Topics 2003年6月11日〜20日     前へ     次へ


6月14日 Genericは特効薬か?
6月16日(1) Medicareが処方薬をカバー
6月16日(2) 日本が先行する企業年金
6月17日 処方薬Medicare法案への反応
6月19日 下院委員会もMedicare処方薬法案を可決


6月14日 Genericは特効薬か? Source : Generic Drugs (AARP)
上記Sourceは、AARPという高齢者を代表する団体が、genericについてまとめたレポートである。その概要は次の通り。

1 処方薬の小売のうち、約半分(2001年)がgeneric(後発薬)であるが、売上額では17.8%(2000年)にすぎない。

2 Genericが薬価、処方薬代に与える影響
  • Genericの価格は、参入時にbraned(新発薬)の70〜80%だが、genericメーカーの参入が進めば、40%以下に下がる。
  • CBOの推計によれば、brandの代わりにgenericを使用することで、年間約8〜10億ドルが節約された(1994年)。
3 FDAの承認
所管官庁であるFDA(Food and Drug Acministration)からgenericの承認を得るためには、次の2つの基準をクリアしなければならない。
@FDAが承認したbrandと有効成分が同じであること。
Abrandと同じ効能を持つこと。
4 Genericの安全性と有効性
Brandと同じ効能を持つことになっているために、有効性はbrandと同じである。しかしながら、ある患者にとってgenericが適切ではない場合があり得る。例えば、brandのコーティングでは何もないのに、genericのコーティングにはアレルギーを起こす場合があり得る。
5 Genericに関する州法
処方者がgenericではだめだと明記しない限り、どの州でもgenericの使用を認めている。
6 保険者、消費者の態度
一般的に、保険者はgenericの使用に反対しない。消費者も同様だが、特定の病気を持つ患者達を代表する団体などでは、薬剤師がgenericを処方する前に処方した医者に確認を取るよう求めている。
医療費、薬剤費の高騰を抑制するためにgenericを活用すべきだという議論があるが、こうして見ると、その効果は極一部に限られてしまうようだ。薬剤費の抑制については、まだまだ工夫が必要と言わざるを得ない。

6月16日(1) Medicareが処方薬をカバー
 Source : Senate Panel Approves Medicare Plan With Prescription Coverage (Washington Post)

65歳以上の高齢者を対象とした公的医療保険Medicareが、ついに処方薬をカバーすることになりそうだ。医療保険改革で、Bush大統領が提唱してきた課題(Topics 3月4日(2)「Bush大統領の医療改革提案」参照)が、実現しそうである。

12日夜、上院財務委員会が、Medicareの保険対象に処方薬を加える法案を可決した。上院のMajorityを確保する共和党だけでなく、多数の民主党議員が賛成に回ったことで、がぜん現実味を帯びてきたのである。同時に、下院でも同様の法案を審議中であり、このまま順調に進めば、両院協議会での一本化を経て、夏の休会前に、大統領に送られることになる。もともと大統領提案の主旨にそった法案となっているため、両院協議会さえ通過すれば、成案の可能性は高い。

両院の審議中の法案は次の通り。

Medicare改革法案(上下院案比較表)
上院案下院案
プロバイダー民間保険民間保険
保険料($/月)3535前後
免責額($/年)275250
保険カバー率 $276〜4,500 50%
$4,501〜5,800  0%
$5,801〜    90%
 $251〜2,000 80%
$2,001〜5,100  0%
$5,101〜    100%
その他低所得者にはさらなる補助あり夫婦で12万ドル以上の所得がある場合、
100%カバーの下限が引き上げられる
コスト総額10年間で4,000億ドル


これを見ての感想(順不同)。

  1. 民主党としては、バイ・パルティザンで処方薬を通したとして、医療保険改革に熱心であるとアピールでき、共和党は、民間保険を通じた拡大ができたことで、大統領公約を守れる。ここに妥協が成立したのだろう。

  2. 政府コストは10年間で4,000億ドルと大きい。これをSocial Security Taxの増税ではなく、税金で賄うことにしたのがちょっと邪道。だれが負担しているのかが不明確になった。

  3. Bush大統領というのは、こういう国内問題について、どこでどのように民主党とわたりをつけているのだろうか。長年の懸案事項がずいぶんと短期間に決着をみている。どうも見ていると、議会共和党に任せてはいないような気がする。不思議に妥協を生み出すのがうまい。
この妥協が、Bush大統領のポイントとなって大統領選に勢いがつくのか。それとも、医療に熱心な民主党にポイントが入って、大統領候補選びに拍車がかかるのか。大いに楽しみである。

6月16日(2) 日本が先行する企業年金 Source : Pensions in the balance (Binghamton Press)
上記Sourceによれば、IBMのキャッシュバランス制度への移行に伴う、年齢差別禁止法基づく訴訟に、間もなく結論が出るという(キャッシュバランス制度については、「Topics 2002年12月11日 Cash Balance と年齢差別禁止法」を参照)。

IBMのケースは、その判定が下れば、ある程度の前進となるだろうが、一般ルールの確立となると、なかなか進捗していない。上記の参照をみてもわかるとおり、昨年末、IRSが示したDBからCBへの移行ルール案は、経営者、従業員両方からの強烈な批判を受けて、差し戻し状態となっている。早くてもこの夏にしか、再提案は示されないとみられている。

この一般ルールが決まらない限り、さらなるCBへの移行はおぼつかない。逆に、行政がストップをかけてしまう前にCBに移行した325社はずいぶんと得をしたことになる。

他方、日本では、確定給付企業年金法制定時にCBが認められたが、さる5月末より、大幅な規制緩和が認められ、キャッシュバランス類似型という、運用実勢に応じて給付が変額する制度が認められた。これは、金利変動リスクを回避するという意味では、かなり画期的であり、本家のアメリカをしのぐ革新性を持っている。

そのように革新的な制度を導入できたのは、古くから日本の確定給付企業年金に、「ポイント制」という独特の累積方法が認められていたからだ。このポイント制は、CBやDC(確定拠出型)の導入のための下地としては大変有効であったことは間違いない。規制の強い厚生行政のもとで、日本の企業は大変な努力をしてきていたのである。

なお、キャッシュバランス類似型に関しては、ドクターkuboの「世界最新の企業年金制度の発進」(住信年金ジャーナル増刊号(Vol. 3, May 2003))解説をぜひご一読いただきたい。

6月17日 処方薬Medicare法案への反応

「Topics 6月16日(1) Medicareが処方薬をカバー」で紹介した、Medicareによる処方薬カバー案について、各方面から反応が出されている。ここでは、順不同で、そのポイントをまとめておく。

長年の課題は、やはりそう簡単に決着がつくものではないようである。16日、上院本会議は、この法案の審議を開始した。

6月19日 下院委員会もMedicare処方薬法案を可決
 Source : Lower Costs, Innovative Health Care Guaranteed to All Seniors Under Medicare in House Plan (House Committee on Ways and Means)

議会におけるMedicare改革関連法案の動きが急ピッチになっている。17日、下院のthe Ways and Means Committeeは、処方薬をMedicareでカバーするための法案を、25対15で可決した。民主党からも賛成に回った議員が出たようだ。

上下院案の比較表を改めると、次のようになるようだ。

Medicare改革法案(上下院案比較表)(改訂版)
上院案下院案
プロバイダー民間保険民間保険
保険料($/月)3535前後
免責額($/年)275250
保険カバー率 $276〜4,500 50%
$4,501〜5,800  0%
$5,801〜    90%
 $251〜2,000 80%
$2,001〜5,150  0%
$5,151〜    100%
その他低所得者に補助あり低所得者に補助あり
夫婦で12万ドル以上の所得がある場合、
100%カバーの下限が引き上げられる
コスト総額10年間で4,000億ドル10年間で4,130億ドル


また、下院案では、2010年以降、伝統的なMedicareプログラムと民間保険プランとの間の価格競争を導入すると規定している。民主党議員は、この競争条項を取り除こうと修正案を提出したようだが、共和党議員の反対多数で否決されてしまった。

どうも、民間保険プランへの誘導(上院案)、民間保険プランとの競争の導入(下院案)といったところが、民主党議員の反発をかっているようである。Bush大統領は、競争の導入までは提案しておらず、今後は、このような条項の扱いを巡る駆け引きが、議会両院、大統領府の間で行われることになるのだろう。

ちなみに、上院では、18日、政府の役割(=支出)を増やそうとする民主党議員案が否決された。いよいよ上院では大詰めを迎えている。

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