Topics 2002年2月1日〜10日 前へ 次へ
10日 失業保険の抑止力
9日 職場恋愛はご法度?
7日 議会証言
6日 生産性の向上
5日(1) 大統領予算教書
5日(2) 401(k)プラン改革 大統領提案(その3)
4日 401(k)プラン改革 大統領提案(その2)
2日 ワークシェアリング
1日 401(k)プラン改革 大統領提案
10日 失業保険の抑止力 Source : Unemployment Insurance (EBRI)
EBRIでは、適宜、Facts Sheetという資料を公表している。2月は「失業保険の仕組み」だ。これについては、私が作成した資料の31ページに、概要を掲載しているので、これも参考にしていただきたい。
2001年3月から景気が後退局面に入り、September 11以降、大量のLay offが続いている。失業率も一気に高まり、もはや死に体となってしまった景気対策でも、失業対策が課題となっていた。その主な課題は次の3点。
1 失業保険の財源の手当て
2 失業期間中の医療保険への補助
3 失業者に対する職業訓練プログラム
このうち、3点目は、1月29日の「若者受難の時期」で触れたところだ。第1点目は、NY州とテキサス州の失業保険給付の財源は、あと数週間で枯渇してしまうと見られており、その財源の手当てを連邦政府が補助するのか、貸し付けるのか、議論が行われているところである。第2点目は、共和党、民主党でまったく異なる手法が主張されている。共和党は医療保険料の税額控除を主張しており、民主党は直接補助を提案している。これもなかなかまとまりそうもない議論だ。
ところで、アメリカの失業保険は、大方の考え方は日本のそれとよく似ており、それほど目立った違いがあるわけではないが、一点だけ、注目すべき点がある。それは、各企業に適用される保険料率が、過去の保険給付実績によって異なっているということだ。これはExperience ratingと呼ばれている。簡単に言ってしまえば、Lay offをすればするほど、つまりかつての従業員が失業給付を受ければ受けるほど、料率が高くなるのだ。
こういう仕組みは、アメリカでは珍しくない。保険という仕組みであるから、危険率が高くなればなるほど料率が高くなるのは当たり前、ということだ。預金保険では、自己資本比率が低いほど料率が高くなる。確定給付年金の支払保証制度では、積立資産が少なければ少ないほど保険料率は高くなる。こういう仕組みを「可変料率」と呼ぶ。失業保険もこの可変料率を採用しているわけだ。
日本では、こうはいかない。自己資本比率が低い銀行ほど、年金積立資産が少ないところほど、体力がないのだから、払えない。一律の料率が適用され、結果としてまじめにやっているところ、体力があるところがたくさん保険料を払って、事故に対処するということになる。
話題がそれてしまったが、失業保険が可変料率になっていることで、経営者がLay offを少しでも抑制しようというインセンティブが働くのかどうか、興味のあるところである。こんなところでいくら抑えたって、会社が傾いてしまえば何もならない、という危機感の方が強いのではないかと憶測するが、今後、この点について研究した論文があるのかどうか、調べておきたい。
ただ、苦しい経営環境になると、すべてのアメリカ企業がLay offを実施しているわけではない。有名な例では、サウスウェスト航空がある。この30年間、一度もLay offを実施したことがないそうだ。その理由として、同社が失業保険料率を挙げているわけではないので、何とも言えないが、大量のLay offと採用増を繰り返している他企業と比較すれば、その保険料負担には大きな格差が生じているものと推測できる。
日本でも、ただの精神論で「雇用の維持」と唱えつづけるのではなく、経済的なインセンティブを工夫して、その方が労使とも得になるという方向に導くような制度を検討すべき時期に来ているのではないかと思う。
9日 職場恋愛はご法度? Source : Most Companies Don't Bar Office Romance (Plansponsor)
この記事によれば、ほとんどの企業は、職場恋愛に関する規定を持っていない、もしくは禁止していない。しかし、現場監督者のexecutive達の6割は、職場恋愛を禁止すべきだと考えているそうだ。その理由は、破局した場合に、職場の雰囲気が悪くなるということだ。
まあ、日本でも、職場恋愛はご法度という企業がまだまだあるようだが、私の身の回りでよく聞くのは、職場恋愛の末に結婚したとしても、両方とも大事な人材なので、夫婦ともに働けるように工夫しているというものだ。かつての日本では、「職場結婚→女性の退職」というケースが当たり前のように思われていた。それが、今ではかなり変わってきているように感じる。企業の方は、職場恋愛、職場結婚がどうかという形式よりも、実際に企業にとって必要な人材なら、いろいろな工夫をして引き止めようとしているのではないかと思う。
私が驚いたのは、アメリカの著名な団体やマスコミが、いまだに職場恋愛についてどうするか、という議論に関心を持っている事である。「効率性、生産性を重視する」という観点からすれば、そんなことはどうでもよくて、生産性があがればそれで結構、落ちているなら減俸にするか、昇進はないか、退職してもらうか、ということではないかと思っていた。まして、恋愛という個人のプライバシーの領域に、管理職や人事部門が関心を持つなどということは想像もしていなかった。
上司達が職場恋愛は好ましくないと思っていることの反映だろうか、アメリカでも出会い系サイト、独身者のパーティ、デート指南などのサービス産業が大流行りだそうだ。ちなみに、このWashington Postの記事で紹介されているアンケート調査によれば、カップルが初めて出会った切っ掛けは次のようになっているそうだ。
共通の友人の紹介(23%)
学校(19%)
バー、パーティ、ナイトクラブ(15%)
仕事(13%)
Blind Date(第三者の仲介によるデート)(2%)
7日 議会証言 Source : Statement by Dallas Salisbury (EBRI)
Enronである。Enron問題は、大きく分けて、4分野にわたっている。
・会計監査
・企業年金
・エネルギー政策および取引規制
・政治資金
私は、エネルギー政策についてはほとんど知らないので、あまり断言はしにくいが、それでも敢えて言わせてもらうと、この中で最も危機感を感じているのは、会計監査の問題だ。もし、監査法人と企業がぐるになって市場に嘘をついているとしたら、市場参加者は一体何を信じて投資すればよいのか判らなくなってしまう。資本主義の危機といってもいいだろう。5大会計事務所は、これまでコンサルタント業務の分離に反対してきたが、ここに来て相次いで切り離しを宣言している。身から出た錆といえばそれまでだが、長年続いてきた論争に自ら結論を出さざるを得なくなったのは皮肉である。
話題がそれてしまったが、これほど問題が多岐にわたっているため、2月に入って、議会はEnron関係のHearingがいくつも開かれている。例えば、企業年金関係では、今日の上院のCommittee on Health, Education, Labor, and Pensionsのスケジュールは、こんな具合だ。またまた話題がそれてしまうが、このように世間が注目しているHearingに呼ばれるかどうかは、数多あるシンクタンクにとっては大変重要だ。日頃からの調査研究はもちろんのこと、議会・議員スタッフ、行政府との水面下での付き合いも大切だ。私が在籍しているEBRIも、上記上院委員会で本日(7日)説明することになっているため、所長、スタッフは昨日までかなり忙しかったようだ。議会でのTestimonyの内容は、議会のWebsiteはもちろん、シンクタンク自身のWebsiteでも必ず掲載されている。
話題を戻して、企業年金関係の議会証言で、目立ったものをピックアップしておく。それぞれの簡単な内容を付してリンクを張っておきますので、もし興味があったらご覧ください。
Chao労働長官(下院Committee on Education and Workforce)(2/6)
ERISAの歴史から401(k)プランの現状、Enronのプランの問題点などを簡単に整理している。もちろん大統領提案をサポートしている。
American Benefits Council(上院Committee on Governmental Affairs)(2/5)(PDF)
401(k)プランを提供している企業の代表として意見を述べている。自社株への投資割合への規制に大反対。
Susan Stabile, Professor of Law at St. John’s University School of Law(上院Committee on Governmental Affairs)(2/5)
自社株への投資割合を規制しろと主張。それによって企業が年金制度をやめることはないとの見解を示している。
Employee Benefit Research Institute(上院Committee on Health, Education, Labor, and Pensions(2/7)(PDF)
401(k)プランの自社株投資の実態、Blackoutの現状、規制の法制化に対する企業の意見などについて、アンケート調査をもとに説明。
最後に、CRSから、Enronの企業年金プランに関する調査報告書が2本(The Enron Bankruptcy and Employer Stock
in Retirement Plans(1/23)、The Enron Collapse(2/4))出ていますが、その中に、こんな表がありました。
下院Committee on Education and Workforceの委員長である、John Boehner議員(R-Ohio)の地元には、この表に出ているP&GとKrogerがあるそうだ。こんな企業からも、当然陳情が入っていくのでしょうね。
6日 生産性の向上 Source : Productivity Rises 3.5 Percent (Washington Post)
アメリカ経済の強さを垣間見た感じだ。この記事によると、2001年第4四半期の生産性は年率3.5%上昇となり、2001年全体では1.8%の上昇となった。大量のLay offを実施したのだから、当然といえば当然だが、これは必ず次の経済成長に結びつくのである。
第1に、企業の生産性が高まるということは、収益率が高まり、株価の上昇につながる。こうなれば、企業の方も積極的な投資に転じることができる。
第2に、生産性向上は、販売価格を上げずに賃金を高めることができるため、賃上げが物価上昇につながらず、実質的な購買力向上につながる。これは、現在のグリーンスパンFRB議長が最も重視する理屈である。生産性向上を伴う景気上昇は、インフレに直結しないため、金融引締め策をとらなくてもすむことになる。
景気が悪くなると、すぐに事業を見直し、それに伴う人員整理をする。とてもドライな経営だが、結局は早期の景気回復につながっているのではないか。
翻って日本の状況を見ると、リストラ、大量解雇が、まるで悪魔か伝染病のように恐れられている。政府も企業経営者も、失業者が増えることに責任を取らされてはならないと、必死になって雇用を維持しよう、または維持しようとするポーズをみせている。しかし、事業の見直し=リストラがない限り、企業は本格的に復活できない。必要な人材とそうでない人材を選別しなければ、競争に勝てない。企業が元気にならなければ、経済全体も回復しない。こんな単純な理屈が、日本の社会では大きな声で言えないところに、どうしようもない焦燥感を持ってしまう。
5日(1) 大統領予算教書 Source : FY2003予算教書 (OMB)
4日、大統領予算教書が公表された。予算教書そのものは相当大部のもので、上記サイトには全文掲載されているものの、PDF形式で数10MBにも及ぶので、できれば紙ベースの冊子か、CD-ROMで購入する方が望ましい。お忙しい方で、どうしても2003FYの全体像が簡単に知りたいという人は、上記サイトのBudget Highlightを見るといいだろう。3枚で全体像が示されている。
これを読めば一目瞭然、戦時体制予算である。防衛費が大きな伸びとなり、Homeland Securityに注力している。
その中で、労働市場関係で目立った項目は次の3点である。
1 失業中の低中所得者に医療保険税額控除を認める。
2 低所得者のMedicareの処方薬について、補助する。
3 若年者向けの職業訓練プログラムを大幅に縮小する。
上記、1、2は、早くも民主党から、全然足りない、役に立たない、と批判されている。上記3は、特に、州や自治体から、縮小反対の声が上がっている。今回の予算教書では、労働省関係の予算が大幅に減っている。しかも、失業保険給付の急増に伴う支出増が含まれた上で、さらに減額になっているのである。
上記3は、非効率なプログラムを整理統合した結果というのが、大統領府の説明だが、イメージが悪い。先月29日分のTopicsでも取り上げた通り、失業率が高まっている中で、特に若年層の失業率が極めて高いのだ。彼らが再就職するためには、失業となった原因、つまり技能と経験を積ませるしかないのだが、そのための公的プログラムを縮小しようという提案なのだから、地方の自治体は反発するわけだ。
確かに今回の予算教書では、Agencyの効率性をチェックするシステムを導入し、無駄な予算を削ろうという意思表示が明確にされている。戦時体制予算を組もうとすれば、あちこちにしわを寄せざるを得ず、すこしでも反発を抑えるためには行革の姿勢を明確にする必要がある。その流れの中で、若年者向けの職業訓練プログラムが整理されたのだろうが、景気浮揚のために必要となる若年者層の再就職活動を、この整理されたプログラムで支援できるのかどうか、大いに議論してもらいたいものである。
5日(2) 401(k)プラン改革 大統領提案(その3)
Source : Cardin, Portman Weigh In Again (Plansponsor.com)
下院のBen Cardin (D-Maryland) 議員と Rob Portman (R-Ohio)が、"Employee Retirement Savings Bill of Rights (ERSBR)."という法案を提出するそうだ。内容的には、先の大統領提案をほぼ踏襲しているようだ。実質的には、この法案が下院での議論の中心となるのだろう。
ただし、決定的に違う点がある。それは、改革対象を401(k)プランだけでなく、ESOPにまで拡大している点だ。「1日分 401(k)プラン改革大統領提案」の感想の第1点目で指摘したことが、本当に今後の議論の争点になりそうだ。上記記事によれば、労働長官は、大統領提案は401(k)プランのみと解釈しているという。企業、特にESOPを実施している企業にとっては、重大な制度変更になりかねず、今後の経済界の動向がますます注目される。
特に注目したいのは、中小企業の意見、またはかつて中小企業であった大企業の意見である。ESOP制度は、従業員の退職後所得の原資という意味はもちろんあるが、それ以外にも、従業員と株主の利益相反を解消する、従業員に経営への参加意識を持たせる、敵対的買収を未然に防ぐ、資金調達の負担を軽減する、といった様々な側面があり、これは未上場の企業にとっては魅力ある制度だからだ。ある意味、80年代後半からにわかに活躍が注目されてきた新興企業は、このESOPを相当程度利用しているはずだ。退職後所得の確保という観点からだけの議論ではすまないと思われる。
なお、Plansponsorから、401(k)プラン改革大統領提案が事業主にとってどういう意味を持つのかという解説記事が出ているので、これも参考にしてください。
4日 401(k)プラン改革 大統領提案(その2)
Source : President Outlines Pension Protection Plan in Radio Address (White House)
1日に掲載した大統領提案の概要が、改めて公表された。上記のWebsiteは、2日に大統領が行ったラジオ演説の原稿である。ここで、大統領は、やはり6点の提案をしている。1日掲載分の内容とほぼ同じだが、第4点目のblack out期間中の損失補填義務については明確にしていない。しかし、2月1日に大統領府が公表した資料には、この4点目が明確に記載されているので、全部丸印付となる。現時点での大統領提案は、1日掲載分の6点と考えておいてよさそうだ。
日本では、こういう資料がなかなか入手できない。首相の各省庁への指示の内容、与党合意事項など、様々な折衝の結果や政治トップからの指示が正確に報道されない。新聞社も、手許に持っていても、それをそのまま転載することをあまりしない。だから、例えば、2003年の健康保険本人負担割合について、法案に明記するかどうか、いまだにもめている。
政策決定や検討プロセスが明確にならないのは困る。結局、誰が責任を取るのかが曖昧になってしまうからだ。アメリカでは、Enron問題をめぐり、CBOがWhite House(チェイニー副大統領)を訴えることを検討している。昨年まとめたエネルギー政策方針をめぐり、その過程でEnronが政治的影響力を行使したのではないかと疑われているのだが、その検討過程で作成された資料の公表を、White Houseが拒否しているからだ。
大方の見方では、White Houseに分がありそうだ、とのことだが、裁判に訴えてでもその検討過程を明らかにさせようという議会の圧力には凄まじいものを感じる。日本の議員内閣制では、こうはいかないだろう。
2日 ワークシェアリング Source : 「雇用の現状と制度改革に関する緊急アンケート調査」結果について
ワークシェアリングという言葉が普及し始めている。私が最初にこの言葉を耳にしたのは、80年代前半で、オランダで行われている、というものだった。
日本でも、このワークシェアリングについて研究されている学者も多数いると思うが、これがにわかに一般社会でも普及し始めた。長びく不況の中で、賃上げ、ベア要求もままらない組合としては、格好の材料だ。リストラに対する世間の同情もあるし、「雇用は企業の社会的責任」という意識は、まだまだ経営者の中に根強い。奥田日経連会長も、その可能性について検討をしてもいいのではないか、と発言している。
そこでこのアンケート調査の実施となったのだろうが、経団連が行ったこの調査によれば、大企業の85%は、ワークシェアリングに否定的であるとのことだ。これは当然のことだろう。経団連という市場原理、競争原理を重視する企業集団の中で、このような考え方を取ることは、即負け組への転落を意味することとほぼ同じだろう。
私は、環境の激変に対応するため、一時的に急場をしのぐ措置としては、やむを得ないと考える。例えは悪いが、雪印乳業のような事件が起きて、一時的に供給量が激減したような場合、そのために大量解雇を行うのではなく、急場はワークシェアリングでしのいで、一年後には通常体制に戻す、というようなことは考えられると思う。
私がワークシェアリングに否定的な考えを持つ理由は、次の3点である。
1 従業員のディスインセンティブになる。みんなで仕事を分け合うということは、誰がやっても同じといわれているのと同じであり、本当に能力があったり、やる気のある従業員、つまり企業にとって最も大事なHuman Resourcesにとって、マイナス効果をもたらす。
2 コスト抑制効果が薄い。毎月の賃金については抑制できたとしても、社会保険料や福利厚生費などは、大幅に削減できないため、むしろ生産高あたりの人件費は高まる可能性がある。
3 本質的な企業のリストラクチャリングを先送りさせる。企業の存続の目的が、利潤の追求ではなく、雇用の維持の方にウェイトが置かれれば、それだけリストラが遅れ、結局は市場に残れなくなる。
アメリカの企業では、不況化でワークシェアリングをしようという考え方は皆無だ。まずは雇用数を調整し、事業の見直しを行うことから始まる。むろんワークシェアリングという考え方そのものがないわけではない。民主党よりのシンクタンクでは、研究は行われているが、実際に企業で行われることは今のところないということだ。
実は、アメリカ企業では、実質的にワークシェアリングを実施しているのではないかと感じている。それは雇用形態の多様化だ。企業側は、職種によって、また従業員のライフスタイルによって、様々な雇用関係をなしている。そうする中で、9時から5時までフルタイムで働けない人達も多数雇用しており、これが結果的にはワークシェアリングにつながっているのだと思う。
日本でも、たくさんの企業が市場に残るためには、先の見えないワークシェアリングよりも、雇用形態の多様化への道を急いだ方がいいと思う。
なお、参考までに、日刊ゲンダイが実施したアンケート調査では、ワークシェアリングに肯定的な意見が7割を占めたそうだ。
1日 401(k)プラン改革 大統領提案
Source : Remarks by the President at 2002 "congress of Tomorrow" Republican Retreat Luncheon (White House)
一般教書でも触れられた401(k)制度の改革だが、今日(1日)、大統領改革案が発表された。主なポイントは、次の6点。(ただし、実際にブッシュ大統領がスピーチで触れたのは丸印のみ。その他は、Reuters、The Washington Postの観測記事より。)
@ プラン加入期間が3年を越えれば、企業側から拠出された自社株を他の資産に転換できる。
A Blackout期間中は、従業員(plan participants)と同様、企業幹部についても保有する自社株の売却を禁止する。
Blackoutとは、401(k)プランの運営管理機関(record keeping等)を変更する場合、システムを入れ替えなければならないため、数日間、従業員の資産の転換を停止する措置のことをいう。一般的に行われきた措置だが、Enronの場合、このblackoutの期間が従業員の間に周知されていなかったことにより混乱が生じた。また、本当にこの措置が必要だったのか、株価急落を食い止めるための偽装工作ではなかったのか、などの疑問が残っている。
B Blackoutの開始30日前に、従業員にblackoutを実施する旨通知する。(このような義務規定は今まではなかった。)
4 これらの規定を企業が怠った場合、blackout期間中に被った従業員の資産の損失は企業側が補う義務を負う。
5 企業は、従業員に対し、四半期毎に、個人勘定の資産内容、資産残高などを通知する(現行は1年毎)とともに、自社株から他資産への転換の権利の有無、分散投資の重要性を周知させる。
6 従業員が投資アドバイスを受けられるよう、企業側に促す。(この場合、投資アドバイスが従業員の利益に忠実であることが前提となる。)
この内容を見ての感想を5点。
1 企業拠出による自社株の転換を認めさせるというのは、かなり画期的な提案である。企業側からすれば、自社株による拠出はキャッシュフローを伴わないため、非常に安価にできる拠出である。これを一定年齢まで保有させることで、安定株主つくりにも役立っていたわけだ。この条項がESOP (Employee Stock Ownership Plan)にも適用されるのかどうかが注目点である。もし、適用されるということになれば、ESOP制度は実質上崩壊だろう。企業側からESOPを提供するメリットが大きく減ってしまうからだ。もし、ESOPに適用しないということになれば、401(k)プランからESOPへの転換を試みる企業が出てくるだろう。
2 Blackoutについては、誠にごもっともな提案である。Enron年金で国民の怒りを買っているのは、従業員の資産はBlackoutということで停止しておいて、企業幹部はストックオプションの行使で売り抜けた事例があるからだ。しかも、普通の企業であれば、上記A、B、4は、あまり痛みがないだろう。企業側も納得しやすいと思われる。政治的には、かなりの高得点をあげたのではないか。
3 上記4の損失補填がもし本当に提案されるとしたら、これもまた画期的である。DCプランにおける損失補填は、これまでまったくない制度だからだ。ただ、行き過ぎることも懸念される。実際、DCプランの支払保証制度を検討すべきだというMiller (D-CA)法案が、1月29日提出されている。
4 Boxer-Corzine法案などで提案されている、401(k)プランの資産に占める自社株の割合に上限を設けるという点が、見事に落ちている。これは技術的に見てもかなり難しいと指摘されており、経済界はこぞって反対している。商工会議所は、関係の団体と協調体制を組んで反対に当たっている。こんなことは、患者の権利法の審議中でもなかったことだ。商工会議所等が、自社株割合規制と、上記1の自社株転換規制の緩和を、どのように評価するのか、今後の動向を注目したい。
5 投資アドバイスについても、経済界の意向を汲んでいると思われる。労働組合や消費者団体は、利益相反の可能性があるとして、この条項に強く反対してきた経緯があるからだ。こうして考えてみると、上記1も経済界は既にOKを出しているのかもしれない。
いずれにしても、これらの大統領提案を実現するためには、両議会がこれら内容を盛り込んだ法案を可決する必要がある。そのために、今日、大統領は、共和党議員達の前で、提案を披露し、協力を仰いだわけだ。議会では、Enronに対する選挙区民の意向を反映して、次々と改正法案が提出されており、それらと大統領府提案との間の調整が必要だ。今年11月の中間選挙をにらみつつ、政治折衝が続くこととなろう。