5月29日 不法移民の経済インパクト Source : The Immigration Debate (Wharton School)

移民法の改正を巡って、連邦議会では激しい論戦が続いている。当websiteでは、政治的な動向について静観を続けてきたが、ここに来て、ようやく論点を整理した記事が出てきたので、そろそろ追跡を始めたいと思う。

上記sourceは、Wharton Schoolの教授陣の意見を、公平にまとめたものであるが、一つのschoolの中でも、移民対策については意見がまとまらないようである。

まず、不法移民に関するfact findingについて。
  1. 2005年時点で、全米で11.5Mから12Mの不法移民が滞在しているとみられている。2000年時点での推計値は、8.4Mであり、急増していることがわかる。

  2. そのうち、メキシコからの不法移民が、約6.2M、56%を占める。その他のラテンアメリカからの不法移民が、2.5M、22%を占める。

  3. 2005年時点で、不法移民就労者は、7.2Mにのぼり、全米民間労働者148Mの約5%を占める。

  4. 不法移民就労者のうち、約19%が建設業、15%が製造・修繕業、4%が農業に従事している。

  5. また、全農業従事者のうち24%が不法移民であり、クリーニング業では17%、建設業では14%、食品サービス業では12%が不法移民となっている。
こうして不法移民就労者が大きな割合を占めつつある事態に対して、現実にアメリカ国民が就労しようとしない業種にとっては不法移民が不可欠になっているとの見解がある一方、Cappelli教授は、不法移民就労者に対して厳しい見方を示している。
  1. アメリカ国民はこれら業種に就くのを拒否しているのではなく、他の業種にないほど低い賃金で、危険を伴う職場では働きたくないだけである。

  2. 多くの事業主は、不法移民を雇うことで、コストを抑制し、設備投資をせずに済むのである。

  3. では、もし明日にでもすべての不法移民就労者がアメリカを去ったとしよう。そうすれば賃金は上昇し、職場環境は改善され、新たな労働者が雇われることになる。

  4. 合法的に入国したとしても低技能者であれば、不法移民同様に賃金抑制の効果をもたらすことになる。しかし、大きく異なるのは、合法入国者は招かれて入国しており、少なくともその低技能が求められていることである。

  5. 低技能のアメリカ人労働者を優遇したいのであれば、不法移民を減らすべきである。
このように厳しいスタンスを取る側からは、不法移民就労者を雇う事業主には、厳しいペナルティを課すべき、という政策提言が出されている。一方、事態はそれほど深刻ではなく、むしろテロ対策として不法入国者を抑制すべきという立場からは、国境線の防御を優先せよとの意見が出てくる。すると、国境線を不法に越える事が厳しくなればなるほど、いったん入国した不法入国者は、二度と母国に戻ろうとはしなくなり、却って不法移民を抱え込むことになる、との意見が出てくる。

大学の政策論争でも堂々巡りが続いているようであり、実際の政治の舞台ですっきりとした結論が生み出せないのも当然である。移民の国が不法移民に困惑するという事態は、当分続くことになるのだろう。

5月23日 Health Information Technology Source : HEALTH CARE SPENDING AND USE OF INFORMATION TECHNOLOGY IN OECD COUNTRIES (The Commonwealth Fund)

i医療費の抑制の鍵は、医療情報のデジタル化にあることは、ほぼ常識になりつつある。アメリカは、IT利用度が高いものと思い込んでいたが、それはどうも誤解のようである。

上記sourceでは、OECDのリポートを引用して、アメリカの一人あたり医療支出は、OECD諸国の中位値の2.5倍になっているのに対し、HITの利用は他の諸国に遅れている、と指摘している。例えば、次の表を見ればわかるように、HIT活用のための投資額、国民一人当たり投資額は、他の諸国を大きく下回っている。

OECD

もっとも日本はもっと遅れているのだろうけれど。

上記sourceでも指摘されているように、HIT活用のためのインフラ整備が遅れているのは、プロバイダー間のデータ交換に問題があることによるらしい。データ交換のためのプロトコールの開発に、一時的な公費を投じることも真剣に検討すべきなのだろう。