4月30日 退職年齢の国際比較 
Source :Americans work longer (Economic Policy Institute)
上記sourceは、「アメリカの公的年金の受給開始年齢を引き上げるべきとの議論があるが、既にアメリカ人の退職年齢は高まりつつある」という主張である。そこに、退職年齢の国際比較が掲載されていた。
ショックだったのは日本である。ヨーロッパ人は年金受け取りを楽しみにして、さっさと退職してしまう、という印象を持ち続けていたのだが、この図を見ると、日本よりも早く退職してしまうのは、ギリシャ、フランス、韓国だけである。いつの間にか日本人は働かなくなってしまったのだろうか。

※ 参考テーマ「公的年金改革」、「労働市場

4月29日 償還割合規制は不発か? 
Source :Health Insurers May Meet Medical Cost Mandate Under Health Law (BusinessWeek)
医療保険改革議論の中で悪玉となった保険会社だが、その悪玉にされた理由の一つが「儲けすぎ」であった。この儲けすぎ体質を改善させるために、改革の中で保険料収入に占める医療費償還割合について下限を設けることとしている。

具体的には、次のような内容とスケジュールである。
"Medical loss ratio and premium rate reviews"

  • Require health plans to report the proportion of premium dollars spent on clinical services, quality, and other costs and provide rebates to consumers for the amount of the premium spent on clinical services and quality that is less than 85% for plans in the large group market and 80% for plans in the individual and small group markets. (Requirement to report medical loss ratio effective plan year 2010; requirement to provide rebates effective January 1, 2011)

  • Establish a process for reviewing increases in health plan premiums and require plans to justify increases. Require states to report on trends in premium increases and recommend whether certain plan should be excluded from the Exchange based on unjustified premium increases. Provide grants to states to support efforts to review and approve premium increases. (Effective beginning plan year 2010)
from Kaiser Family Foundation
これらの規定を執行するため、現在、各州の保険監督当局が、償還割合の実態を調査しているそうで、上記sourceでは、その結果概要が紹介されている。
  1. 改革法では、
    • 保険料収入から、支払った連邦税・州税は控除できる(→分母を小さくできる)
    • 医療の質の改善のための支出は償還費用として加算できる(→分子を大きくできる)
    と規定されている。

  2. 数値は定義次第で変わるものの、現在調査で利用している定義では、ほとんどの保険プランが規定をクリアできている。

  3. 例えば、昨年の実績でみれば、UnitedHealthでは、プラン全体で82.3%、WellPointでは82.6%となっている。
こうした記事をBusinessWeekが配信するのは、この規制により保険会社の利益が減少するのではないか、との思惑で保険会社の株価が下がっているからである。

一方、連邦政府としては、折角こうした規制を導入したものの、現状追認の効果しかない、ということになれば、何のために入れ込んだのか、という批判を浴びかねない。どうしてもそうなるということだと、再び改正法案を議論するということなのだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン

4月28日 アリゾナ州の不法移民対策 
Source :Arizona Gov. Jan Brewer explains signing nation's toughest illegal immigration law (Los Angeles Times)
今月下旬、アリゾナ州(AZ)で、相次いで不法移民対策が強化された。柱は次の2つ。
  1. メキシコ国境の警備強化
  2. 州内のセキュリティ強化
後者の方は、全米一厳しい内容と言われている。それは、警察官に誰何する権限を賦与しているからである。

こうした一連の規制強化は、2つの意味で課題を投げかけている(Los Angeles Times)。
  1. 個人の人権が守られるのか、という点である。警察官は誰何権限を与えられたとしても、何を基準に通行人またはドライバーを立ち止まらせ、身分証明書を提示するように求めるのか。不法移民ということから容易に想像がつくように、顔つきや肌の色が暗黙の基準になりかねない。

  2. 連邦政府と州政府の役割分担はどこまでなのか。国境警備の問題と、(国または州)境の内側に存在する不法移民の位置付けは、誰が決定するのか。
前者についていえば、日本では『職質』である。これは警察官の経験と勘に頼るものであり、日本の警察の優れた能力である。確かにアメリカ人警官には難しい問題かもしれない。

後者については、医療保険問題に続いて、連邦政府の義務/権限なのか、州政府の義務/権限なのか、という大きなテーマである。上記sourceを読む限り、AZ州知事の主張も、本来的には連邦政府の義務/権限なのだが、いつまでたっても有効策が採られないので、州民の安全を守るためにやむなく措置を講じた、というロジックになっている。

一方、連邦政府の方も、このAZ州の措置に危機感を募らせている。Obama大統領は、すぐさま市民権の保護に微妙な影響をもたらすとの懸念を表明している。また、White Houseも、国境問題や不法移民の法的位置付けは、州毎にバラバラの対応を取ることはまずいとの認識である。

こうした状況を踏まえ、以前からこの不法移民問題に積極的に取り組む姿勢を見せているObama大統領は、この問題の解決策に早急に取り組むよう、シグナルを発している。しかし、医療保険改革の時と同様、自らの案は示さず、有力議員からの提案を軸に議会で議論してもらいたい、というスタンスを取り続けている(Los Angeles Times)。

立て続けに難問の解決を突き付けられている連邦議会は、中間選挙までの時間が短いという制約のもと、超党派での法案提出を探りつつある。

以下、議会関係者のスタンス。 最後に、Calderonメキシコ大統領は、「AZ州法は差別や濫用につながる。同法違反で取り締まられたメキシコ人は、あらゆる手段を使って保護する」と発言している。まあ、大量に送還されても困る、というところが本音だろう。

こうした厳しい政治環境の中で、Obama大統領は再び手形を落とすことができるだろうか。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

4月26日 失業対策の特徴 
Source :Losing a Job during a Recession (CBO)
上記sourceでは、今回の経済危機の中での失業と、その対策について特徴をまとめている。
  1. 需要の変動に合わせて企業が雇用を柔軟に調整できることは、一般的かつ長期的にはアメリカ経済の強さの源泉と考えられている。

  2. 一方で、解雇された労働者が次の職を見つけるまでにかかる期間は長期化している。2003年に解雇され2006年1月までに就職した労働者を調査したところ、解雇から1週間以内に就職できたのが10%、1ヵ月以内が25%、6ヵ月以上かかったのが25%であった。今回の経済危機では、失業中の労働者のうち、失業期間が27週間を超えているのが44%に達している。

  3. 完全なレイオフの場合、地場産業が不況に陥っている場合には、次の就職先が見つかるまでの期間は長くなる傾向にある。

  4. 女性、高齢者、低学歴者は、レイオフされるとそのまま労働市場から退出する傾向が高まる。

  5. また非自発的失業の場合には、次の就職先が見つかったとしても、所得は減少する。長期的に見ても、解雇されなかった場合にくらべて約20%低くなる。

  6. 失業者に対する主な支援策は次の通り。

    1. 失業保険給付:標準は26週間の給付で、各州の規定や失業率によって13〜20週の延長給付が用意されている。一連の経済危機対策により、2009年2月〜2010年6月までは、これらの延長給付は連邦政府の負担となっている。

    2. 追加的失業給付:2010年6月2日までは、上記の失業保険給付の期間が終了してしまった労働者に対して、最大53週分の給付が行われる。給付内容は4段階に分かれる。
      @20週分:全州
      A14週分:全州
      B13週分:時期と各州の失業率による
      C6週分:時期と各州の失業率による

    3. COBRA保険料への補助(「Topics2010年4月23日 Medicare償還額削減問題」参照)
※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

4月25日 やはり医療費増大 
Source :Health Care Cost Increase Is Projected for New Law (New York Times)
CBOから、医療保険改革のもとでの医療費推計に関するレポートが公表された。上記sourceによれば、レポートのポイントは次の通り。
  1. 2010〜2019年の間の医療費は、医療保険改革により総額$311B、0.9%の増加となる。

  2. 無保険者のうち3,400万人が保険加入するが、2,300万人は無保険にとどまる。このうち、500万人は不法移民である。

  3. 保険加入者の増加により、連邦政府の支出は$828B増加する。そのうち半分はMedicaidの支出増である。Medicaid加入者は2,000万人増加し、2019年には8,400万人となる。

  4. 保険に加入しない者、プランを提供しない企業は、2014〜2019年で$120Bのペナルティを支払う。内訳は個人が$33B、企業が$87Bである。

  5. Medicareの効率化により、今後10年間で$500B以上が縮減できる。これにより、Medicare基金がゼロとなるのが2017年から2029年に延びる。

  6. 診療時の自己負担は、10年間で$237B削減され、総額$3.3Tとなる。

  7. 財政赤字は10年間で$143B削減される。
ところが、このレポートの主筆であるRichard S. Foster氏は、Medicareの支出削減は、『非現実的な想定』とコメントしているという。多くの医療機関が赤字に転落するためである。

そうしたコメントは、「Topics2010年4月23日 Medicare償還額削減問題」での議論からも容易に想像できる。医療保険改革を画餅に帰さないようにするためにも、正直な数字による政策論議が必要である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「Medicare

4月23日 Medicare償還額削減問題 
Source :Senate Delays Medicare Pay Cut to June 1 (Medscape Medical News)
今月15日、"Continuing Extension Act of 2010" (HR 4851)が連邦議会で可決され、即日大統領が署名し、発効した。当websiteとしての関心項目は次の2点。 ここでは、後者について、論点をまとめておきたい。
  1. Medicare償還額の伸び率は、SGR(Sustainable Growth Rate)と呼ばれる算定式で上限が設けられている。

  2. SGRは、GDP伸び率を説明変数としている。

  3. 仮に、実際のMedicare償還額の伸び率がSGRを上回った場合、その上回った分だけ翌年のMedicare償還額を削減しなければならない。

  4. 連邦議会は、2003年から、ルール通りの償還額削減を見送っている。その累積分は、2010年で21.2%にのぼる。仮に、上述のような法的措置を採らなければ、自動的に21.2%の削減を執行しなければならない。

  5. SGRルールを廃して、実際のMedicare償還額に合わせたルールにすべきとの提案はあるものの、仮にSGRを止めるとなると$210Bの財政赤字が発生する。

  6. 財政健全化のために"Pay-Go"ルールが定められている。ただし、特例があり、今後5年間、償還額を2009年水準に凍結すれば、"Pay-Go"ルールの適用は免れる。

  7. 5年間凍結した場合、2つの問題が発生する。
    1. およそ$82Bの財政赤字が発生する。
    2. 診療費用はその間増加し続け、償還額を削減する場合と同じになる。
Medicare償還額が削減されれば、Medicareの診療を止めてしまう医療機関が続出する。採算が合わなくなるからだ。かといって、償還額の伸びの抑制を怠れば、Medicare制度そのものの持続可能性が確保できなくなる。

国民にとって身近な大問題は、そう長くは先送りできない。

※ 参考テーマ「Medicare」、「解雇事情/失業対策

4月22日 保険料規制法案 
Source :Senate Bill Sets a Plan to Regulate Premiums (New York Times)
当websiteでも紹介していた、医療保険料に対する監視、規制の強化策が、連邦議会で議論される模様だ(「Topics2010年4月14日(1) 保険料の歯止めはどこに?」参照)。舞台は、上院HELP委員会(Committee on Health, Education, Labor and Pensions)。委員長はTom Harkin上院議員、法案提出者はDianne Feinstein上院議員である。

上記sourceによれば、法案概要は次の通り。 Harkin委員長によれば、個人保険市場で22州、小グループ保険市場で27州が、事前審査を必要としていない。こうした州を中心に、HHS長官が権限を行使するという訳である。

まだ法案が入手できないので何とも言えないが、仮にこうした法案が成立したとしても、やはり課題は残る。
  1. 医療費そのものの高騰が続けば、保険料は『正当に』引き上げられることになる。つまり、保険料そのものに関する規制が強化されても、大元のコストをコントロールできなければ、保険料の高騰は避けられない。

  2. そもそも、保険の監督は州政府の権限としてきた経緯がある。州のことは州で決めるという独立性の問題である。州の監督当局は、連邦政府に頭越しに権限を行使されることは好まない(Los Angeles Times)。しかし、今回の法案が成立してしまえば、州固有の権限が連邦政府に一部移されることになり、連邦政府と州政府の関係を変えてしまうことになる。
こうした大きな課題を抱えながら、医療保険改革論議は続いていくようである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル