4月20日 MCIとして再登場 Source : WorldCom Fades Into History (Washington Post)

当websiteでも追いかけてきた、WorldComの再建問題だが、約350億ドルの負債を軽減することでようやく調整が整い、20日には正式にChapter 11から浮上することとなったそうだ。再建手続きに入ってから21ヶ月を要したのだが、それでもEnronよりは早く脱出することができたようだ。

今後は、かつての子会社であるMCIとして、再び長距離電話市場で活動することになる。HPから転出したCapellas(「Topics2003年4月9日(2) HPのGolden Parachutes」参照)は、いよいよ正念場を迎えたことになる。

4月16日 処方薬輸入法案の新規提出 Source : Press Release (Senator Chuck Grassley)

上院財務委員長であるChuck Grassleyが、4月8日、処方薬再輸入法案を提出した。Grassleyといえば、Medicare改革法案の両院協議会で、病院への償還金の配分でごねた有力者である(「Topics2003年8月28日 Medicare改革法案で共和党内輪もめ」参照)。また、これまでも処方薬再輸入法案には、賛成をしてきている。ただし、問題となったMedicare改革法案に関する両院協議会では、上院・下院ともに賛成していた再輸入に関する項目を落としてしまっており、Grassleyが本気で推してきたのかどうか、定かではない。

さて、同法案は、初めて具体的な施策項目を含む本格的な法案であり、その意味で、注目しておくべきであろう。また、今後いくつか提出されるかもしれない法案のプロトタイプとなる可能性がある。上記sourceによる法案のポイント概要は、次の通り。


と、まとめてみたところで、 別の分野の仕組みに似ていることに気付いた。アメリカの会計・監査基準である。

Enron事件後、企業不正防止法が成立し、その成果の一つとして、PCAOBという組織が新設された。このPCAOBは、企業の財務報告の質を確保するため、監査法人の監視を行う機構である。アーサー・アンダーセンがEnronと癒着していたことへの対応策である。

日本企業でも、アメリカ証券市場で上場しているためにアメリカ会計基準を利用している企業は多く、こうした日本企業の財務諸表を監査する日本の監査法人は、アメリカのPCAOBに登録しなければならないことになっている。現段階は、国内外の監査法人がPCAOBへの登録を申請している段階であるが、近い将来、PCAOBは、監査法人の監査の質が確保されているかどうかを検査することとなる。それは、アメリカ国外の監査法人であっても例外ではない。つまり、アメリカ国内で投資家の目に触れる財務諸表の質を確保するために、アメリカ国内のルールや基準の域外適用を行おうとしているのである。

こうしてみると、上記の輸入処方薬の安全性確保のための仕組みとよく似ている感じがする。

施 策
処方薬の輸入
監査法人の監視
所管機関FDAPCAOB
目 的処方薬の安全性確保会計情報の適正性確保
域外適用の対象海外の製薬工場・在庫・輸送過程海外の監査法人
適用基準アメリカ国内基準またはそれと同等の外国基準アメリカ基準
検 査FDA検査官PCAOB検査官
域外適用に伴う費用登録輸出者の登録料登録外国監査法人の登録料

何ともよく似た仕組みではないだろうか。特に、アメリカ国内の問題を解決するための諸施策を実施する際、海外であろうと、アメリカ国の権限を与えられた機関が直接検査しようとするところに、特徴があると思う。

これが欧州や日本の公的機関であれば、まずは相手方の当局との協力関係で解決する方が良策と考えるだろう。実際、欧州委員会も、アメリカと同様の監査法人監視の仕組みを検討しているが、そこでは、相互主義の考え方から、外国企業の監査を行っている監査法人への監視については、当該企業の属する国の仕組みを尊重するとしている。国の権限を有する機関が外国でその任を執行しようとすれば、外国当局からは主権侵害というクレームがつくことが予想されるからである。

しかし、今のアメリカは、そのような配慮は後で問題が発生したときに検討すればよく、まずは国内ルールの適用が優先されるべきと判断しているのであろう。こういう発想を「汎アメリカ主義」と呼ぶのだろうか。制度間競争に勝利を収めつつあるアメリカが、国内ルールを輸出しようとした時、他の先進諸国は主権を盾にすることもできない状況が生まれつつあるのかもしれない。

もっとも、主権を主張することで自国企業や国民の利益を奪うこともあり得る。例えば、日本の製薬会社がアメリカで適格と判断される処方薬を安価で輸出できるとしたら、FDAの検査も甘んじて受けようとするかもしれない。それを主権を盾に厚生労働省が阻止することが、国としての利益になるのかどうか。もちろん、主権を行使しないことによる長期的得失も検討しておかなければならないのは当然である。

EU市場の統合を例にとるまでもなく、グローバルな経済活動の広がりは、国家主権をも乗り越えようとしているのかもしれない。

4月14日 大統領はひっそりと署名 Source : Bush Signs Corporate Pension Aid Bill Into Law (LA Times)

上院が年金救済法案を可決した2日後の10日(土)、Bush大統領は同法案に署名した。これで、2年間、アメリカの企業年金プランの拠出額はかなり抑制されることになる。

面白いのは、タイトルに書いた通り、Bush大統領は、ひっそりと署名したようなのだ。通常、重要法案が成立する際には、関係議員や団体の代表が集まって、大々的な署名式を執り行うのが常なのだが、今回の署名については、White Houseのwebsiteにすら掲載されていないのである(4/14時点)。

その意味するところは、次の2点であろう。
  1. 政府内部に不満が残っている。PBGCは、特定業界や特定企業を手厚く救済する内容に反対の立場をとっていた。

  2. 企業の間にも不公平な扱いであるとして反対が根強い。確定拠出プランしかない企業や、対象とならない業種からは反対意見が表明されている。

このように、筋は通っていないわ、反対も根強いわ、で、あまりはしゃぐアイテムではない、ということなのだろう。

また、下院、上院とも、民主党から多数の賛成票が入ったため、選挙広報上もあまりポイントにはならないという計算もあろう。ここで注意しておきたいのは、上院で反対票を投じたのは、民主党幹部であったということだ(Washington Post)。反対に言えば、多くの一般議員は、選挙のことを念頭に、賛成に回ってしまった。ちなみに、Kerry大統領選候補は、反対票を投じたようだ。Teamstersという労組団体が法案に反対していることを見越して、筋を通したということだろうが、選挙にどういう影響が及ぶか、興味深いところである。