Topics 2002年4月1日〜10日    前へ    次へ


10日 Severance Pay Plan
9日 Generics
8日 景気回復への道筋
5日 National Workplace Napping Day
4日 Social Security Reform
3日 薬価の抑制
1日 Shareholder-Services Firm


10日 Severance Pay Plan Source : 文末参照
アメリカの企業には、Severance Pay Planという制度がある。辞書には「退職金」とか「退職手当」などと説明している。字義通りにはそれで間違いないが、日本企業にある退職金、退職手当とは、だいぶ性格を異にしている。Severance Pay Planには、日本の退職金のようなRetirement Paymentの性格、企業年金に代わるものという性格はまったくない。従って、「離職手当」くらいの訳の方が、実感として近いと思う。以下、このSeverance Pay Planの特徴についてまとめておく。

@ Severance Payを提供するかどうかは企業側の判断次第
法律上、企業がSeverance Payを支払わなければならないという義務はない。あくまで企業が任意に設定できる制度である。また、制度の廃止も企業側の任意である。

A Severance Pay Planが適用されている従業員は22%
アメリカ労働省(DOL)の「Employee Benefits in Private Industry, 1999」によれば、Severance Pay Planが適用されている従業員は、全体の22%となっている。職種では、専門職・技術職は36%が適用となっているが、blue collarやサービス職では14%のみ。また、業種別では、金融業(44%)、製造業(31%)で高く、建設業(6%)、小売業(13%)で低い。従業員規模別では、規模が大きくなるほど、適用率は高い。1〜49人では10%、2500人以上では53%。

B対象者は、laid-offの場合が多い
あくまでも企業側が任意に制度設計するのが原則である。このため、同じ企業内でも、特定の職種、階層のみを対象にすることは可能である。また、多くの場合は、laid-off(非自発的離職者)を対象としている。また、一定の勤続年数を必要とする場合もある。

C支払金額は在職期間とsalaryに応じて
これも企業側の任意であり、一定の方式があるわけではないが、例えば、在職期間が1年多くなる毎に1週間分のpay check相当分を加算する、といった事例が多い。ただし、一定の上限額を設けているのが一般的。また、所得税の課税対象となる。

DERISAの対象となる
制度の導入、設計はあくまでも企業側の任意だが、一旦制度が導入されると、その制度は、企業年金と同様、ERISA(Employee Retirement Income Security Act)の対象となる。従って、自動的に各州の州法の対象とはならない。対象者は、ERISAの要請により、制度の概要等をパンフレットやハンドブックの形で知らされなければならない。

E企業側を訴えないとの誓約書を求められる
これも企業によって異なるが、Severance Payについて、受け取ったあとで企業側を訴えないとの誓約書に署名を求められることが多い。ただし、各種差別禁止法違反の場合は、誓約書署名後でも訴訟可能。

Fその他のbenefitとのパッケージになっている場合もある
lay offの場合、Severance Pay以外のbenefitと一緒になった、Severance Packageとなっている場合がある。Packageの内容は、例えば、医療保険の継続、再就職のための相談・支援など。

G条件交渉はリスキー
lay off通告に伴い提示されたSeverance Payについて、従業員側から改善要求することは可能である。ただし、その場合、企業側から提示された条件を破棄した上で反対提案を行ったとみなされ、反対提案が実らなかった場合には、最初の提案分も受け取る権利を失う可能性がある。


今回の景気後退期に、アメリカ企業は、このSeverance PayとRetention Bonusを駆使して、リストラと業績回復、場合によっては企業再生に取り組んでいる。

*参考にしたWebsite* *Severance Paymentに関連した報道記事*

9日 Generics Source : The High Cost of Drugs Brands vs Generics (AARP)
上記Sourceは、保存の関係で、読みやすいように編集してあります。オリジナルは、http://www.aarp.org/bulletin/departments/2002/medicare/0405_medicare_1.htmlです。
3日のTopics 「薬価の抑制」で、処方薬の価格抑制が政策課題になってくると書いたが、まさに、発言すべき団体が発言したというレポートだ。AARPとは、American Association of Retired Personであり、prescription drugの価格高騰に直撃される人達のための団体だ。また、アメリカには、Medicaidという低所得者向けの医療保障制度があるが、これは州政府が運営しているため、州知事達も大変な関心を寄せている。

このレポートでは、薬価抑制には、genericの市場参入を促すのがよいとしている。何せ、genericが市場参入すると、その価格は、2年半から3年で20%程度にまで落ちてくるのだから。



対するbrand-name drug makerの拠り所は、patentとlobbyingだ。特に、patentの延長については、あらゆる法の抜け穴を利用しているとのことだ。嘘みたいな話だが、generic makerに金を払ってまで、genericの参入を阻止しようとするそうだ。もっともこれは、独禁法違反になりかねないが。

それにしても、上の図のように価格が下がるのなら、どんどんgenericを、と言いたい所だが、それでは、製薬メーカーの研究開発意欲が大幅に削がれてしまう。この問題は日本でも同じで、日本では「後発品」と呼ばれる製品が出回ると、薬価基準が下がってしまい、日本の製薬メーカーの研究開発が抑制されてしまう。日米の製薬メーカーのR&Dの規模は相当異なるとは思うが、原理は同じだ。私はどちらかというと、patentはなるべく長く保った方が、結果的には多くの便益が生じると思うが、アメリカのように、まったく価格に抑制措置が効かない市場でそれが本当によいのかどうか、まだ判断はできていない。

なんだか、だんだん厚生労働省のお先棒のようになってきたので、変な気分だが、医療の世界で市場原理の筋を通そうとすることは本当に難しい。

8日 景気回復への道筋 Source : Mild Job Growth Eases Rate Worries (Rueters), Unemployment Rises to 5.7 Percent (Washington Post)
アメリカの今年3月の失業率が0.2%上昇して、5.7%となった。



にもかかわらず、エコノミスト達は、景気回復について極めて明るい見通しを示している。その理由を挙げてみると、 今回の景気循環では、『大量のlay off → 事業内容・規模の見直し → 生産性の向上 → 労働時間の増加+派遣社員の増加』という道筋を辿ってきている。もちろん、この間に極めて堅調な消費、FRBの11回にわたる金利切り下げ、2回の減税効果があったわけで、これらがうまくかみあって早期の景気回復に向かっているものと思われる。

もしこのまま景気回復が実現したら、日本が学ぶべき点が3点あると思う。
@企業経営でも経済政策でも思いきった策を講じること。とりあえず嵐をやり過ごそうという問題先送り型対応は、企業・経済全体の立ち直りそのものも遅らせる。ハードランディングこそ、立ち直りの早道である。
A公定歩合の水準を早く正常に戻し、景気循環に対応できる手段として改めて位置付けること。
B雇用の形態を多様化させること。派遣社員、パートタイムの雇用者が増えることで、企業は景気循環に柔軟に対応できるようになるとともに、産業構造の変化のスピードを高めることができる。


次回のFRB会合は5月7日に予定されている。どのようなコメントが示されるのか、注目してみたい。

5日 National Workplace Napping Day
Source : Is It Ok to Nap at Work? (Sacramento Bee)
     Sleep Deprivation Affects Workplace(SHRM)
National Workplace Napping Dayというのをご存知だろうか?今年は、4月8日(月)で、通算3回目だそうだ。

職場で仮眠をとりましょう、という運動をしている夫婦が定めた記念日である。昼食後、眠くなってしまう、または居眠りをしてしまう、というのは、誰でも経験のあるところだろう。それを、経営者はもっと推奨した方がよいというのだ。

彼らの理屈によれば、『眠くなるのは体内リズムのせいである。人間の体は、午後2時〜4時の間に体温が下がるリズムになっているので、眠くなるのは仕方のないこと。眠いのに無理やり仕事をしたり、眠気覚ましのためにコーヒーをがぶ飲みするのは、生産性の面でも好ましくなく、むしろ、経営者は15〜20分の居眠りを推奨した方がよい』というのだ。

では、なぜ4月8日なのか?今年のアメリカの夏時間が7日(1:59→3:00)に始まるため、日曜日には国民全員が睡眠時間を1時間損する。この記念日は、毎年、夏時間開始後の最初の月曜日と定められている。

ちなみに、2時〜4時に眠くなる、というのは、The National Sleep Foundation (NSF)という、お医者さん達が集まって運営しているまじめな非営利団体が、その根拠を示している。このNSFも、睡眠が大事という「National Sleep Awareness Week (April 1-7)」なるキャンペーンを実施中だそうだ。 上記Sourceは、いずれも、企業のHR部門の担当者を対象としているもので、まじめに紹介しているものと思われる。何ともありがたい提案である。どうも、春眠暁を覚えずは日米共通らしい。ぜひ日本でもと切に願うところだが、やはり、裁量労働制が定着しているアメリカならではの発想なのだろう。


4日 Social Security Reform Source : NPR Bipartisan Poll on Social Securitiy (NPR)
(注:上記Sourceは、内容変更はしておりませんが、ファイル保存の関係上、表示方法を変更しています。オリジナルのWebsite addressは、http://www.npr.org/news/specials/polls/april1/index.htmlです。)
昨日(3日)のTopicsで、『国内問題では、Social Securityの個人勘定導入について、共和・民主両党の間に隔たりがあり、民主党側は争点にしようとしているが、肝心の国民の間にはそれほど大きな問題として認識されていない。』と書いてしまったが、ちょっと勇み足だったかもしれない。

上記Sourceは、NPRが実施したRetirement Financeに関する調査結果だ。NPRとは、National Public Radioの略で、全米640の公共ラジオ放送局のネットワークだ。アメリカの公共ラジオ局は、1920年代に、大学が教育目的で開設したのが始まりだそうだ。私が利用しているNPRは、Washington DCにあるWAMUで、American Universityが運営している。日本でも、AFNで、NPRのニュースを放送している

前置きが長くなったが、この世論調査の特徴は、次の2点である。
結果は上記Sourceの通りなのだが、簡単に要約してしまうと、国が給付を約束する部分を減らして個人勘定を創設するよりは現行制度を維持した方がいいとの意見が過半数になっているものの、個人勘定創設そのものには賛成が多く、自らも個人勘定を選択すると応えている。また、Enron問題とSocial Ssecurity Reformの関係については、共和党の主張への支持が過半数となっている。

昨年12月に、CSSS(大統領年金改革諮問委員会)が、改革案を3つ提示し、個人勘定の創設を進めるべきだとの提言を行ったが、ちょうどEnronの倒産とそれに伴う401(k)プラン崩壊の嵐の只中だったため、共和党側には、Social Security Reformで中間選挙は戦えなくなったとの認識が強まっていた。これに対して民主党側は、Enron問題をてこに、積極的にSocial Security Reformを政策論争の俎上に乗せ、国民の支持を得ようという作戦であったようだが、この世論調査結果を見る限り、民主党の主張は国民の支持を得られていない。

NPRは、中間選挙に向けて、引き続きこの調査を随時行っていくようなので、注目しておきたい。


3日 薬価の抑制 Source : Rising Drug Costs a Powerful Issue for National and State Politicians
3月29日のTopics 「Prescription Drugs」で紹介したNIHCMの調査レポートは、大きなインパクトがあったようだ。New York Timesが、4月1日に、フォローアップ記事を掲載した(上記Source)。

この記事によれば、連邦レベルだけではなく、州レベルでも、薬価の抑制について検討が行われているらしい。薬価の抑制の方法については、 などの方法があるらしい。

これに対して、製薬メーカーは、lobbyingの強化と広告で対抗するとのことだが、この広告がまた批判を浴びている。盛んに薬の効果を宣伝するために、必要のない人まで欲ししてしまう、広告宣伝料がさらに価格を引き上げる等々。世論調査でも、製薬メーカーの研究開発は世の中に貢献しているという理解はあるものの、価格面で利用者に優しくないとされている。

国内問題では、Social Securityの個人勘定導入について、共和・民主両党の間に隔たりがあり、民主党側は争点にしようとしているが、肝心の国民の間にはそれほど大きな問題として認識されていない。他方、この薬価問題は、国民のポケットを直撃する問題であるために、民主・共和両党とも、何らかの対策を打ち出して、選挙戦を有利にしようと考えているに違いない。要注意のテーマである。

別の話題だが、401(k)プラン改正法案について、上下両院の有力法案と現行法との比較表が、ASPAから公表されている。Easter休み明けの議会では、さらに激しい論戦、または水面下での交渉が繰り広げられることだろう。参考まで。

1日 Shareholder-Services Firm Source : Player in the Proxy Wars (Washington Post)
3月11日のTopics 「(2) Pension Fundの投資行動」で、Institutional Shareholder Services (ISS)という会社が、委任状に関するアドバイスを提供していることを書いたが、上のSourceは、そのIISについて、解説した記事だ。内容は記事の通りで、私が付記することは何もないのだが、驚いたのは、この企業は、実はERISAの関係から、サービスを始めたと言うことだ。

記事によれば、1980年代後半から1990年代初めにかけて、アメリカ労働省(DOL)が、年金基金のマネジャーに対して、委任状の取り扱いについて、投資家(受益者)保護の観点から充分に注意するように喚起したことから、このビジネスが成り立つようになったという。

日本の企業年金についても、これまでのように、信託・生保にお任せでは済まなくなってきている。制度設計の変更等については、専門の年金コンサルタント会社がでてきているし、運用についても、日立製作所のように、自ら投資顧問会社を設立して、運営にあたるところも出てきている。特に、運用については、80年代までのように、右肩上がりの一本調子ではなくなっているし、低金利も加わって、各ファンドとも、相当な知恵を必要としている。他方、確定拠出年金法、確定給付企業年金法が施行となり、企業年金制度に様々な変更が加えられるようになると、従業員の年金に対する意識もどんどん高まっていくものと思われる。

そういった環境の中で、従来のように、資産管理会社、すなわち信託銀行や生保に、保有株式の株主としての権利執行を任せていることはできなくなるだろう。特に、日本では、これらの資産管理機関は、他方で多くの企業に融資を行っている。いくら言葉では分離していますといっても(生保の場合は、一般勘定なら分離もしていない)、利益相反が発生する可能性が高い。日本でもそろそろこういうビジネスを立ち上げる人が出てきてもいいのではないだろうか。特に、資産運用や企業分析の世界で実力のある人にとっては、絶好のチャンスだと思う。