民の投票行動を左右しそうである。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者