8月19日 小売業を狙い撃ち Source : New York City Council passes coverage mandate (Business Insurance)

NY市議会が、一定の規模以上の小売業者に従業員医療費負担を義務付ける法案を、圧倒的多数で可決した(press release)。拠出方法は、HSAsへの拠出、償還払いなど、様々な選択肢が認められているようだ。ただし、どの程度の金額を拠出すればよいかは、今後の調査次第となっている。上記sourceによれば、従業員一人・時間当たり、$2.5〜3程度とみられている。

本件について、Bloomberg市長が署名するかどうかは明らかになっていない。

従来より、NY州は、無保険者対策に熱心であり(「Topics2005年1月20日 NY州の医療再保険プラン」参照)、また、小売業に対する風当たりは、全米で強まっている(「Topics2005年6月6日 Wal-Mart Taxの広がり」参照)。こうした中での法案可決は、かなりの影響をもたらすのではないかと思われる。当面は、市長の判断に注目していきたい。

8月15日 Deltaもピンチ Source : Delta Said to Explore Bankruptcy Financing (New York Times)

航空業界第3位のDelta Air Linesが、Chapter 11申請の可能性を強めているとのことである。危機説を巻き起こしている原因は、次の4つ。

  1. 航空機燃料の高騰
    燃料が¢1値上がりすると、Deltaにとってのコストは$25M上昇する。今年に入って¢35(ガロン)上昇しているので、Deltaにとっては$875Mのコスト増となる。

  2. クレジット会社への支払い
    クレジット会社への支払い期限が、8月29日となっている。この日までにMaster、Visaへの支払いを終えないと、それ以降の航空券の販売が、クレジットを利用できなくなる。これは、アメリカ社会ではとても大きな痛手となる。また、その期限はクリアできたとしても、クレジット会社から、手元流動性を確保するよう要請されている。

  3. 年金への拠出
    2005年分拠出分の残りとして、$135Mの支払いをしなければならない。

  4. 債務の返済
    第3四半期$100M、第4四半期$335M(含む社債償還)の返済期限が到来する。
これらの対策として、Delta航空が取るのではないかと見られている措置は、次の3つ。 これらの調整がうまくいかなければ、早くて9月末にもChapter 11の申請を行う可能性があるという。再び年金拠出がChapter 11の引き金を引くことにならないことを祈る。

8月12日 FSAの猶予期間 Source : IRS Allows Employers to Provide Grace Period for Frexible Spending Accounts (Littler Mendelson)

Flexible Spending Accounts (FSAs)は、人気のある医療費積立勘定である。制度の概要は、ここを参照していただくとして、来年から、ちょっとした改正が行われる予定になっている。

通常、FSAsはカフェテリア・プランの一つとして採用されており、従業員が非課税で拠出、積み立てることができる。ただし、余った拠出額を翌年に繰り越すことができないため、"use-it or lose-it"原則と呼ばれ、年末になると必要もないのに医療機関に行って、医療費を使うような慣行さえある。

それが、今年の5月18日、IRSが通達(IRS Notice 2005-42)を発表し、2ヶ月と15日間のGrace Period(猶予期間)を設けることを認めた。つまり、暦年のプラン年度の場合、翌年の3月15日までの医療費支払い請求までは当該年分として扱い、当該年末時点での残高を充当することを認めるというものである。完全な繰越とまではいかないが、プラン年度終了後の75日間程度までは使えることになる。

上記のIRS Notice 2005-42の例示(暦年プラン年度の場合)で説明すると、次のようになる。
 
例 1
例 2
2005年拠出額$1,000$1,000
2005年末残高$200$200
2006年拠出額$1,500$1,500
Grace Period(猶予期間)の医療費$300$150
2005年末残高の充当額$200$150
2005年末残高の失効額-$50
Grace Period終了時の勘定残高$1,400$1,500
『事業主側としては歓迎』というのが常識的だが、どうもそれほど評価されているわけではないようだ。Deloitte/ERICの共同調査によると、結果は次のようになっている。

  1. 調査対象企業の97%が、Health Care FSAとDependent Care FSAの両方を提供している。
  2. しかし、Grace Periodを設ける予定の企業は、34%しかない。
  3. Grace Periodを設けない理由としては、次のような事項が挙げられている。
    1. プラン年度がまたがることになり、事務が煩雑
    2. 残高の失効はそれほど大きな問題とはなっていない
    3. 従業員への説明が複雑
    4. 勘定からの支払い限度額との関係が不明
    5. HSAsの提供を開始する
やはり、中途半端な小手先の改正では、却って不人気を招くことになるということか。

8月11日(2) 退職後医療費の積み立て Source : Options and Alternatives to Fund Retiree Health Care Expenditures (TIAA-CREF)

退職後医療プランについては、提供する企業(雇い主)が次第に減少していることは周知となっている。上記sourceは、そうした状況の中で、退職後医療にかかる費用をどのように確保するかの選択肢を検証している。大事なテーマであるので、抄訳の形でまとめておきたい。

  1. 退職後医療制度の現状

    2004年、TIAA-CREFは、全国の高等教育機関・研究所を対象に調査を行った。それによれば、退職者医療保険プランを提供しているのは、76%であった。しかし、そのうちの12%は、今後5年以内に提供を打ち切る見込みである。また、積立比率を見ると、積立比率が100%に達しているのは13%しかなく、9%が不完全積立、47%がまったく積立ゼロ、32%が不明となっている。

    他方、Medicareに関しては、今後75年間のネットの給付債務は$29.6Tであり、Part Aは2020年に債務超過となる。

    こうしてみると、将来の退職者は、現状以上に退職後医療費を自ら用意しておく必要がある。

  2. 退職後医療費

    2005年に65歳で退職し、80歳まで生きるとすると、Medicare Part B、退職者医療保険の保険料を負担するために、$76,000の資産が必要となる。さらに、自己負担分(約$1,800/年)を確保しようとすれば、$112,000の資産が必要となる。

    90歳まで生きるとなると、それぞれ、$143,000、$210,000の資産が必要となる。

  3. 退職後医療のための積立手段

    退職後の医療に関する費用を予め用意するための積立手段はいくつかあるが、いずれも長短があり、上述の資産を用意するために完全な手段とはいえない。

    考えられる主な積立手段は、次の4つ。以下、それぞれについて検討する。


  4. Health Savings Accounts (HSAs)

    制度の概要

    個人が拠出限度額一杯の$2,650を拠出した場合、10年で$48,100、20年で$120,100、30年で$248,300が積み立てられる。(しかし、これは全額手付かずで繰り越した場合であり、ほとんど不可能な数字である。仮に拠出額の4分の1しか繰り越さないとした場合には、30年間でようやく$10,000にしかならない。)
  5. Health Reimbursement Arrangements (HRAs)

    制度の概要

    帳簿上の引当金であり、実際に拠出されて積み立てられているわけではない。

  6. Retiree Medical Accounts (RMAs)

    HRAsと同様、事業主拠出による勘定だが、退職後の医療費用にしか引き出しできない(現役時代には利用できない)。

    RMAは、帳簿上の引当金であり、事前積立されているわけではない。事業主は、従業員の年齢と勤続年数によって拠出額を決定する。従業員も拠出できるものの、税引き後でしかできない。

    退職後の医療保険購入は、事業主が提供するプランでもいいし、別のプランでもいい。また、その引き出しに関しては非課税である。

    事業主にとって、RMAが最も魅力的と思われる。ただし、従業員拠出が税引き後であること、事前積立がないこと、などが問題となる。

  7. Voluntary Employee Benefit Associations (VEBAs)

    VEBAsは、もともと複数事業主による従業員福利プランであり、IRCと1947年タフト・ハートレー法により、創設された。その後、医療費の高騰に対応するため、ERISAにより単独事業主にも利用が認められるようになった。

    事業主は拠出額を損金算入できるが、拠出額は実際に直接支払われた医療費と、一定の積立額に限定される。この積立額は、従業員の年齢、数理計算、支出対象額によって規定される。積立額を超過した拠出は、課税対象となる。

    事業主の間では、VEBAsに対する関心は薄く、また、事前積立の必要性も認識されていない。

  8. 今後の課題

    調査の中で、政策要望の選択肢として、次の2つを呈示した。

    1. 退職後医療特別勘定を創設する。事業主、従業員ともに非課税で拠出できるものとし、退職後の適格医療費のための引き出しも非課税とする。

    2. 適格医療費のためのDCプランからの引き出しを非課税にする。


    これについて、事業主、従業員ともに、b.案を支持する意見が多い。今後の課題として検討しておく必要がある。
最後に、今日のTopicsで用いたsourceは、いずれも、Paul Fronstin (EBRI) によるものである。

8月11日(1) 企業医療保険プランに加入しないわけ Source : Employment-Based Health Benefits: Trends in Access and Coverage (EBRI)

上記sourceによれば、1997年から2002年の間に、企業から医療保険プランの提供がある企業の労働者の割合は、わずかながらも増えているのに対し、実際に医療保険プランに加入している従業員の割合は低下している。その理由として、2点が挙げられる。
  1. 加入資格を満たしていない。勤続年数要件を満たしていないケースは減っている反面、パートタイムであるために加入できない割合が増えている。この場合、@パートタイムの加入資格をなくした割合が高まっている、Aパートタイムそのものの割合が高まっている、という2つのパターンが考えられるが、上記sourceでは、それは明らかになっていない。

  2. 自らの意思で加入しない。その理由としては、配偶者側の職場の医療保険プランでカバーされているというのが最も多く、続いて負担が重い、加入する必要がない、という理由が続く。
こうしてみると、パートタイムの扱いが結構大きな課題として浮かび上がってくる。就業形態の多様化の先進国であるアメリカでも、パートタイムと正規社員の格差は厳然と残っているようだ。