11月29日 雇用の回復はいつ? 
Source :The Slow Road to Jobs (BusinessWeek)
今回の景気後退は、今年第2四半期で底を打ったと思われるが、急激な後退期間中に雇用者数は138Mから130Mに減少し、失われた雇用は、800万にも及ぶと見られている。

これらの雇用が回復され、景気後退直前の雇用数に水準を戻すまでには5年以上かかるのではないか、との見方が出ている。しかも、今以上に失業率が上昇する可能性もかなりある。

実は、景気後退によって失われた雇用を回復する期間が、次第に長くなっている。上記sourceに掲載されていた次の図が、それを端的に表している。
091125 BW RISEOFJOBLESSRECOVERY
今回は、これまで以上に雇用回復に時間がかかると言われている要因は、次の通り。
  1. 消費や設備投資の回復が非常に緩やかである。

  2. 経済の国際化や規制緩和が進んでいるために、企業のコスト競争が激化し、機械化や生産拠点の海外移転が進んでいる。

  3. 企業が求める職能と労働者の技能がマッチしていない。

  4. 企業がフルタイム従業員を増やす前にパートタイム従業員を増やそうとしている。
アメリカ経済は、民間消費が70%を占めている。そこで失業が高止まりすることの意味は重いと思う。医療保険改革も重要だが、経済の停滞が続けば国民生活全般が疲弊してくる。

※ 参考テーマ「労働市場

11月26日 VEBAへの拠出開始 
Source :Ford, GM Face $2.5 Billion First VEBA Bill (Workforce Management)
12月31日に、最初のVEBAへの拠出が予定されている。上記sourceで示されている情報を整理すると、次の通り。
FordNew GMChrysler
UAW退職者175,000493,00093,434
VEBA拠出金総額$13.2B$20B-
内 訳自社株:50%社債:$2.5B
優先株:$9B
社債:$4.6B
UAW VEBA株式持分-17.5%55%
第1回VEBA拠出金$1.9B$585M$315M
内 訳Cash:$1.3B
残り:自社株
--
支払い期限09/12/3109/12/3110/07/15
さて、厳しい経済情勢、新車販売台数低迷の中で、UAW VEBAは存続できるのか。しばらく見守っていくこととしたい。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost

11月25日 カトリック教会の政治課題 
Source :Religious Leaders Unite Against Abortion and Same-Sex Unions (New York Times)
上記sourceによれば、カトリック教会は政治的課題に関する主張を強め、連邦議会、州議会への圧力を高めている。その主な政治課題は、次の3つ。
  1. 同性婚
  2. 中絶
  3. 宗教の自由
さる11月20日には、これら3点を強調した"Manhattan Declaration : A Call of Christian Conscience"という運動まで開始しているという、力の入れ具合である。

同性婚、中絶問題についてカトリック教会の圧力が各方面で強まっていることは、当websiteでも紹介しているところである。

そうした中で公表されたReid法案に対し、カトリック教会は強烈な批判的コメント(“enormous disappointment”)を公表している。そのポイントは次の通り。
  1. 我々はReid法案に深く失望しており、大幅な修正を行なうべきである。

  2. 中絶に関する規定は、Obama大統領が『現行法通り、連邦政府の資金を中絶に使わない』と約束した内容と異なっている。

  3. また、他の保険プラン加入者に中絶の費用を上乗せしていることになる。

  4. Medicaidの資格要件をもっと緩和すべきである。

  5. 合法移民が連邦政府の医療給付を受けるために5年も待たされる制度は廃止すべきである。

  6. 不法移民であっても、自己資金であれば保険プラン購入を妨げるべきではない。
つまり、可能な限り医療保険加入者を増やすべきだが、(公費の入った)保険プランで中絶をカバーすることは許さない、と主張しているのである。ここまで強い主張があるからこそ、リベラル派頭目のPelosi下院議長だって、念には念を入れて"Stupak修正条項"を認めたのである(「Topics2009年11月13日(1) カトリック教会の圧力:医療改革法案」参照)。

折しも、医療保険改革に関する世論調査では、11月に入って「支持する」割合が明確な減少傾向に入っている(pollster.com)。実質あと1ヵ月で連邦議会は成案をまとめることができるのだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交」、「同性カップル」、「移民/外国人労働者

11月23日(1) 上院審議開始 
Source :Senate Votes to Open Health Care Debate (New York Times)
21日(土)夜8時前、上院での医療改革法案(HR 3590)の審議開始が決定した。投票結果は、60 vs 39と党派ラインにそったものであった。

異例なのは、審議開始の投票に土曜日夜までかかったことである。その最大の要因は、民主党上院議員がなかなか賛成票を投じなかったことにある。

その中でも最も激しく抵抗していたのが、Blanche Lincoln上院議員である。彼女は、公的プランの創設に強く反対している。今回の審議開始の可否を問う投票では、ようやく賛成票を投じたものの、『公的プランの創設には反対であり、Reid法案には賛成しない』と明言している。Mary Landrieu上院議員、Ben Nelson上院議員、Joseph Lieberman上院議員(I)も、同様の立場を表明している。

Nelson、Landrieu両上院議員は、Snowe上院議員(R)が提案している"trigger条項"に期待を寄せているが、当のSnowe上院議員は、『交渉は具体的な形にならねばならないのに、何も示されていない』と冷淡な反応を示している(Washington Post)。

このほか、中絶の扱いなど、価値観に関する課題も残されている。

審議開始の投票にこれほど手間取った法案はなかったのではないだろうか。Reid院内総務は、クリスマス前の可決を目指すが、まだまだ課題は多いようである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

11月24日(2) 下院・Reid法案比較 
Source :Comparing the House and the Senate Health Care Proposals (New York Times)
上記sourceでは、下院で可決された法案とReid院内総務が提出した法案との比較が行われている。
主要項目 細 目 下院法案 Reid法案
個人の責務 保険プラン加入義務
ペナルティ 一定額(個人:$9,350/夫婦:$18,700)以上の調整総所得(adjusted gross income)の2.5% 2014年:$95/人
2015年:$350/人
2016年:$750/人
一家族当たりの上限:$2,250
購入可能なプランの価格が所得の8%を超える場合は免責。
免責規定 American Indian
宗教的理由による加入拒否
経済的理由を証明できる場合
同 左
企業の責務 Pay-or-Play 給与総額$500,000以上の企業は、医療保険プランを提供するか、さもなくば連邦新税を負担する。 明文規定なし。ただし、拠出義務が設定されている。
プラン提供判定基準 政府で示された最低基準を満たす保険プランの保険料のうち、個人加入の場合は72.5%、家族加入の場合は65%を企業が負担する。
-
ペナルティ 給与総額$500,000〜750,000の企業:給与の2〜6%
給与総額$750,000超の企業:給与の8%
フルタイム従業員50人以上の企業で、従業員の一人でも"exchange"を通じて政府補助の入った保険プランに加入した場合:フルタイム従業員一人当たり$750を拠出
Exchange 設立主体 全国版のexchangeを創設する。
連邦政府の承認を条件に、州政府は独自のexchangeを運営できる。
州政府が独自のexchangeを創設する。
複数州の共同設置・運営を認める。
個人参加資格 企業提供プラン、公的プランの加入資格を持たない国民
同 左
企業参加資格 初年度:従業員25人以下の企業
第2年度:従業員50人以下の企業
第3年度:従業員100人以下の企業
最終的にはすべての企業の参加を認める。
従業員50人以下の企業。ただし、州政府が認める場合には従業員100人以下の企業。
2017年以降は、州政府の判断に基づき、すべての企業の参加を認める。
公的プラン Opt-out
×
○(州政府の立法措置)
診療報酬 医療機関との交渉(Medicare診療報酬は利用しない)
同 左
財 源 保険料が基本。
連邦政府は、創設のための初期費用$2Bを拠出。
非営利共済プランへの借款も用意。
-
個人への補助 税額控除 中低所得者層が"exchange"を通じて保険プランを購入した場合、税額控除を認める。
同 左
対象者 FPL400%以下(4人家族で年収$88,200)
同 左
企業への補助 税額控除 従業員25人以下かつ平均給与$40,000以下の小規模企業に税額控除を認める。
保険料の50%を上限とし、従業員数、平均給与が増えるに従って減額する。
平均給与$80,000を超える場合は認めない。
従業員25人以下かつ平均給与$40,000以下の小規模企業に税額控除を認める。
保険料の50%を上限とし、従業員数、平均給与が増えるに従って減額する。
退職者プランへの補助 2013〜2015年で、$15,000を超える医療費について、80%を補助する。
補助額の上限は$90,000。
2013年以降、$15,000を超える医療費について、80%を補助する。
補助額の上限は$90,000。
Medicaidの拡充 加入資格拡充 FPL150%以下(4人家族で$33,075) FPL133%以下(4人家族で$29,327)
新規加入者数 1,500万人 1,400万人
連邦政府補助 最初の2年間:新規加入者分の100%
その後:新規加入者分の91%
最初の3年間:新規加入者分の100%
2016年以降:新規加入者分の90%
保険プラン最低基準 基礎的プラン 保険で70%をカバー。その他は免責額、窓口負担等でカバー。 保険で60%をカバー。その他は免責額、窓口負担等でカバー。
他のプラン "Exchange"でほかに3つのプランを提供。最高95%を保険でカバー。 "Exchange"でほかに3つのプランを提供。70〜90%を保険でカバー。
保険規制 加入・保険料 病歴・健康状態によって、保険加入を拒否したり、保険料を高く設定してはいけない。
同 左
高齢者の保険料 若年者の倍以上にしてはいけない。 若年者の3倍以上にしてはいけない。
独禁法の適用
被扶養者の対象拡大 年齢要件の引き上げ 26歳まで 25歳まで
介護保険の創設 加入者 任意加入
同 左
保険料 保険料収入で運営。給付は一日あたり$50。 保険料収入で運営。給付は一日あたり$75。
最低加入期間 5年
-
中絶の扱い 中絶への給付 各保険プランは中絶への給付を含めるかどうか選択できる。 各保険プランは中絶への給付を含めるかどうか選択できる。
各州で、含めるプランと含まないプランを最低一つずつ用意する。
中低所得者層 連邦政府の補助を受け取る場合、中絶を含むプランを選択できない。 連邦政府の補助を受け取っても、中絶を含むプランを選択できる。
ただし、保険会社は連邦政府補助金を別勘定とし、中絶には保険料収入と自己負担分のみをあてる。
公的プラン 中絶はカバーしない。 中絶をカバーするプランを提供しても構わないが、民間プランと同様、中絶に連邦政府補助金をあてない。
不法移民 "Exchange"への参加
×
連邦補助金
×
-
政策効果 必要総額 $1.052T/10Y $849B/10Y
財政赤字削減額 $139B/10Y $130B/10Y
無保険者割合 4%(2019年) 6%(2019年)
財源対策
-
・調整総所得で夫婦$1M、個人$500,000を超える部分に5.4%の課税。2011〜2019年で$460B。

・医療器具の売り上げに2.5%課税。2013〜2019年で$20B。

・Medicare等公的プログラムで、10年間で$404Bの削減。
・高額保険プラン(個人:$8,500以上の保険料、家族:$23,000以上の保険料)に40%の課税。2013〜2019年で$149B。

・保険会社$6.7B/Y、医療器具会社$2B/Y、製薬会社$2.3B/Yを拠出。2010〜2019年で$100B。

・Medicare等公的プログラムで、10年間で$436Bの削減。

・$250,000以上の所得について、Medicare保険料の個人分を1.45%から1.95%に引き上げる。2010〜2019年で$54B。

・美容整形に5%課税。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

11月21日 Reid法案 
Source :Senate Democrats Unveil Health Bill With Public Option (New York Times)
19日、ついにReid院内総務が、医療改革法案を公表した。名前は、"Patient Protection and Affordable Care Act"(HR 3590)。上記sourceおよび概要版によるポイントは次の通り。

  1. 公的プラン

    新たに公的プランを創設する。民間保険会社と競合するようにする。各州が、州法により不参加を選択することを認める。

  2. "Exchange"

    2014年に"exchange"を創設する。内容は下院法案と同様だが、創設を遅らせることにより、10年間のコスト推計を減らしている。

  3. 中絶への公費制限

    下院法案ほど厳しい制限は設けない。公的プランで中絶が保証対象となった場合、保険料収入分と公費を明確に分離するというファイアウォールを設ける(Washington Post)。

  4. 保険加入義務

    保険加入義務は課すものの、ペナルティは下院法案よりも軽いものとする。2014年からペナルティを課し、当初は$95、その後次第に引き上げて、2016年には$750、家族の負担上限額を$2,250(3人分)とする。

  5. 企業の拠出

    明確に企業に医療保険プラン提供義務("Pay-or-Play")を課すわけではないが、従業員50人以上で医療保険プランを提供していない企業の場合、従業員が補助を受けると従業員一人当たり$750/Yを拠出する(実質的な"Pay-or-Play")。

  6. Medicare

    高額所得者のMedicare保険料(個人負担分)を引き上げる。個人で$200,000以上、夫婦で$250,000以上の所得について、1.45%から1.95%に引き上げる。これにより、10年間で$54Bの増収となる。企業負担分は1.45%で据え置く。

  7. 高額保険プラン課税

    企業が提供する高額プランに新たに課税する。課税対象は、個人プランで$8,500、家族プランで$23,000以上とする。

  8. 保険会社、製薬会社による拠出

  9. 美容整形課税

    美容整形に5%課税する。患者負担が原則だが、医療機関から徴収する。

  10. 政策効果(CBO推計

    費用総額は10年間で$848B。財政赤字削減幅は10年間で$-130B。無保険者(不法移民を除く)は17%(2010年)→6%(2019年)。
この法案を本会議で審議するかどうかの投票は、金曜日または土曜日に行われる予定だ。それまでに整わなければ、異例の感謝祭休暇中の投票も検討される。

少なくとも3人の民主党上院議員が、Reid院内総務の提出する法案を支持するかどうか、確約していない。しかし、本会議での審議をブロックするところまではしないであろうと思われる。中身で反対するならともかく、審議入りを阻止することは、上院議員としてはあまり名誉なことではないからだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル