Mercerが実施する調査の中間とりまとめによれば、企業が負担する医療ベネフィット・コストの増加率は、来年わずかに鈍化する見通しである。こうなると、企業負担の伸びは抑えられるものの、従業員負担の伸びはかなりのものになると思われる。今回の原油高、ガソリン高はアメリカ社会で大変な問題になっているのに、医療費高騰、特に従業員負担の増加はあまり声高に指摘されていない。まだまだ従業員負担を増やす余地はあるとの共通認識なのだろうか。
2000〜2004年は2桁、2005〜2008年は約6%の伸びを示し、2009年は5.7%となる見込みである。コストの伸びが収まるとはいっても、物価上昇率よりはまだまだ高い。
このように伸び率が鈍化する理由が2つ挙げられている。
- 59%の企業が、免責額、窓口負担割合、従業員保険料負担割合、自己負担上限額の引き上げなどにより、従業員負担を引き上げる。
- 19%の企業が、HSAを含むCDHPを導入する。
401(k) Debit Cardの話題が続いている。
上記sourceで、そもそもの由来が401(k)Loanの管理コストを節約することにあったことを初めて知った。そんな便利なツールであるが、そこには3つのリスクがあるという。結論として、返却率の低い従業員が多い場合には、401(k)Loanを提供することは望ましくない。クレジット・リスクが低く、十分な金融知識を持つ従業員が多い場合には、401(k)Loanの提供を検討してもいいのではないか、としている。
- 401(k)Loanの返却を怠ると、引き出し額が所得とみなされて所得税が課されるうえに、10%のpenalty taxが課される。
- 401(k)Loanの返却は課税後所得によることになる。つまり、有税で積み立てなおすことになる。
- 借り出し額が大きくなると、借り手の退職後所得は急速に減価する。
401(k)Loanのプログラムを提供するかどうかも企業の裁量に任せられているらしい。企業が適切な判断をしていれば、禁止法案(「Topics2008年9月8日 401(k) Debit Card禁止法案」参照)などは出てくることはなかったであろう。
先に紹介した"401(k) Debit Card"(「Topics2008年8月6日 401(k) Debit Cardsに警告」参照)について、Debit Cardを通じたローンを禁止する法案(S.3278)が提出されている。提案者は、民主党2人(Charles Schumer、Herb Kohl)、共和党1人(Gordon Smith)となっており、一応超党派の提案となっている。
この2年間で、Debit Cardを通じた401(k) loan件数は、2〜3%伸びているとの推計(Investment News)もあり、やがて社会問題化するものと思われる。
NY州とMA州で、別々に行われた制度変更が、大きな波紋を広げている。両州の制度変更を合わせ技にすると、NY州の同性カップルがMA州で婚姻すれば、NY州で正式に婚姻関係にあることが認められることになる。
NY州 : 他州で行われた同性婚姻を認める MA州 : 『MA州に居住する意思がなければ、他州の州民の婚姻を認めない』との州法条項を無効にする
MA州の法律改正は、7月に成立し、即日施行となったため、この夏、NY州の同性カップルの間では、MA州への旅行がブームとなっているそうだ。
MA州では婚姻届が受理され、婚姻証明書が発行されるまでに3日間かかる。ところが、他州の州民の場合には、さらに3日かかり、都合6日間滞在する必要がある。このため、観光業界が思わぬ特需で潤っているという。ある推計では、今後3年間で、と見込んでいるらしい。
- 32,000組の同性カップルがMA州に訪れる
- そこから$111Mの支出が見込まれる
- 州政府には、売上税、婚姻証明書発行料として、合計約$5Mの収入が入ってくる
MA州の観光業界は思わぬブームで潤うことになるが、大変なのは企業である。これで同性婚が増えることにより、医療保険プランに関する取り扱いが複雑になり、さらに慎重な運営が必要となる。
The Metropolitan Corporate Counselの資料"Marriage, Civil Unions, Domestic Partnerships and Health Insurance Benefits"によれば、企業が医療保険プランを提供する場合、同性カップルに関連して注意すべき法制は、次の3つと指摘している。
- ERISAにはpre-emption規定があるものの、保険プランについては州保険法が優先適用される。ただし、self-insured planの場合には、州保険法は適用されない。
- 10の州が同性婚を認知している。これらの州では、同性婚の配偶者に、異性婚の場合と同様のベネフィットを提供しなければならない。
- 州独自の差別禁止法により、上記と同様のベネフィット提供を求められている場合がある。
Fordについても、VEBA設立の裁判所認可が下りた。GMについては、7月に既に認可が下りていたらしい(「Topics2008年3月6日(2) GM-VEBAの司法手続き」参照)。今回はこの事実確認のみ。
参考までに、両社の株価チャートは次の通り。 ⇒ GM Ford
こういう言葉があることすら知らなかった。積極的に転職活動を行わないが、有能で、ヘッドハントしたくなるような人材、ということらしい。上記sourceでは、"Holy Grail"とまで評されている。日本語で言えば、「金の草鞋で捜せ」ということだろう。
その理由として、次の2点が紹介されている。もちろん、転職市場に出てこない人がすべて有能というわけではない。むしろ逆の場合も多い。そういう中から逸材を探し出し、ヘッドハントすることはなかなか難しいというわけだ。
- 現在の職場で満足しているため、忠誠心が高く、安定志向と考えられる。
- 新たな職を積極的に捜すことはないので、なかなか転職市場に現れてこない。
では、人事担当者はどうすればいいのか。長期的な視野で、ブログやEメールなどを通じて情報発信をしていくしかない、ということのようだ。そういう地道な活動をしていれば、"passive candidate"が転職を考え始めたときに、彼ら自身からコンタクトを取ってくる可能性が出てくるというわけだ。
随分と気長な話だが、アメリカの人材ビジネスには、そうした長期的な戦略もあるということなのだろう。